幕間 塔の研究室
「で、よかったよかったってなったんですけど、ヨハンナが戻って来なくて探しに行ったりして遅れちゃいました。
ほんとすみません……」
魔導研究所の主塔、最上階の研究室で、アルベルト様に角度90度で頭を下げる。
ヨハンナはゲルトルート様を追いかけたけど背が低いこともあって途中で見失い、迷子になって途方に暮れていたらしい。
見つけた時にはへたりこんでいたので、ウラジミール様におんぶしてもらって帰った。
「あの、ゲルトルート様は炎魔法を使うのに、なんで冷気が出てきたりしたんですか?」
炎と氷、性質は逆だし、相性が悪い気がする。
「それは、彼女は火属性がメインだけど、水・風も副属性で持っている、3属性持ちだからだね。
詠唱もしていないのに、冷気が発生したっていうのは、『染み出し』だろう。
魔力が大きいと、感情に応じて力が周囲に影響を与えてしまうことがある。
魔法の属性の種類は覚えてるかな?」
「ええと、火・水・風・土・光・闇と6つ属性があり、それに加えて属性の適性がなくても使える無属性がある……ですよね」
「そうそう。
大きなものを燃え上がらせる『炎』を使うには火と風が必要なんだ。
氷を使うには水と風だね。
火と水、風と土は、相性が悪いので反属性と言われてる。
火と風、水と土という風に反属性にならない組み合わせの属性を複数持っている人はそこそこいるけど、反属性を同時に持っている人は上位貴族でもそんなにいない。
3属性持ちは貴重なんだよ」
「ほえー、ゲルトルート様、凄いんですね」
「彼女の血筋には、偉大な魔導士が多いしね。
火と風だけでなく、水を持っていると、炎を発動させる場の水分量をコントロールすることができるから、より大きな炎を出すことができる」
「あ!『蒼蓮の舞』ってそれですか?」
「そうそう。あれは火がメインで風だけでなく水も持ってる人でないと使えない、炎系の中でも最強クラスの魔法だ。
高温の炎が蒼く見えるので、そう名付けられた。
水を持っていない人だと『紅蓮の舞』になって、蒼蓮ほどの威力はない」
「なるほろ……」
「ちなみに水メインで火と風を持っている人だと、最強クラスの攻撃魔法はどうなると思う?」
水メインっていうことは、使える水の量が多そう。
となると、たくさんの水を加熱して、風で動かして……?
「……熱湯の嵐みたいな感じで、『煮えたぎる舞』とかですか?」
かっこい名前は思いつかなかった。
「『水蒸気爆発』だ。
狭い空間で巧く使うと、なかなか凄いことになるよ」
あー、そっちか!!
「って、それが魔法の名前!? そのまんまじゃないですか!!」
アルベルト様は笑った。
「魔法は、最初に開発した人が名前をつけることになってるからね。
ミナも新しい魔法を開発できるかもしれないから、名前をつけるときのことも考えておいた方がいい」
とりあえず連絡手段がないのは不便だということになって、事前に契約を結んだ相手なら、離れたところにいてもメッセージを届けられる、無属性の「手紙鳥」を習った。
「手紙鳥」、便利そうだけど、「魔法の名前はそのまんま」派がつけたっぽいな……
まず、契約用の魔法陣を描き、まず私が親指を魔法陣のまんなかに置いて魔力を流し、アルベルト様も流して魔法陣が輝く。
これで契約成立だ。
通信用の魔法陣を描いた紙にメッセージを書いて鳥の形に折り、魔力を流すと、白い小さな鳥の姿になって羽ばたき、くるくるっと回って消える。
しばらくすると、カカッと駒鳥が幹を叩くような音がして白い鳥が現れ、手のひらを出すと舞い降り、メモを書いた紙片の姿に戻る。
練習がてら、アルベルト様宛の魔法陣をたくさん書いておく。
これでなにかあってもアルベルト様に連絡できる!
寮に帰って寝る前に、さっそくアルベルト様に「おやすみなさい」の挨拶を出してみる。
ついでに、新魔法の名前を相談してたら、しばらくして「そろそろ寝ろ」と怒られた。
またしてもブクマと★★★★★を頂戴していました! ありがとうございます!!!
巨乳お姉様こと赤のお姉様、ゲルトルート様編はこれで終わりますが、2人(とセルゲイ、ウラジミール)は後の章でも大活躍します。
今後ともよろしくお願いいたします!




