表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

121/235

私に出来ることはいっぱいあったはずなのに

「今回の報道については、新聞各社と宮廷庁が協定を結んでいるから……

 色々発生しているみたいだね、大人の事情が」


 エドアルド様が半笑いになる。


 元皇族で現枢機卿のノルド猊下がリアル闇堕ちフハハとか、皇家にとっても、神殿にとっても大スキャンダルだものね……

 たくさんの生徒が見ているから、噂はがんがん広がるだろうけれど、「枢機卿鳥」が正式に報道されることはないのかも。


 というか、あの時はヨハンナがノルド枢機卿は魔獣襲来を防ごうとして敗れて取り込まれたって話に無理やりしてたけど、今はみんなどう思ってるんだろう。

 枢機卿がケリガン子爵邸で暴れて捕らえられてた話だって関わっている人が多すぎるし、公には報道されていないにしても、帝都の貴族の間には相当回ってそうだ。


「それにしても、扱いちっちゃくないか俺ら……」


 アルベルト様がぼそっと言う。


「そですね。

 研究所、せっかく凄い光線出してたのに……」


 魔導研究所については、群がったワイバーンに雷撃で応戦する塔だけ描いたほんとにちっちゃな絵があって、人物はナシだ。

 記事も十数行程度で「その頃、魔導研究所も頑張ってた!」みたいな感じ。

 アルヴィン殿下の名前すら出ていない。


「まー、うちはなるべく存在感消したい方向ですから……」


 ジャレドさんは、そこは気にしてないようだ。

 たくさんの人が「凄い光線」を見てるのに、研究所もおおっぴらには語られないことになってそう。


 もう一面めくると、亡くなった方のリストが掲載されていた。

 帝都大神殿で、合同慰霊祭が行われることも告知されている。

 日付を見たら、もう終わってしまっていたけれど。


 アルベルト様と2人で、食い入るようにリストを見る。

 

 近衛騎士の隊長さんとベルゼさんは亡くなっていた。

 30名いた騎士のうち、22名も亡くなっている。

 

 生徒や先生も、合わせて11名も亡くなっていて、え!?って声が出た。


人面鳥アルピュイアの生き残りに、2階の正面玄関側が破られたんだ。

 4羽は倒せたんだが、階段に入り込まれた2羽に魔法を連発されて…… 

 エレン嬢がいなかったら、もっと……倍以上は死者が出ていただろう」


 エドアルド様は辛そうにおっしゃった。


 そのエレンは、次から次へと大怪我をした人を治し続けてくれたのだけど、いくらエレンでも即死した人はどうにもならない。

 戦いが終わった後、亡くなってしまった友達をそれでも治そうとし続けて、エレンは錯乱してしまった。

 カール様が必死になだめて、少しは落ち着いたのだけれど……

 夜、帝都大神殿から迎えに来た神官が「やはりエレンが聖女だ、すぐにでも神殿で治癒魔法を使って証明しよう」とかほくほく顔で言いだした。

 エレンは「もう魔法を使うのは嫌だ」って泣き叫んで騒動になり、色々あってブチ切れたカール様がプレシー侯爵家で保護すると連れ帰ったそうだ。

 温厚なカール様が、神殿相手に親の名前を出して喧嘩をするだなんて、よっぽどのことだ。

 エレン、大丈夫なのかな……


 研究所でも、研究員が1名、遺跡の警備についていた人、研究所にいた人合わせて騎士13名が亡くなっていた。


 他に、重傷者のリストもあって、そちらにはユリアナさんだけでなく、ヒルデガルト様のお名前もあった。

 ていうか、普通に私の名前も入ってる。


 ヒルデガルト様、最後に見た時のご様子は、ただ事ではなかった。

 ユリアナさんも、ヒルデガルト様も回復されていればいいのだけれど……


 ヨハンナやリーシャ、普段よく喋ってる子達の名前がリストになかったのはよかったって、一瞬思ってしまったけれど、これだけ亡くなった方がいて、自分の友達は亡くなったり大怪我をしてないからよかったとか、思っちゃいけない気がする。


 というか、少なくとも近衛騎士の人達は、私がもっとちゃんとやれていれば、助かってた人も絶対いる。


 もっとライトを打てていれば。

 もっとたくさん、結界を張れていれば。


 私に出来ることはいっぱいあったはずなのに。


 胸の奥がきゅううってなって、視界が涙でぼやける。


「……ミナ」


 アルベルト様は、私の手をそっと握って、抱き寄せてくださった。




 10日も経ってから取り乱しても、なんにもならない。

 もう少し、今後のことの話をする。


 アルベルト様は動かせるようになり次第、ギネヴィア様のお母様から迎えが来ることになっているそうだ。

 そもそも装置アパラートが壊れてしまったので、アルベルト様がここに居続ける意味はない。

 アルベルト様が主塔から離れられなかったのは、装置に魔力を少しずつ供給しつづけて、装置を「生かしておく」ため、皇族が常時、主塔にいないといけないからということだった。


