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ティアン殿下が謎すぎる

 その後もティアン殿下は、朝昼晩かまわずいきなりやってきては、私の魔力が通るところ?をがしがし抉って去って行った。

 足の指を通すときが一番痛くて、ほんとのほんとにやばかったけど、ぎりっぎりで持ちこたえた。

 でも、そうやって脚にも魔力が巡らせるようになって、なんだか身体の中が「広く」なって、前よりも魔力というものをしっかり感じられるようになった気がする。

 試しに、普通の「ライト」を灯してみたら、ろうそくサイズで出したつもりなのに、ぺかーっと光って、慌てて絞った。


 ティアン殿下の独り言を合わせると、もともとアルベルト様の「器」──身体の中に魔力を貯める、見えない袋ようなもの──が薄すぎる上に魔力が多すぎて、常時魔力が漏れている状態だったのが、魔力の喪失と私の魔力、私越しの魔石の魔力が大量に流れ込んだどさくさに紛れて「器」が再構成され、漏れなくなったということのようだ。

 アルベルト様の瞳、ラピスラズリのように金色の粒が見えていたのは、魔力の漏れがそういう風に見えていたらしい。

 やっぱり!ってなる。


 でも、私の魔力がある意味勝手にアルベルト様に流れこんだのは、ティアン殿下にもよくわからないようで、しきりに首を捻って「もしやコイツら『対』なのか?」とぶつぶつおっしゃっていた。

 アルベルト様がどういうこと?ってお訊ねしたら、取り合わずにさささっと消えてしまわれた。

 ティアン殿下、いつも気がついたら部屋の中に入ってきてるし、視線を外したらいなくなってるし、せめてお迎えとかお見送りとかさせてほしい。

 

 それにしても、ティアン殿下が謎すぎる。

 他人の魔力の流れに強制的に干渉できるあたり、闇属性もありそうな気もする。

 アルベルト様にどういう方なのかお聞きしたら、「兄上の一人で、何があっても逆らっちゃいけない人ってこと以外は俺もよくわからん」と首を傾げている。


 第三皇妃殿下と一緒に、毎日のようにお見舞いに来てくださるギネヴィア様にお伺いしたら、導師というのは、皇族の中から、特に魔力の流れをコントロールするのが巧い人が選ばれる役職なんだそうだ。

 魔力障害を起こしている人の魔力の流れを整えたり、皇子皇女に魔法の手ほどきをするのが主なお仕事。

 ティアン殿下は今は3人いる導師の筆頭で、ちょっと?変わった方だけど、ギネヴィア様は子供の頃からかわいがっていただいているとか。

 2属性のギネヴィア様が極大魔法の習得を許されるまで魔力を伸ばせたのは、ティアン導師の教えがあってこそだとおっしゃっていた。


 あれだけ酷かった熱はさくっと下がり、具なしのスープがお粥とポタージュになり、柔らかく煮た野菜や卵、魚を食べられるようになって、2、3日も経つと、どうにかこうにか動けるようになった。

  ご飯も徐々に普通のものになっていく。

 小宮殿には、立派なダイニングもあるのだけれど、十数人でフルコースを食べるための部屋だから、アルベルト様も私も広すぎて落ち着かない。

 朝食用ってことになっている、ダイニングの3分の一くらいの部屋で、朝だけでなく昼も夜も食べることになった。


 長い間、研究員の寮でまとめて作るお弁当ばかり召し上がっていたから、アルベルト様は小宮殿で出てくる料理を一つひとつ珍しがってうまうましていた。

 一番気に入ったのがなぜか目玉焼きで、両面焼き、片面焼き、蒸し焼きと色々試して、結局片面焼きで、半熟よりほんの少し多めに火を入れて、黄身がむっちりしてるくらいの焼き加減に落ち着いた。

 目玉焼きくらい、フライパンがあれば「塔」のあの部屋でも焼けたはずだけれど、全然思いつかなかったそうだ。

 そういうこと、私が考えてあげればよかったかも……


 アルベルト様は、理髪ができる女官を呼んで、腰まで伸ばしっぱなしだった長い髪を、肩下あたりで切って貰った。

 今までは他の人に切ってもらうわけにもいかなかったし、一度自分で切ったら、切った髪に魅了の力が残っててめちゃくちゃ面倒なことになったので、切れなくなったのだそうだ。

