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長い長い夢を見ていた

 長い長い夢を見ていた。


 地平線まで続く金色の砂漠。

 びょうびょうと風が吹いて、空は淡い金色の砂塵に覆われている。

 聖歌なのか呪歌なのか、合唱曲っぽい歌がわんわんと聴こえてくるけれど、歌詞は聞き取れない。


 ベルゼさんや隊長さん、近衛騎士達が倒れた姿のまま砂の像になっていて。

 風が吹く度に、少しずつ崩れていってる。

 わたしの身体も砂になっていて。

 わたしも死んだのかなって思ってたら、アルベルト様もいて「なんで!?」ってなってたら。


 エルスタルや歴代皇族のバカでかい彫像が、アルベルト様を迎えに来る。

 カイゼリンはいなかったけど、手をつないだアウローラとレクシアとか、皇女達もいた。

 先代皇帝の彫像もいた。

 人面鳥と合体する前の、ノルド枢機卿の彫像もしれっといた。

 みんなでアルベルト様に「お前も帝国を守る亡霊になれ」みたいなことを言うから、わたしはブチ切れて。

 光弾打ちまくったんだけど、壊しても壊しても元通りになって迫ってきて。


 ヤバいヤバいこれヤバいってなった時に、空を覆うようなバカでかいことわりの龍がどーんと出てきて。

 「意思の力」を使えって言ってきた。


 ああそうだ、村祭りで魔獣を斃した時も、ここに飛ばされて来て、理の龍に同じことを言われたんだって思い出した。

 ここは生と死の狭間にあるどこか。

 わたし、あの時、一回死んでたんだね……


 アルベルト様と抱きあって。

 お互いに「意思の力」を伸ばして触れあわせると、びゃーって身体の中から光って。

 わたしの「意思の力」がアルベルト様を満たし、アルベルト様の「意思の力」がわたしを満たす。


 混じり合った「意思の力」から生まれた魔力が渦を巻いて広がっていくうちに、空が晴れた。


 空いっぱいに、青い海に囲まれた大陸が広がっていて。

 「意思の力」と「腐蝕の力」が、絡み合うように大陸に流れているのも見えて。


 ああ、あれが「龍脈」なんだってなって。

 ああ、あれが「ことわりの龍」の本当の姿なんだってなって。


 あっちに戻ればいいんだってなって。


 アルベルト様が、なにか凄い魔法を使う。

 わたし達は抱き合ったまま、流れ星のように、真っ青な空に堕ちていく────




 ぽわぽわと温かいものが身体のすぐ近くにある。

 そっと揺り動かされる感覚で目が覚めた。


「……ミナ」


 柔らかい乳白色の光を背景に、私の顔をアルベルト様が覗き込んでる。

 なんでか寝袋の中?みたいな狭いところに、2人で横になってひっついているみたいだ。


 はわ!?って見上げてると、アルベルト様のお顔がすうっと寄せられてきた。


 このコースはいつもと違う!!

 唇へのちゅーだ!!


「だめ!!」


 反射的に、アルベルト様の胸のあたりを両手で突き上げた。


 男爵家の養女になった時、奥様に「令嬢たるもの、どんなに好きな殿方でも、唇へのキスは婚約が正式に成立してから!! なんなら結婚式までお預け!!」と、めっちゃ叩き込まれたのだ。


「ぎゃあああああ!!」


 ぼこっとなにか柔らかいものが壊れる音と共に、アルベルト様は悲鳴を上げて、のけぞった。

 私達を包んでいた?なにか白っぽいものがばりばりと割れ、みるみるうちに消えてゆく。

 なんだこれ??


 白っぽいものの外には、紺色の帆布の天井とか組み立て式の柱が見えた。

 大きな天幕の中とかそんな感じみたいだ。

 幕をめくりあげた入り口から、外の草地が見える。


 朝?昼?

 光の加減からしてまだ午前中っぽい。


 わけがわからないけど、あたりを見回すと、私達を包んでいた白っぽいものごと、大きな簡易寝台にのっかってたみたいだ。

 アルベルト様と私はベッドの上でくっついている状態になっている。


 唇へのキスが駄目なんだから、ベッドの上で異性とくっついてるとか、絶対NGでしょ!?

 さんざんお膝抱っこされてた気はするけど!!


 あわあわしながらアルベルト様から離れようとすると、白っぽいものはどんどん割れて、淡いキラキラとなって、それもやがて見えなくなっていった。


「ぎゃああああああ!!

