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ギネヴィア様のエスコートはどなたがされるんですか?

「ところで、ギネヴィア様のエスコートはどなたがされるんですか?」


 結局、ギネヴィア様のお嫁入りの話は全然まとまってない。

 未婚で婚約者のいない兄弟……となると、ファビアン殿下?


「まだ調整中だけれど、陛下になると思うわ」


「はへ!?」


 父親がエスコートするのは、舞踏会デビューの時くらい。

 それも、娘に婚約者がいない場合に限られる。


「皇家とバルフォア公爵家との関係を修復すると示すのに、一番わかりやすいでしょう?」


「なるほろ……」


 先代皇帝陛下と先代バルフォア公爵のバチバチの余波で、皇帝陛下は自身の妃であるディアドラ様だけでなく、娘のギネヴィア様とも疎遠になられていた。

 今後は違いますよと示すには、異例のエスコートをするというのが確かにわかりやすい。


 と、ここでギネヴィア様は、少しもじっとされた。


「ついでに言ってしまうと……

 わたくし、魔導騎士団に入団するつもりなの。

 せっかく皇族は強い魔法を打てるのに、誰も魔獣と戦わないのはおかしいとずっと思っていたし……

 皇女なら、魔獣討伐で名を挙げた皇子が担がれた『オルランドの乱』のようなことにはならないでしょう?」


 事前に相談されていたのか、ディアドラ様が軽く頷かれた。


「「えええええええええ!?」」


 アルベルト様も私もぶったまげた。


 帝国内を転戦し続ける魔導騎士団に入団ってなったら、当面お嫁入りどころじゃない。


 なかなかちょうどよい方がいないとは聞いていたけれど、なんだかんだでお嫁入りされるものだとばかり思っていた。

 皇女の最大の仕事は嫁入りだとおっしゃっていたし。


 もがもがとアルベルト様と私がそんなことを言うと、ギネヴィア様は首を横に振った。


「色々とお話はいただいたのだけれど……

 政略で結婚するなら、フオルマ王太子より格上の方でないと納得できないのよ。

 あのお馬鹿さんに、結局わたくしが自分より格下の相手に嫁いだって思われるのがどうしても我慢できなくて」


 ギネヴィア様はしれっと凄いことをおっしゃった。


「えええええ……

 フオルマはそれなりに大きな国だし、歴史も伝統もあって神殿の総本山もあるし、あそこの王太子よりはっきり格上って言ったら、お兄様のウルリヒ皇太子殿下だけじゃないですか!?」


「でしょう?

 それはさすがに無理よね。

 あとはセリカンの皇帝か皇太子くらいかしら」


 ふふっとギネヴィア様は不敵にお笑いになる。


 セリカンは、馬車で3ヶ月はかかる、東の大帝国だ。

 東西の帝国で初めての婚姻を結ぶとなったら凄いけれど、遠い上に言葉も文化もなにもかも違う国だし、細かい折衝に何年もかかりそう……

 ていうか、極大魔法を発動させて魔獣襲来を食い止めたギネヴィア様は、皇家の魔力の強さの証でもあるのだから、今更他国に嫁がせるとかありえない。


 はえー……っと、アルベルト様と一緒にため息が出た。


「……ギネヴィア様、『真実の愛』があったら素敵だっておっしゃっていたから、てっきり身分が下の方でも、強い思いを持って求婚されれば、お受けになるのかと思ってました」


 私が魔獣襲来での活躍でアリってなったのだから、同じく魔獣襲来で活躍された方が強い思いを持ってギネヴィア様に求婚されたらアリになるんじゃない?ってなんとなく思っていた。


 デ・シーカ先生とか、鈍いとよく言われる私でも気がつくくらい、ギネヴィア様を想われているし。

 たぶん、リュークス殿下とかもだよね。

 って、リュークス殿下は、母国に許嫁がいらっしゃるとかなんとか聞いたような気もするけれど。


 そうねえ、とギネヴィア様は愛らしく首を傾げた。


「わたくしにお気持ちがあるのかしら?と思う方がいないとは言わないけれど……

 でも、どなたもなにもおっしゃらないのよ、結局。

 本気を見せていただけないんじゃ、どうしようもないでしょう?」


 あくまで受け身に、明確なアプローチを待っていらっしゃった、ということのようだ。

 そのへんは、ギネヴィア様ってやっぱり「お姫様」なんだな……

 そして「公爵家出身の皇妃を母とする皇女」「フオルマ王太子の元婚約者」「極大魔法を発動させ、魔獣襲来を撃退した現代のカイゼリン」という、とんでもない敷居の高さを誰も越えられなかったと。


「……叔母上は、それでよろしいのですか?」


 アルベルト様は、遠慮がちにディアドラ様にお訊ねになった。


 魔導騎士団に入るということは、魔獣と戦い続けるってことだ。

 普通に危険だし、頻繁に帝都を離れることになる。

 それに、ディアドラ様の子はギネヴィア様お一人だけだから、もしこのままギネヴィア様がご結婚されないということになると、ディアドラ様は孫の顔は見られないってことになる。


 ディアドラ様は小さく頷いて、諦めたように微笑んだ。


「もう、危険なことはしてほしくないのだけれど……

 でも、ギネヴィアが生きたいように生きてくれるのが、わたくしにとって一番幸せなことだから」


 自分に言い聞かせるようにおっしゃる。


「お母様……」


 ギネヴィア様は眉尻を下げて、ディアドラ様の手をそっと握られた。

 ディアドラ様がぎゅっと握り返して、母と娘はお互いに頷きあう。


 アルベルト様は、お二人の様子を見て、それ以上はなにもおっしゃらなかった。

 私もびっくりしたけれど、ディアドラ様が納得されているのなら、ギネヴィア様がなさりたいようにされるのが、一番よいのかもしれない。


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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
― 新着の感想 ―
[一言] 男共がヘタレで本人の立場が大きく変わってしまったから仕方ないのかな。戦力としても国外に出せないしフオルマの王太子よりランクの高い人物がいる国が遠いのもあるかな。
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