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どういう間合いなのこれ……

 なんとかかんとか春季の試験が終わり、一週間も間を置かずにすぐ秋季が始まった。

 試験結果は、あまり聞かないで欲しい。

 赤点は!出さなかった!

 以上!!!

 って、それもアルベルト様にちょいちょい勉強を見てもらったおかげだけれど。


 リーシャはあっちこっちで赤点くらって、追試で泣いていた。

 寮だったら一緒に勉強できるんだけど、今は週2、3回、授業の前後にちょっと話せるくらいだし……


 ヨハンナは、安定の筆記試験全科目満点だった。

 例の魔獣襲来豪華本の企画をビシバシ進めながらだから、もう意味がわからない。

 エドアルド様は、ヨハンナみたいな子もいるんだから、学院に飛び級卒業制度導入を!!と吠えて、「自分がとっとと卒業して、ウィラ様と結婚したいだけじゃん」てスルーされていた。

 去年の今頃は「神秘的なまでにお美しい精霊様」って感じだったのに、エドアルド様の扱いがどんどん雑になってる気がする……


 そんなこんなで、授業と予習復習、令嬢修行で、ばたばたしているうちにすっかり秋!って感じになった。

 私もアルベルト様も帝都にだいぶ慣れた。

 授業がある日は、ギネヴィア様と馬車で出て、帰りはギネヴィア様に拾っていただいたり、乗合馬車で戻ったり。

 乗合馬車で戻る日は、ヨハンナやリーシャと遊びに行ったりすることもある。


 アルベルト様は、帝都に来た最初のうちは、馬車の中から人混みを見るだけで気持ち悪くなってたりしてた。

 たくさんの人の顔を認識しようとすると、頭が追いつかなくなるとかぶつぶつおっしゃっていた。

 でもお仕事の都合で、小宮殿に引きこもるわけにいかなかったのがリハビリになったみたいだ。


 魔導研究所、というか「装置アパラート」は、「カイゼリン」──つまり初代皇帝の皇女マグダレーナ様のアイデアを元に、三代皇帝が造り始め四代皇帝が完成させたものなんだそうだ。

 今とは比べ物にならないくらい強大だった魔導騎士団と一体運用するのを前提としていて、攻撃の要である「塔」そのものを守る仕組みがあまりない。

 なので、改修に合せてそのへんも見直さないといけない。

 ただ元に戻すわけじゃないから、魔導省だけでなく、魔導騎士団や大学の研究者などいろんな人に協力してもらわないといけないし、いちいち宮殿に参内してもらうのも手続きとか面倒すぎるので、アルベルト様がおでかけするしかないのだ。


 というわけで、アルベルト様もお忙しいのだけれど、休みの日が合った時は、一緒にお出かけしたりするようになった。

 魔獣襲来が起きる前は、アルベルト様とお出かけするだなんて、到底無理なことだと思っていたから、なんだか夢みたいだ。


 混雑するようなところは、アルベルト様も私も苦手だから、もっぱら旧市街であまり混まないところをうろうろしている。

 秋薔薇の咲く公園を手をつないで散歩したり、焼き栗をあちあちと食べたり。

 2人とも、美術の素養がさっぱりだから、勉強を兼ねて美術館で絵を見たり。

 私もまだまだ田舎者だけど、アルベルト様は見るもの聞くもの食べるもの、初めて!てことが多いから、あれこれ説明したりするのがまた楽しい。


 もちろん、アルベルト様には護衛がついているから2人きりってわけではない。

 でも、皇族とは言え、他人に間近で仕えられる状態に慣れていないアルベルト様の事情を飲み込んで、あまりストレスにならないよう、付かず離れずで巧くやってもらえているみたいだ。




「ミナ!」


 ある日、大公家の別邸を借りて行われた授業の終わりに、車寄せで乗り合い馬車を待っていたら、後ろから声をかけられてぶったまげた。

 襟に黒い毛皮のついた、しゅっとした焦げ茶のコートを着て、ブーツを履いた、どっかの若様って感じのアルベルト様がいる。


「アルベルト様!?

 いいんですか、こんなところに!」


「びっくりした? びっくりした?」


 めっちゃドヤって、ステッキをくるくる回してる。


 って、超絶世間知らずのアルベルト様が一人でフラフラとかやばいっしょ!と思ったら、後ろにアルベルト様の護衛のクルトさんとジラールさんが、微妙な顔をして立っていてほっとした。


「帝国大学での会合が早めに済んだんです」


 クルトさんが解説してくれた。

 なるほろ。


「ええとミナ、こちらの方は?」


 リーシャがうさんくさそうにアルベルト様をガン見した。


「こんにちは! ミナのお友達かな?

 ミナの彼氏のアルベルトです!」


 謎テンションのまま、アルベルト様はきぱっと自己紹介した。

 ちょおおおおおお!!


 リーシャは、「あー例の手紙鳥?」と私に確認して、私があわあわ頷くと、ほーん?と腕組みをした。

 ちょっと怖い顔で、「これでも男爵令嬢のミナの彼氏って名乗るからには、近々婚約するっていうことですよね??」とか「ベルフォード男爵家に挨拶しました??」とかぐいぐいぐいぐい詰めてくる。

 挨拶したしたした!とか婚約はほぼほぼ内定内定!って2人で必死に説明した。

 そういうことならよかろうと、リーシャは重々しく頷く。


「ミナはぼーっとしてるところがあるからね……

 念の為!」


 とかやっているうちに、周りの子も気づく。


「え、ベルフォードの彼氏!?」


「マジか……」


「ほんとに? ほんとのほんとに彼氏??」


 女子も男子もわらっと集まってきて、んじーっとアルベルト様を観察しはじめて、アルベルト様と2人であわあわになる。

 それにしても、なんかびみょーに「ミナに彼氏なんてありえる?」て雰囲気なのはどういうこと……


「ちょ、ちょっと散って! 散って!!!

 はいはいはい、お迎え来てるよ!!」


 ちょうど、乗り合い馬車が来たので、キシャーって威嚇すると、みんなしぶしぶ散っていった。

 それじゃ私は鍛錬に行くね!て、馬車に乗り込むリーシャを、アルベルト様は最敬礼で見送った。


「……ところでミナ、ヨハンナ嬢はいないのか?」


「ヨハンナ?

 あれ? さっきまでいたのに……」


 集まってきた子達の中にはいなかった。

 どこにいったんだろう、と振り返ると、柱の影から、きらんと眼鏡を光らせてこっちを観察している。

 例のなんでも書いちゃうメモ帳を構えている。


 へこっとアルベルト様が頭を下げると、へこっとヨハンナも下げた。


 どういう間合いなのこれ……


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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
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[一言] 愛でる自分は、壁か柱か…わかります。
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