それから、めちゃくちゃ謝った
落ち着いたところで、改めてアルベルト様に紹介していただいて、きちんと皇太子殿下にご挨拶することができた。
それから、めちゃくちゃ謝った。
お茶も淹れ替えてもらった。
喉がカラカラだ。
今度は私もいただく。
ギネヴィア様は、今日のことは皇太子殿下がいきなり来たのが悪いとおっしゃって、殿下の方を睨んでいる。
「予告したら、ギネヴィアが行儀の良い振る舞い方を叔父上に教え込んでしまうじゃないか。
それじゃあ、叔父上がどういう方なのかわからないからね」
皇太子殿下はしれっと笑っていらっしゃる。
「叔父上の今後については、私に一任されている。
皇族のまま研究者となることについては、過去にも例があるので問題ない」
まずは、立場に関するご希望が叶うみたいで、ほっとした。
「レディ・ウィルヘルミナとの婚約も、皇家の許しが内々に出たということで進めてほしい。
男爵家と生家の合意がとれたら、その時点で内々定。
正式な発表は先代陛下の喪が完全に明ける1年後になるから、それまでに具体的な結婚時期、式の規模、結婚後の暮らし方など諸々を詰めていけば良いだろう。
こちら側は、母代わりということで第三皇妃殿下に中心となっていただいくので良いかな?」
皇太子殿下はギネヴィア様の方を見る。
ギネヴィア様は「承りました」と軽く頭を下げた。
ほんとのほんとに、いいんだ……
アルベルト様がすっと立ち上がった。
私も慌てて、一緒に立つ。
「ウルリヒ皇太子殿下、結婚をお許しいただき、ありがとうございます」
アルベルト様は深々とお辞儀をした。
「ウルリヒ皇太子殿下、あの……ありがとうございます」
私も、お辞儀をする。
「おめでとう!
……とは、まだ喪中だから言ってはいけないのがなんだが、収まるところに収まって本当によかった。
いやー、それにしても今日はいいものを見せてもらったよ」
皇太子殿下は頷いて、笑ってらっしゃる。
ギネヴィア様もよかったよかったと笑顔だ。
アルベルト様と2人、今頃ふしゅふしゅになってしまった。
皇太子殿下は、研究所のことでアルベルト様に確かめたいことがあるとかで、2人は中庭へ出た。
ギネヴィア様と私はサロンに残る。
「なにはともあれ、こうなって良かったわ。
ごめんなさいね、ミナ。
よく頑張ってくれるから、大丈夫大丈夫って……
わたくし、ミナに無茶を押し付けてしまっていたわ」
ギネヴィア様は私をむぎゅーと抱きしめて、おっしゃった。
「ありがとうございます!
本当にすみませんでした……
ギネヴィア様を怒鳴っちゃうとか、ほんとのほんとにありえない……」
思い出してまた気が遠くなりかかる私の頭を、ギネヴィア様は大丈夫大丈夫大丈夫!と撫でてくださった。
一緒にソファに座る。
「でも、ほんとに私が皇族のままのアルベルト様と結婚できるんですか?
ヨハンナの紙芝居とかだと、絶対ありえないって感じだったじゃないですか」
ほんと、なんでお許しが出たのかわからない。
ギネヴィア様は、姫様スマイルで微笑んでくださった。
「あなたは、もうただの男爵令嬢ではないもの。
魔獣襲来でわたくしを守りきってくれて、叔父様を命がけで救ったでしょう?
今、魔獣襲来で戦ってくれた人達の褒賞を決めるための調査に入ってるのだけど、デ・シーカ先生も近衛騎士達も、あなたの活躍に最高評価をつけているの。
デ・シーカ先生は、わたくしを守ってくれた者の中で、あなたが一番たくさん魔獣を倒しているはずだとコメントしてくださってるわ。
どのランクになるかはまだ決まっていないけれど、それなりの勲章が出ることには間違いないの」
「ほへッ!?
先生に私、何度も怒られた気がするんですががががが」
ぼけーっとしてしまったり、慌てたり、十分できなかった記憶しかない。
それでもよ、とギネヴィア様は微笑まれた。
「それに、導師ティアンも、あなたの魔力は大変興味深いものだから、皇家に迎えるべきだとぶつぶつおっしゃっていたし。
陛下にも上奏されたんじゃないかしら」
「え!? ティアン殿下が!?
ティアン殿下にも、なんか怒られてばっかりなんですけど!?
そもそも、お礼もちゃんと言えてないのに……」
言いたいことだけおっしゃって、すぐどこかに行ってしまう方だから、とギネヴィア様はお笑いになった。
「もし先代皇帝陛下がご健在であったら、自分があなたを召し上げると横槍を入れて、面倒なことになったでしょうけれど……
ノルド枢機卿のことがあったばかりでしょう?
皇族同士の諍いになりそうなことは、なるべく避ける流れになっているし」
「それはどういう……?」
私がいまいちわかっていないのを見て取ったのか、ギネヴィア様は声を低くされた。
「これは大っぴらには言ってはいけないことだけれど……
子爵邸で暴れて捕まったノルド枢機卿は、次の日に皇宮に移されたのね。
で、先代陛下は囚人用の馬車で運ばれてきた枢機卿を、わざわざなじりに行ったの。
枢機卿は、両手を後ろ手に拘束されていたのだけれど、舌先から猛毒を生成する魔法を打って、先代陛下に毒を浴びせて、混乱に乗じて逃げたのよ」
「あああああ……」
そういうことだったのか。
魔法を使えなくする手段は、少なくとも今の帝国にはない。
でも、普通は対象に手を向けて打つから、両手を後ろ手にしてくくってしまうと、巧く使えなくなる人がほとんどだ。
私にしたって、光弾は左手から出るし、ライトだって手を添えた方が狙いやすい。
それで、後ろ手に拘束しているからって、油断して近づいたらやられたってことなのか。
ていうか、枢機卿が人面鳥になってもビシバシ魔法が使えたのは、もともと舌からでも打てたからなのかも。
「その日のうちに先代陛下は崩御された。
皇族同士で殺し合いになったことは、過去にも何度かあったことだけれど……
やっぱり、かなりの衝撃だったらしいわ」
「そうだったんですね……」
先帝陛下の崩御を伝えられた時、アルベルト様もエドアルド様も、妙に考えこんでいたのを思い出した。
あの時点で、2人とも察しが付いていたのかもしれない。
ノルド枢機卿「というわけで、2人が結婚できるのは私のおかげだ! 我を崇めよ!ほめたたえよ!」
導師ティアン「(ノールックで枢機卿をなんか沈黙させ)あの小娘を召し上げるとアルヴィンが無敵の人化してマジ面倒なことになるが、2人をくっつけておけば小娘を通じて男爵家・生家と力を持たぬ係累が増え、皇家に逆らいにくくなるが故、アルヴィンと小娘の才と魔力を活かせて後々お得やぞ、と上奏しておいたのだ。なので、2人が結婚できるのは僕のおかげだ!崇めろ!(ふんす)」
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