 というわけで、仕方なく伸ばしっぱなしにしていたけれど、洗うのも乾かすのも梳くのもうんざり!だったそうだ。

 頭が軽い!超最高!!とテンション上げてらしたので、もっと短くしなくていいんですかって聞いたら、「ミナがくれた髪紐を使いたいから、結べる長さでないと」って素で返されて、ふしゅふしゅになった。


 前髪は作らず、適当に分けてサイドは垂らし、後ろだけ結ぶようになったので、なんだかたれ耳のわんこみたいな雰囲気になった。

 ポインターとかそんな感じだ。

 きゃわわ!




 なにはともあれ、ティアン殿下の指示通り、起きている間はひたすら魔力循環をしまくっていたおかげか、アルベルト様と少し離れてもくらくらしたりしなくなった。

 ずっと同室でというのも落ち着かないので、私は主寝室の隣の部屋で寝ることになった。


 学院から転送されてきた、魔獣襲来の知らせを聞いて心配してくださった領主様や、ゲルトルート様、エミーリア様からいただいたお手紙にも、落ち着いて返事を書けるようになった。

 村の父さん母さんにも、学院が大変なことになって私も少し寝込んだけど、もう治ったから安心してねって手紙を書いて送る。

 エドアルド様、ジャレドさん、オーギュスト様、ウラジミール様、デ・シーカ先生、アデル様などなど、お世話になった方々にもお礼の手紙を書いた。


 ヨハンナやリーシャ、エレンなど普段よく喋っている子にも手紙を書く。

 ヨハンナとリーシャはすぐ返事が来た。

 リーシャは少し怪我をしたけれど、すぐにエレンに治してもらえたし、もうほとんど傷跡も消えたとかで良かった!

 ヨハンナは、相変わらず。

 ゲンスフライシュ商会が今回の魔獣襲来を記録する豪華本を、月一回配本する分冊形式で出版することになって、その企画やら調整やらでめちゃめちゃ忙しいらしい。

 エレンは……カール様から、ちょっとまだ手紙が書ける状態ではないとお返事があった。

 でも、プレシー侯爵家でしっかり療養してもらうから、安心してほしいとあった。


 私の返事を待たずに書かれた、領主様からの次のお手紙も来た。

 奥様が私の看病をするために帝都に出発したとあったので、慌てて帝都の男爵邸にも、体調はだいぶ良くなったこと、しばらくアルヴィン殿下と一緒にいなければならないと言われていて、小宮殿でお世話になっていることを知らせる。

 何日かして、無事帝都に着いた奥様から返事が来たのだけど、とても心配してくださっていて、ほんと申し訳なくなってしまった。

 一度お会いして、安心していただきたいのだけれど、アルベルト様と離れて男爵邸まで行くのはまだ難しいと言われて、奥様が小宮殿に参内する許可を出していただいた。


 奥様はすぐに来てくださって、またまた涙涙の再会になった。

 男爵家の娘が、こんなわけがわからない形で皇弟殿下にお世話になるとか、普通はないことなので、奥様もだいぶ戸惑われていたけれど、第三皇妃様がアルベルト様につけてくださったベテラン侍女のクリスタさん、看護婦さん達といろいろお話されて安心されたようで良かった。

 アルベルト様、第三皇妃殿下とも奥様はお話されて、お互い良い印象をもったようでほっとした。


ゲンスフライシュ商会は、ディアゴスティーニ商法を編み出した!


ちなみに、作曲家のテレマン(1681-1767)は月2回刊行の雑誌を創刊&楽譜を連載して儲けてたり、代表作「ターフェルムジーク」では、予約したら特別価格で提供&予約者の名前を掲載すると広告して鬼売りしています。

日本でも、作家業の傍ら、薬屋を始めて化粧水を自作で宣伝した式亭三馬(1776-1822)もいるし、近世のエンタメ業界あなどれんのです…


いいね&ブクマありがとうございました!

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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
― 新着の感想 ―
[一言] 魔獣襲来のディアゴスティーニやんけ!!?と思ったら、すでに後書きにそのワードがあった。な、何がおこっていr お部屋隣なら平気になっちゃったんですね。よかったよかった不便ですもんねー( ・᷄ὢ…
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