ほんとにほんとなの?
数日後、先代陛下の国葬が大々的に大宮殿で行われた。
万一、アルベルト様が急に倒れたりしたらいけないので、私は女官の控室で待機した。
幸い、私の出番はなかったけれど、アルベルト様は十五年分の親戚への挨拶でめっちゃぐったりしていた。
式は盛大に行われたけれど、チラ見した限りでは、血のつながった皇族方にもあまり悼む感じはなかった。
先帝陛下の妃殿下方の中には、ヴェール越しにも晴れ晴れとした笑みを見せていらっしゃる方までいた。
平民や貴族と違い、皇帝に娶られたら離婚はできない。
だけど、亡くなられた後なら、実家に戻れるし、時間をおけば嫁ぐこともできる。
その時を待ち焦がれていたことを隠そうとしないような方も、いらっしゃるということだ。
先代バルフォア公爵が、先代皇帝陛下を「不幸な方」とおっしゃっていた理由が、少しわかった気がする。
国葬から一週間ほど後。
相変わらず風のようにやってきたティアン導師は、2人ともあらかた治っている、引き続き魔力循環をこまめに続けるのが望ましいが、離れて行動しても大丈夫だとおっしゃった。
そういえば、アルベルト様も私も、根本の方から元の髪色に戻りつつある。
ついでに、未婚の男女なのだから、そろそろ身を慎んだ方がよかろうと言われて、私はお隣のギネヴィア様の小宮殿に移ることになった。
お隣といっても、庭とか色々あるから、玄関から玄関だと走って5分はかかるけれど。
最初の外出は、アルベルト様とクリスタさんとお忍びで男爵家に行った。
もちろん、奥様に婚約のご相談をするためだ。
お忍びとはいえ、皇族が男爵家を訪問するのはあまりないことなのだそうだけれど、アルベルト様が、こちらからお願いするのだから、自分が赴くのが筋だと主張されたのだ。
奥様はびっくりされたけれど、小宮殿でアルベルト様とお話された時に、もしかしてそういうことになるんじゃないかと思っていらっしゃったそうだ。
畏れ多いことだけれど、私達が好きあっていて、皇家のお許しが出たのなら結婚するのが一番良いとその場でおっしゃって、一度領に戻られると、領主様ほか男爵家ご一家と、父さん母さんを一ヶ月ほどで説得してくださった。
アルベルト様は、学院の秋季の授業が終わったらすぐにでも村に挨拶に行きたいとおっしゃったけれど、それだと年明けの社交シーズンで帝都にいらっしゃる男爵家と入れ違いになるから、2月にってことになる。
これで婚約は内々定、ということになった。
なってしまった。
ほんとにほんとなの?
私、ほんとは死んじゃってて、死ぬ直前の走馬灯的な感じでアルベルト様と結婚できる夢を見てるんじゃ?って、何度もほっぺをつねったりしてしまう。
公表は先帝陛下の喪が正式に明ける1年後だから、人に言えないこともあって、まるで実感が沸かない。
でも、承諾はしてくれたけれど、父さんと母さんの手紙を読むと、魔獣襲来のことも、婚約のこともめちゃくちゃ心配していた。
村に帰ってちゃんと大丈夫だよって説明したいけれど、学院の授業も始まってしまったし、春季の終わりが後ろ倒しになった分、すぐに秋季が始まるので、秋季が終わらないと村に戻れない。
片道10日間かかるからね……
クリスタさんが、アルベルト様と私の絵を描いてもらって送ったら、少しはイメージしやすくなって落ち着くんじゃないかと言ってくれて、宮廷画家に水彩で描いてもらった私達の絵を送ったりした。
アルベルト様はとにかく、私は美人に描きすぎじゃないかと思ったけれど、返事はだいぶ前向きな感じになってて、クリスタさん、画家さんありがとう!ってなった。
それとは別に気になるのは、嫁入りの衣装や宝飾品をどうするのかということだ。
帝国では、嫁入り衣装や、結婚した当初着るものや身の回りのものは、実家が用意することになっている。
結婚式のドレスやティアラだけでなく、舞踏会用のドレスも何着か作らないといけないし、昼に着るデイドレスも必要だ。
そんな高価な物を何着も作ってもらうとか、いくらなんでも申し訳なさすぎるとあうあうしていたら、第三皇妃殿下──名でお呼びするのを許していただいたので、ディアドラ様が、アルベルト様のお母様、ガラテア様の衣装やティアラをバルフォア公爵家で保管しているのを思い出してくださった。
ガラテア様が亡くなられた時、一部は形見分けとして縁の深い方に譲ったけれど、大半はそのままになっていたのだ。
このまま保管し続けても、ガラテア様を直接知らない世代に代替わりしたあたりで、まとめて処分ということになってしまうだろうから、この際、私が着られそうなものは引き継いでしまうのが良いのではということになった。
アルベルト様のお母様がお召しになったものを着させていただけるの!?ってめっちゃテンション上がる。
ディアドラ様の里帰りに私もお供する、そこに奥様もなんでか合流するというかたちで、実際に見せていただいた。
ついでと言ってはなんだけれど、先代バルフォア公爵とバルフォア公爵夫妻にご挨拶もさせていただいた。
ガラテア様は青がお好きだったようで、柔らかい空色や少しくすんだ青のデイドレス、矢車菊のような濃い青の舞踏会用ドレスなど、品のあるドレスが何着もあった。
きちんと手入れされていたこともあって、どれも綺麗な状態だ。
衣装や化粧道具など手回りの品を見ていると、思慮深い、センスの良い方だったのかなって感じて、そう申し上げたら、ディアドラ様はお姉様はその通りの方だったとおっしゃって、少し涙ぐまれた。
ガラテア様は、背は私とほとんど同じくらいだったようで、丈はそのままでも問題ない。
ウエストはめちゃくちゃ細くて、ヤバってなったけれど、こういうドレスは後でお直ししやすいように、かなり余裕を持って仕立てているので、私の体型や好みに合わせて、作り直せるだろうということになった。
ティアラもガラテア様のものをお借りすることになった。
というか、私が生きているうちは私がお借りして、私に娘が産まれれば、その子に引き継がれるということになった。
宝飾品は母から娘に受け継がれるのだけれど、アルベルト様は一人っ子だから、その妻となる私を介して孫娘にという順序になるらしい。
というか……子供!?
「アアアアアルヴィン殿下と、わわわわわわ私の子供……!?」
唐突に結婚するんだって実感が押し寄せてきて、ふっしゅーーーーー!!ってなってしまう。
ディアドラ様に「あらかわいらしい」と笑われ、奥様には遠い目をされてしまった。
ミナの恋愛レベルは小学生になった!
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