今のなし!今のなし!自然に任せましょう!!
「あなたが叔父様の恋人でなければ、まずは女官として陛下にお仕えすることになったと思うけれど……
でも叔父様とあなたを引き裂いたら、新たな遺恨になることはわかりきっている。
だから、それは避けようということになったのね。
叔父様は装置の改修に必要な方でもあるし。
おまけに、あなたはファビアンとも親しいし、あなたを無理に召し上げて泣かせたりしたら、ファビアンだって怒るもの。
きっと、ファビアンのお母様だって怒るわ。
それは陛下が一番避けたいことだから」
ようやく腑に落ちた。
ほんとだったら、名ばかり男爵令嬢という立場だと、変わった魔力を持っているから皇家にという話になっても、とりあえず女官になって皇帝のお手つきとなり、子が生まれれば妃の末席に置く、くらいの扱いになったはずだ。
色々色々重なって、面倒だからアルベルト様と結婚させてしまえってなったのか。
他の国では、王族の妃となる人の出自について、法律ではっきり決めているところもあるけれど、帝国にはそんな法律はない。
「その……
ファビアン殿下と……ヒルデガルト様はどうされているんですか?」
気になっていたけれど、なかなか聞きにくかったことをこの際おうかがいする。
ギネヴィア様は眼を伏せると、首を小さく横に振った。
「ファビアンは、留学することになったわ。
ローデオン公国に貴族学院のような学校があって、そこは9月始まりだからって。
一年生の前期を二度やることになるけれど、そっちの方が良いだろうと」
「ローデオン公国に、ですか」
ローデオン、フオルマとの間にある小さな国だ。
長年の友好国ではあるけれど、学術や産業に特徴のある国ではないし、わざわざ皇子を遊学させる理由は特にない。
とにかく早く、帝国から外に出すということだ。
あの時、私でもヒルデガルト様は、皇女だとわかってしまった。
居合わせた人は、みんな気がついたはずだ。
ファビアン殿下とヒルデガルト様の仲は学院中が知ってたし……
もう、2人は一緒にいられない。
それこそ、誰も2人を知らないところまで逃げない限り。
「……ヒルデガルト様は?」
「……まだ目覚めていないと聞いているわ。
皇族がよく療養する『湖の離宮』に移されたの。
ヒルデガルトの魔力の共振を、わたくし達が止められればよかったのだけれど。
魔力の流れが強烈すぎて、極大の発動までどうにか持っていくので精一杯で……」
ギネヴィア様は眼を伏せて、首を横に振った。
「そんな……」
もう2週間以上経っているのに。
でも、それはギネヴィア様の責任でも、ファビアン殿下の責任でもないはずだ。
あんなことになるだなんて、誰も予測できなかったのだし。
そんなことをもそもそと申し上げながら、手をぎゅぎゅっとすると、ギネヴィア様は頷いてくださった
2人して、小さくため息をつく。
ふと、ギネヴィア様が眼を上げた。
「ああそうだ、先代陛下の国葬が終わったら、もう一度、ユリアナ達が入院している病院に慰問に行くつもりなの。
外出の許可が出たら、あなたもどうかしら。
ユリアナも……腕はどうにもならなかったけれど、だいぶ回復してきているわ」
「そうなんですね、ぜひお供させてください!」
ギネヴィア様は頷き、「でもいずれわたくしの義理の叔母様になるのだから、お互い言葉遣いを見直さないといけないわね」とおっしゃった。
そうか、そういうことも考えないといけないのか……
一瞬で私の眼が死んでしまったのか、ギネヴィア様は「今のなし!今のなし!自然に任せましょう!!」と慌てておっしゃった。
やっぱり私、皇太子殿下のおっしゃるとおり、いっぱいいいっぱいなのかもしれない。
お話が済んだのか、アルベルト様と皇太子殿下が戻っていらした。
皇太子殿下は、沈痛な表情で考え込んでいらっしゃった。
アルベルト様は、いつも通り飄々としている。
なにをお話したんだろうってちょっと引っかかったけれど、私を見てぱっと笑顔になったアルベルト様を見たら頭から飛んでしまった。
皇太子殿下はお帰りになるとのことで、お見送りする。
ギネヴィア様も「勉強会はまたにしておくわね」とお帰りになった。
「ミナ」
2人きりになったところで、アルベルト様は私の名を呼んでくださった。
思わずかけよる。
「アルベルト様!」
ほぼ同時に、むぎゅーってお互い抱きついた。
どうしよう、にゅふにゅふのとろとろになってしまう。
アルベルト様の私の体温がまざりあって、ぴとーっとくっついてしまって、離れられない。
アルベルト様は、私のおでこに、音を立ててキスしてくださる。
私も伸び上がって、アルベルト様のほっぺにちゅーした。
2人で、にゅふーって笑う。
「これで、ミナとずっと一緒にいられるな!
……ミナ、嬉しい?」
「めっちゃ嬉しいです!!」
ギネヴィア様はずっと応援してくださってたし、先代バルフォア公爵もアルベルト様の希望通りにするのが良いと考えてくださったけれど、結局は皇家がどう判断するかだ。
普通だったら、皇位継承権を持つアルベルト様と、平民出身の男爵家の養女との結婚を許すなんてありえない。
一緒にいられるとしたら、女官とか助手とかそういう立場でお仕えしつづけるくらい?と思ってた。
なのに、ちゃんと結婚できて、ずっと一緒にいられるだなんて。
ほんとに、まだ信じられない。
「……それに結婚したら、アルベルト様をくすぐり放題ですよね?」
「はいいいいいいいいいい!?」
こそっと言うと、アルベルト様はのけぞった。
塔の研究室では人目がないから遠慮なくくすぐっていたけど、さすがにここでくすぐり倒して馬乗りになったりするのはまずい。
クリスタさんや看護婦さんがいるし。
これでも自重してるのだ。
たまに、そっと脇腹を撫でて、まさかくすぐってくるのか!?って、びくうってなるアルベルト様を愛でるくらいで我慢しているのだ。
「毎日くすぐったりはしないですから!
ていうか、くすぐりすぎると慣れちゃって、くすぐったがらなくなったりするんですよね……
くすぐられに才能がある人は限りがあるので、生かさず殺さずがコツなんです」
「ぇぇぇぇぇぇ……」
思わず力説したら、アルベルト様は怯えた眼でふるふると震えた。
きゃわわ!
超きゃわわ!
その後、「ねねね年に一回、ミナの誕生日にくすぐられるくらいなら辛抱する」とか話にならないことを言い出したアルベルト様と、少なくとも週1回はくすぐりたい私の間で熱い交渉が繰り広げられたけれど、片付けに来たクリスタさんに「お二人とも、そろそろ宿題をなさらないと」と呆れ顔で言われて、また後日ってことになった。
ギネヴィア「……わたくし、気を利かせて帰らなくてもよかったのかしら」
ウルリヒ「(頷きすぎておかしくなった首をぐきぐき回しつつ)どうも、そうみたいだね……」
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ちなみに首のストレッチは、片手で鎖骨のあたりを抑えたままやった方が良いって整体の先生に教わりました…(ぐきぐき)