 ギネヴィア様と第三皇妃様の小宮殿の隣がちょうど空いていたので、すぐ使えるようにして待っていらっしゃるとのこと。

 私はしばらくアルベルト様にくっついておくしかないので、とりあえずその小宮殿に一緒に行くしか?ということになった。


 犠牲者が出ただけでなく、多くの建物がダメージを受けた学院は、閉鎖されているそうだ。

 エドアルド様がおっしゃるには、生徒も先生もみんな帝都に移っているので、自習と課題提出でカリキュラムを消化しつつ、空いている宮殿とか館とかいろんな場所に分かれて、出来る限り授業もしていく方向で動いているそうだ。

 魔獣襲来を食い止めた学院の生徒すごい!よく頑張った!ってなっているので、授業をする場所の提供や、帝都に家がない生徒を無償で寄宿させたいという申し出もたくさんあり、来週には再開できるところまで来ているとか。


 なんかもう、みんなは日常に戻りつつあるんだな……




 切りが良いところで、ジャレドさんは今後の相談があるからと研究所に戻っていった。

 エドアルド様と一緒にお話しながら、アルベルト様の迎えが来るのを待つことにする。


 以前から、アルベルト様にはエドアルド様のお話をしていたし、エドアルド様はアルベルト様の論文を読んだりされていることもあって、話は色々弾んでいた。

 専門領域は違うし、アルベルト様は研究志向、エドアルド様は技術志向だけれど、常識に囚われず、いろんなことを追及したがるところとか、よく似ている。


 話題になったのは主に枢機卿のことで、皇位奪還とかどうとか言ってたし、やはり「ことわりの龍」を召喚し、契約しようとしたのではないかという話になった。


 それにしても、どういう魔法陣を描いたのか、色々謎い。

 もしかしたら、皇家や神殿の言い伝えなどを元に枢機卿が我流で組んだ魔法陣なのかもしれないとアルベルト様はおっしゃった。

 カール様のお兄様、ヘルマン様の件でも、変なことをしていたわけだし。


 枢機卿、なんだかんだで魔法には才能があったのかもしれない。

 ああいう人柄でなければ、魔導理論の研究で活躍できたのかも──


 ふと、エドアルド様が、ヒルデガルト様はどうして重傷ということになったのかと私にお訊ねになった。

 ギネヴィア様とファビアン殿下が呪歌を歌われた時、ヒルデガルト様はファビアン殿下のお傍に立っていらっしゃったこと。

 ヒルデガルト様はお歌いにはならなかったけれど、最後に呪歌にホイッスルボイスを重ねられて、その瞬間、すごい光が出て、周辺の魔獣をなぎ倒したこと。

 そのまま倒れてしまわれ、耳から血を流してらしたことを、ぽつりぽつりと説明した。


 なんでそんなことに!?とびっくりしているアルベルト様に、ギネヴィア様が「意思の剣」を使われた時のヒルデガルト様の様子をエドアルド様が説明する。

 すぐに、アルベルト様は「俺の妹か姪ということか」と察しをつけてため息をついた。


「たぶん、魔力暴発だな……

 呪歌は、皇族同士で魔力を共振させ、魔法の威力を上げるものなんだ。

 一緒に歌えれば、ヒルデガルトの魔力もギネヴィアの極大魔法に乗ったはずだが、歌を知らないまま呪歌を聴いて、共振だけが起きてしまったんだな……

 彼女の中で膨れ上がった魔力の行き場がなくなって、暴発してしまったんだろう」


「じゃあ……本館に残っていらっしゃれば、ご無事だったんでしょうか」


「おそらく」


 アルベルト様は頷いた。


 野原に出ようとするファビアン殿下に、ヒルデガルト様がおすがりになった時の必死なご様子を思い出す。

 あの時、ヒルデガルト様は、ご自身が皇女であるとかそういうことはわかってなかったけれど、ここでファビアン殿下の手を離したら、二度と会えないと直感されてたんじゃないかと思う。

 だからこそ、ファビアン殿下もヒルデガルト様をお連れになり、ギネヴィア様もできる限り二人が一緒にいられるようにされたんだろうけれど……


「ただし、今聞いた限りでは……

 彼女がいなかったら、極大魔法発動まで、持ちこたえられなかったんじゃないか?」


「……たぶん、そうなったと思います」


 私にしたって、あの魔羆に殴られて即死していたはずだ。

 極大魔法発動まであとほんの数秒のところで、近衛騎士も総崩れになっていたと思う。


 ギネヴィア様が極大魔法を発動できなければ、本館だってキング・ラシャガーズにやられていた。

 魔導研究所も、周辺の町も、ひょっとしたら帝都新市街まで。


「魔力暴発を起こすと、魔力を溜められなくなる。

 それで……亡くなってしまうこともあるけれど、この時点で重傷者リストに入っているということは、助かる可能性も十分ある。

 レディ・ヒルデガルトが早く回復されるといいね」


 エドアルド様は静かにおっしゃった。

 今は、そう思うことくらいしかできない。


いいね&ブクマ&評価、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