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ノルド枢機卿は遺跡でなにをしたんですか?

「えっと、ノルド枢機卿は遺跡でなにをしたんですか?」


 とりあえず渇きが収まったところで私が訊ねると、ジャレドさんが微妙な顔をした。

 アルベルト様が、身振りで答えるよう促す。


「一昨日、先遣隊ってことで遺跡に行ってみました。

 地上部分は瓦礫の山になってたものの、地下は無事でなんとか入れて」


「え、ラシャガーズとかが通ったのに、地下の通路大丈夫だったんですか?」


 って、あれ?

 ラシャガーズって、あの通路よりどう考えても大きすぎない?って言ってて気がついた。


「いやいや、遺跡の中から魔獣が出てきたんじゃなくて、溜まりまくっていた瘴気がぶわっと外に噴き出して、遺跡周辺の地上で魔獣の姿をとったんだと思う」


 エドアルド様が補足してくださる。

 なるほろ……


「遺跡の中の瘴気は枯れていて、魔獣は一体も出なかったんで、さくっと『祈りの間』まで行ってみると、バカでかい魔法陣が魔獣の血で描かれてましてね……」


 ジャレドさんの説明の続きに、なんだそりゃって、アルベルト様が呆れる。

 魔獣の血で魔法陣を描くとか、初めて聞いた。

 なんか魔法っていうより呪いっぽいんですけど……


「強大な力を招くとかなんとかそんな内容の呪文らしくはあったんですが、見たことがない言葉が多くてなにがなにやらで。

 とりあえず皇家に速報を送ったら、当面、研究員は遺跡に立ち入るな、資料は写しを残さずこっちに全部よこせという命令が返ってきました。

 今後は、皇家から直接、調査隊を送ってくるそうで」


 俺らは用済みらしいですよと、ジャレドさんは両手を広げてみせる。


「ほへー……

 魔獣を召喚して合体しちゃうような魔法があるってことなんですか?」


「俺はそんなの知らないぞ。

 いくら皇家でも、そんなめちゃくちゃな魔法はないだろう」


 アルベルト様が嫌そうな顔をする。


「『紅霧の姫君』には魔獣を召喚する魔法が出てきますが、あれは想像の産物ですよね??」


 エドアルド様がおっしゃる『紅霧の姫君』というのは、エスペランザ王国以前から伝わる古代叙事詩だ。

 古代叙事詩には、いくら魔法でもそれ無理っしょ!?てなる凄い魔法が色々出てくる。


 実は、魔獣召喚魔法も昔の人は使えていて、それを枢機卿が神殿経由だかなんだかで知っていて、ことわりの龍を呼び出すつもりで発動させたのだけれど、そもそも場所が違うわけだし、術式も不完全だったかとか色々あって、ああなっちゃったってこと??


 とりあえず、ジャレドさん達先遣隊的には、瘴気がかなり濃く溜まっていた遺跡で、不完全な召喚魔法?を発動させたことが引き金になって、魔獣襲来が発生したと推測しているとのことだった。

 私達には枢機卿が魔獣の群れを指揮しているように見えたけれど、たぶん違ってて、枢機卿の行動が刺激になって魔獣襲来が発生し、彼はその尻馬にのっかっていたという方が正確なんじゃないかとエドアルド様はおっしゃった。

 ただし、あのまま遺跡に瘴気が溜まり続けていたら、数年後か、数十年後かわからないけれど、もっともっと大きな規模の魔獣襲来が発生してたんじゃないかとも考えられると、ジャレドさんはめちゃくちゃ微妙な顔で言う。


 そこまで教えてくれたところで、「やべ、やっぱりこれ、言っていい話じゃなかったかも」とジャレドさんが慌てだしたので、とりあえず忘れることにする。


「ところで、さっきアルヴィン殿下と1mくらいの距離で思いっきり目があったんですけど、僕、魅了されてます?

 やはり僕とウィラの絆は、殿下の魅了にも勝ったんでしょうか!?」


 エドアルド様、「勝ったんでしょうか?」と言いつつ、「これ絶対、勝ったよね!さっさと認めろよ!!」と言わんばかりのすごいドヤ顔だ。

 いやいやいや、アルベルト様の魅了、そういうレベルじゃないんで……


「確かに、普通だな。

 ……というか、君は?」


 あ! そういえばアルベルト様にエドアルド様を紹介していなかった!


「ブレンターノ公爵が次男、エドアルドです」


 エドアルド様は、男性皇族に対する略式の礼をとった。


「あーはいはいはいはいはい!!

 ギネヴィアとミナがいつも世話になっているね。

 特に神殿の件では、ミナを守ってくれて本当に感謝している」


 アルベルト様はがばっと頭を下げて、エドアルド様があわあわした。


「……で、どうして君がここに?」


 アルベルト様はいぶかしそうに、エドアルド様とジャレドさんを交互に見た。


「もともとブレンターノ君は、ここの魔導工学研究室と交流もありましたし、所長とベルフォード嬢を救った大功労者なので、『繭』を見守る係ということで許可が出たんですよ。

 とにかく手が足りないんで」


 ジャレドさんは苦笑いをした。

 なるほろ……


「久々に起きた魔獣襲来を学院の生徒が防いだってことで、帝都は無駄に盛り上がってるんだ。

 家にいると、親戚やら赤の他人やら押し寄せてくるからね……」


 今度はエドアルド様が苦笑する。


「本館は僕が指揮したってことになってるんだけど、上位貴族はてんでバラバラに『僕の私の最強魔法!』を打ってばかりで、巧く連携させられなかった。

 枢機卿鳥をやっつけろって指示も、数式魔法を援護する総攻撃の指示も、本当は僕が出すべきだったのに、出遅れてしまったしね。

 ヨハンナ嬢がぶちかましてくれなかったら、僕らはみんな殺されていた。

 だから……褒め称えられても辛いんだ」


 はふ、とエドアルド様はため息をついて、視線を落とす。


「でもそれは、エドアルド様のせいじゃないじゃないですか。

 具体的な役割分担とか全然決めてなかったし、エドアルド様だって指揮をとったのは初めてでしょう?

 あんなに強いウィラ様だって、初陣はさんざんだったっておっしゃってたじゃないですか」


 もがもがとフォローしようとしたけれど、エドアルド様は困ったような笑みを作って、いいんだと軽く手を振った。


いいね&ブクマありがとうございました!

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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
― 新着の感想 ―
[一言] そっか…平民が見事な指揮とりをしていたってのは、本人にとっても、本来陣頭で指揮を取らなくちゃいけない高位貴族にとっても、広まったら面倒な事にしかならない案件なんだ…。 そりゃ居心地悪いね。ヨ…
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