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アルヴィンよ! ノルド叔父ごときに負けるとは情けない!

 馬車は日が沈む前に皇宮に入った。

 そのまま、アルベルト様に用意された小宮殿へ向かう。


 小宮殿は、すっきりした感じの2階建ての建物だった。

 車寄せに馬車が近づくと、ギネヴィア様とお母様の第三皇妃殿下が玄関から出ていらっしゃった。


 また、涙涙の再会となった。

 ギネヴィア様も、お元気そうでほっとした。

 魔獣襲来の時に切られた髪は、顎の線に沿うように整えていらっしゃる。

 表情も少し変わられて、以前はひたすらかわゆい、お人形さんみたいな感じだったのが、強さや鋭さが表に出てきているように見えた。


 ……のだけれど、このあたりから、アルベルト様も私も体調がおかしくなってきてしまった。

 ぽわぽわ、ふらふらするなと思っていたら、2人ともかなりの熱が出ていのだ。

 ゆっくりお話する暇もなく、寝室に担ぎ込まれて、お医者様を呼んだりなんだりで大騒動になってしまった。


 困ったのは、アルベルト様と私が離れると、途端にぶっ倒れること。

 でも、未婚の男女を2人きりで寝かせるとか絶対ダメ!ということで、めちゃくちゃ広いアルベルト様の寝室に看護婦用のベッドを2つ入れ、一つは私が寝て、もう一つは看護婦さんに使ってもらうことにして、解熱用の薬湯を飲んだ後はひたすら寝倒した。


 翌日も、その翌日も熱は引かなかった。


 甘草を入れて飲みやすくした薬湯や白湯くらいはなんとか飲めるけど、繭が解けた日はウマウマした牛乳も匂いだけで無理だ。

 夏も近いのに、ガタガタ震えてしまうほど寒い。

 眩しいとそれだけで疲れてしまうので、カーテンを閉め切った部屋で、ひたすら静かに横になっていたのだけれど──




「いいいいいいいだいだいだいだいいいいいい……!!」


 うつらうつらしていると、アルベルト様の悲鳴で眼が覚めた。


「アルヴィンよ! ノルド叔父ごときに負けるとは情けない!

 僕が亡き父上に代わって、制裁シゴウしちゃる!

 ま、父上も父上で情けなさすぎるが」


 死人を制裁するわけにもいかんからなとか不穏なことをぶつぶつ言いながら、小太りの男の人がアルベルト様にのっかってなんかしてる。

 意味がわからなくて身体を起こそうともがもがすると、おろおろしている看護婦さんが支えてくれた。


「えと……あの……?

 これ、光弾ぶちこんで助けないといけないやつです?」


「ミ、ミナ。

 この方は導師ティアン。

 俺の兄上だ。

 い、いいいいい今、俺の魔力の流れを……いだいいだいいだいいいいい!!」


「ほーん、どさくさに紛れて『器』がなんとかなっとるな。

 これは重畳重畳」


 よく見たら、ティアン殿下?は、アルベルト様にまたがって身体を抑え込んだ状態で、両手をつないでよくわかんないことを言っている。

 魔力巡らせなのか。

 でも、魔力巡らせがそんなに痛いとかある??


「だが、雑多な魔導エネルギーを大量に取り込んだあげく、魔力循環をサボっていたものだから、あっちゃこっちゃで詰まりかけておる。

 晶化も進んでおる。

 つまり痛いのは自業自得!!!」


 ティアン殿下はあくまでアルベルト様の手を離さない。


「サボってないです昏睡していただけで!」


 アルベルト様は言い訳したけど、ティアン殿下は「昏睡してても循環しろ!」と一喝した。

 そんなこと、できるの!?


「アルヴィンが済んだら、次は君だ。

 震えて待っとれ!」


 こっちを振り返ったティアン殿下は、きぱっとおっしゃった。

 深い緑色の髪を七三に分けて撫で付け、丸眼鏡をかけてる。

 年の頃は30過ぎくらい。

 私もバキバキにされちゃうの??


 そういえば、ティアン殿下って、『皇族譜』でお名前を見た記憶はある。

 先帝陛下の何番目かの皇子だったっけ。

 お母様は……確か皇妃ではなかったはず。

 公務の記録もほとんどないし、魔法属性欄も空欄だし、婚約もご結婚もされていないし、皇宮にお住まいであること以外は、なにをしているのかさっぱりわからない方だった。

 もしかして、皇族の魔力の調整役みたいなことをされてるんだろうか。


 そんなことをまとまらない頭で考えながら、どうやら助けなくてもよいらしいアルベルト様がぴーぎゃー叫んでいるのを、ぼけーっと見守る。

 一通り終わったらしく、ティアン殿下は「以後励むように!」とぺしっとアルベルト様のおでこを叩いて、寝台を降りた。

 そのままこっちにいらっしゃる。


「あにうえ……

 ミナにのっかるのはナシで……」


 へろへろのアルベルト様が、必死にこっちを向いて言う。


「失敬な。

 紳士の中の紳士たる僕が、令嬢にそんな非礼をするわけがなかろう。

 貴様が無駄に暴れるから抑え込んだだけだッ」


 ふん!と肩をそびやかして、ティアン殿下は私のベッドの傍に椅子を引きずってきて座った。

 妙に可愛らしい、くりっとした紅い眼で、私をんじーっと見てる。


「さて、君の番だ。

 本来、僕は皇家の者しか診ないのだが。

 ヴィーが『わたくしを命がけで助けてくれたウィルヘルミナをなんとかしてくださらなかったら、叔父様のことが大嫌いになってしまいそう』などと、あざとかわゆく言うて来るのでやむをえん。