 繭が消えていく!!」


 白衣を着たエドアルド様が駆け寄ってきて、悲鳴を上げた。

 焦りながら繭?の断片を集めようとするけれど、手を伸ばした端から消えてゆく。


「ぎゃあああああああ!!

 所長!! いきなり出てこないでくださいッ!!

 魅了が! 魅了が!!!

 総員退避いいいいい!!」


 その向こうでジャレドさんが叫んで、エドアルド様の首根っこをひっつかんで引き戻し、出入り口付近に立てかけられてた小さなのぞき窓がついた大きな金属製の盾を構える。

 わけがわからないまま身を起こしたアルベルト様は、あうあうしながら眼鏡眼鏡とまずは瓶底眼鏡を探し始めた。


 なんだなんだなんなんだ!?


 と、私も身を起こして気がついた。

 私、ブラウス、着てないじゃん!!

 スカートもめっちゃめくれてるじゃん!!


「ぎゃああああああああ!!

 令嬢生命が終わるうううううう!!!」


 身体を縮めながら、思いっきり叫んでしまった。




 とりあえずアルベルト様のマントをひっぺがしてくるまり、そのへんを探したら、紺のサマーセーターが転がっていた。

 聞いてみたら、エドアルド様がぬぎっぱにしてたとかで、この際お借りする。

 私のブラウスはどこにいっちゃったんだろう……


 じゃなくて。

 ええと……

 アルベルト様が死にかけてて、魔力を流し込んで……

 で、どうなったんだっけ??

 あ、なんかもう駄目かもって時に、エドアルド様が来てくれた覚えはある……


 無事、眼鏡をかけたアルベルト様とぱちくりしていると、エドアルド様と一緒に天幕の入り口からこっちを覗いているジャレドさんに、魔獣襲来があった日から今日で10日目とだ言われて、ふぁあああ!?ってなった。

 って、言われても、軽く仮眠をとった後くらいの感覚だ。


 とりあえず、ギネヴィア様に「手紙鳥」で意識が戻ったことを知らせたいってアルベルト様は言い出したけど、ジャレドさんに、魔力の流れが乱れまくってる可能性が高いから、魔法は落ち着いてからにしとけって言われた。


 よくわかんないけど、まずは水分補給しろと言われて、お茶をもらった。

 言われてみると、めちゃくちゃに喉が乾いていてる。

 ヤカンで沸かしたお茶を天幕の入り口で私が受け取り、奥のアルベルト様と一緒にごくごく飲んではおかわりをしまくった。


 飲みながら、ギネヴィア様の極大魔法発動、枢機卿鳥の強襲、アントーニア様とセルゲイ様の渾身の一撃に、ギネヴィア様とアデル様の数式魔法炸裂と、アルベルト様に学院側はどうなってたのかお話する。


 アルベルト様は、よく頑張ったってめっちゃ褒めてくれて、それから研究所側はどうなっていたのか教えてくださった。


 午前中、遺跡にノルド枢機卿がやってきて、勝手に遺跡に入ろうとするので警備が止めたら、魔法で騎士達をなぎ倒して入ってしまったそうだ。

 運良く難を逃れた警備のおじさんが、どうにかこうにか研究所までたどり着いて報告したのがお昼頃。

 大騒ぎになったけれど、研究所の騎士だけで枢機卿を抑えるのは心もとない。

 魔力が強いのは圧倒的にアルベルト様だけど、アルベルト様にしたって戦闘経験はないし、そもそも塔から離れられない。


 とりあえず、帝都に早馬を出して、あわあわしていたら、魔獣襲来発生を感知。

 研究所に組み込まれた装置アパラートを起動した。

 物見の指示どおり、アルベルト様が巧く装置をコントロールして、順調に人面鳥とワイバーンの群れもほぼ斃したところで、枢機卿鳥が登場。


 でも枢機卿鳥が死にかけのワイバーンを操って?特攻させ、装置が壊れてしまったのだそうだ。


夢のシーン:Mozart: Ave verum corpus, K.618

https://www.youtube.com/watch?v=_Ns6LQ1Hcqw


ヨハンナ「ところで、そろそろアウローラとレクシアに禁断の異母姉妹百合の波動を感じるのですが」(眼鏡くいー)


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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
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[良い点] 異母姉妹百合と聞いてやってきました! [気になる点] …………令嬢としての外聞、守る気あったんだ……………あったの?(過去のアレコレ思い起こしながら)
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