 ありがたく思いなさい。

 光栄に思いなさい」


 ヴィーっていう呼び方は初めて聞いたけれど、口調も声音も本人!?てくらいギネヴィア様そっくりすぎたのですぐわかった。


「は、はい……?」


 状況が巧く飲み込めなくて固まっていると、両手を取られる。

 すぐに両手から同時に魔力が流れ込んできた。

 しなやかな細い細い管が、何本も同時に私の身体に入ってくるような感覚だ。

 一方的に入ってくる。

 これ、魔力を流し込みながら相手の魔力を受け入れて循環させる、魔力巡らしとは違くない!?


「………いいいいいいいッ!!」


 殿下の魔力が入ってくるにつれて、めちゃくちゃ痺れてる足を思いっきり踏まれたような痺れが指先から肘、二の腕へ回ってくる。

 我慢しようとしたけど叫んでしまった。


「これはまためちゃくちゃな魔力流路だな。

 どうなってるんだこれは?

 ここは?

 ここは通るのか?」


「あががががががが……ッ」


 殿下の魔力?が入ってくる感覚は、あっという間に肩を通り、上体を伝って腰まで来る。

 特に背骨のまわりをがしがし削られるようで、痛すぎてなんにも喋れない。


「この年で、まだ脚に魔力が巡っていないのか!

 それでいてこの魔力!

 化け物かこの娘!」


「ぎあああああああッ」


 魔力循環の練習はしてるけど、脚にどうも巧く回らないんです的なことを言いたいのだけど、言葉にならない。

 ていうか、私の身体に勝手に魔力入れてくるとか、そっちが化け物じゃん!?


 思わず涙目で睨む。

 殿下は、ふーむと唸った。

 素でスルーされてる。


「今日は右の膝上まで行くか」


 右手から入ってきてる魔力と左手から入ってきてる魔力が一緒に束になって、きゅるきゅると骨盤の右側をえぐり始めた。


「ぴぎゃああああああああ!!」


 もう無理無理無理無理!ってなったところで、すこんとなにかが抜けた。

 一瞬楽になったと思ったら、次は右の腿の骨の髄?がゴンゴンゴンゴンやられる。


「いだいだいだいだいだいだいいいいいい!!」


 これ、ほんとの令嬢だったら絶対失神するやつだ。

 私だって失神したい!


「ミミミミミナ!?

 大丈夫か!?」


 アルベルト様があわあわと寝台から降りて、助けに来ようとしたけど、なにかに跳ね飛ばされて、ぺしゃんと床に這った。


「貴様ら、大人しく僕の施術を受けることもできんのか!」


 アルベルト様!?って起き直ろうとしたところで、殿下から一喝される。

 あとはもう、絶叫絶叫そして絶叫。


 ようやく解放された時には、汗びっしょり。

 身体に力が入りまくったせいか、なんにも動いてないのに、へとへとだ。

 普通に死ぬかと思った……

 ていうかまだ生きてるのが不思議……


 でも、あれ……?

 なんかちょっと、いやだいぶ身体が楽になってる気がする。


「この娘、よくここまで生きていたな。

 いくら『器』が尋常でなく柔らかいとはいえ、魔力暴発を起こさなかったのが、不思議なくらいだ」


 ティアン殿下はぶつぶつ言いながら立ち上がった。


「次は右の膝下をやる。

 それまで2人でなるべく魔力循環をしておくように。

 貴様ら、だいぶ魔力が混ざっているが、2、3週間ほど循環しつづければそのうち元に収まるだろう」


 床につっぷしたままのアルベルト様とへにゃへにゃの私に言い捨てると、ティアン殿下は、すううっとどこかへ行ってしまった。


アルベルト「俺は長男じゃないから、昏睡したまま循環とか無理無理無理!!」

ティアン「二十三男でも循環せい!」(ハリセンばしーん)

※長男云々は、鬼滅ネタですすみません…


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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
― 新着の感想 ―
[良い点] 足ツボマッサージ回に見せかけたミナの秘密暴露回いいぞ〜
[一言] 王様ナイズされたサブタイかと思ったら、足ツボマッサージ回だった……な、何を言ってるのか(略 わたくし、高橋留美子とか高橋葉介のちょっと古いけど色気のある漫画らしい絵柄好きなので、ジャンプ本…
[一言] ??…にじゅうさんなん…長男ならできるってどうゆうこと?
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