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けど、やるしかないんだ

 階段より上に残ったのは、ホールに残った先生や生徒と合わせて300人に足りないくらい。

 ほとんどが魔力にそれなりの自信がある子、騎士を目指して修練を積んでいる子だ。

 といっても、実戦経験がある子はあまりいない。

 平民の中にも、救護係や騎士・魔道士の手伝いを志願して残った子がいた。

 エレンも残ってる。


「エドアルド、本館防衛を任せます。

 『御物ぎょぶつ』も含め、使えるものはすべて使いなさい」


「は!」


 エドアルド様が、腹をくくった顔で頷き、そばにいたカール様になにか頼んだ。

 カール様が慌てて駆け出していく。

 残った人の数を数え、騎士組魔法組その他で分け、魔法で戦う者は属性が違う組み合わせで3人1組になれと、先生達が班分けを始めた。


「ヨハンナ、どうやったら極大魔法を効果的に運用できるか考えて。

 ファビアンが入ってくれるから、効果範囲を倍で計算してちょうだい。

 射程距離は、効果範囲の半径に50メートル足してくれれば」


「りょ!!」


 声をかけられたヨハンナが、エドアルド様を呼んで地図を前にああだこうだやり始めた。

 デ・シーカ先生と近衛騎士の隊長も入る。

 効果範囲いきなり倍って……

 呪歌っていうのが、魔法の効果を高めるのかな。


 その間にも、唯一、鎧戸が降ろされていないバルコニーに面した窓から、近衛騎士が状況を報告する。

 魔鼠が本館周辺にまた集まってきているし、ヘルハウンドの群れもだいぶ近づいているようだ。

 急がないと!


 ギネヴィア様は、ひとかたまりになっていた留学生の方へ眼を向ける。


「皆様は、退避壕へ」


 留学生達は顔を見合わせ、互いに頷きあった。


「ここで戦わねば、我々も国に帰れません」


 北方諸国から来ているイケメン金髪王子、リュークス殿下がきっぱり言う。


「では、本館をお願いします」


 お互い頷きあったところで、エドアルド様がギネヴィア様を呼んだ。


「殿下、詠唱位置の確認を」


 他の建物も邪魔になるので、本館から魔導研究所方向に200mほど行って、そこから遺跡の方角に射程距離ぎりぎりで極大魔法を打つのはどうかと、エドワルド様は提案した。

 本館からキング・ラシャガーズの位置を確認し、キング・ラシャガーズが森から野原に入ったところで知らせ、詠唱開始、発動と行けば、キング・ラシャガーズが本館に向かっても、魔導研究所に向かってもまず巻き込めるとヨハンナが補足する。


 それでいきましょうとギネヴィア様がうなずいて、後はどうお守りするかと言う話になった。

 近衛騎士には魔法が得意な人もいるとかで、その人達には魔法メインで動いてもらうことになる。


「あと3,4名、魔法で戦える者が欲しいけれど……」


 え、それだけしか連れていかないの!?と思ったけれど、エドアルド様もヨハンナもなにも言わない。

 少人数に絞らないといけない事情があるっぽい。


 ギネヴィア様の視線が皆の間をさまよい、私と眼があった。


「お供します!!」


 怖いか怖くないかで言えば、めっちゃ怖い。

 けど、やるしかないんだ。


 ギネヴィア様は金眼のままながら、いつもの姫様スマイルでにっこりしてくださって、ちょっとほっとした。


「私もお供します」


「私もお連れください」


 ユリアナさん、デ・シーカ先生も志願して、ギネヴィア様とエドアルド様が頷いた。

 本館もデ・シーカ先生は欲しいだろうけど、最近まで現場で魔獣と戦っていた先生なしにギネヴィア様を守り通すのは厳しすぎる。


「殿下!これを!」


 カール様が「伝令石」と呼ばれる、緑色の大きな魔石を埋め込んだ、手のひらに乗るくらいの箱をいくつも持ってきた。

 起動すると、数百mくらいなら離れていても互いに会話できるという魔道具だ。

 今も騎士団で使われているもので、初期皇族が使っていた武器などの御物と一緒に展示されていた。

 持ち運びやすいよう、ポシェットのようなベルトや紐がついている。


 ユリアナさんが受け取って、魔力を流す。

 カール様も本館に残す分に魔力を流して、音声が通るかテストする。

 大丈夫っぽい。

 ユリアナさんは、ベルトを斜めがけにした上で紐をウエストで結んで、身体にしっかりくくりつけた。

 1つだけだと故障したとき、まずいってことになって、もう一つ起動して、私の胸の下にくくりつけてもらった。


 ギネヴィア様は、皆の様子をもう一度眼に焼き付けようとするようにあたりを見回し、いつものふんわりした笑みを浮かべて頷いた。

 そのまま、野原の方に向かいかけて、足を止める。


 帝都の方角を眺め、ほんの少しの間、瞳を揺らす。

 きっと、お母様のことを考えていらっしゃるのだろう。


 でも、思いを切るように唇を引くと、左耳の前の髪を一房、くるりとひねってしっかり結び、肩の上あたりで、光のフルーレを使ってスパッと切った。


 高貴な女性は長い髪を大切にするから、みんな、え!?てなった。


 死地に出陣する騎士が、遺髪として髪を切って残していくことがある。

 そういうこと!?


「アントーニア、預かってちょうだい。

 ……先行します」


「殿下!?」


 近くにいたアントーニア様に無造作に髪束を渡すと、返事を待たずにギネヴィア様はバルコニーへ飛び出し、欄干を片足で蹴って、ぽーんと地上まで飛び降りた。


 ここ3階分くらい高さあるんだけど!?


 あっけに取られてるうちに、フルーレで魔獣を薙ぎ払いながら、野原を突っ走っていく。

 人間にはありえない速さだ。


 一拍遅れて、近衛騎士達とユリアナさんが追いかける。


「殿下、私も参ります」


 続いて出ようとしたファビアン殿下に、ヒルデガルト様が取りすがる。

 必死の表情を見て、殿下は一瞬ためらったけど、ヒルデガルト様の手を掴むと外に走り出した。

 私とデ・シーカ先生も、慌てて後を追う。


 正面に見える魔導研究所は、いつもと変わらないように見えるけど……

 アルベルト様、どうしてるんだろう。




 本館へ群がっていた魔鼠や、本館に向かおうとしてたヘルハウンドは、飛び出してきたギネヴィア様に釣られて、ギネヴィア様を追う。

 でも、ギネヴィア様が光のフルーレを振るうたび、数十メートル先まで魔獣が吹き飛んでいく。

 ギネヴィア様が走った後がちょうど魔獣のいない空白地帯となり、いちいち魔獣と交戦しなくてよい私達はひたすらギネヴィア様を追いかけた。


 ていうか、ギネヴィア様ほんと速い!!

 そんで近衛騎士の人、金属鎧をつけて盾も持ってるのに、手ぶらの私と速さが変わらなくて凄い!!

 あと、侍女用のシンプルなものとはいえ、デイドレス姿なのに私と同じくらいのペースで走ってるユリアナさんも凄い!!


 と、全力疾走していたら、やや地面が盛り上がって高くなっている草地のてっぺんでギネヴィア様が立ち止まり、幾度も大きくフルーレを振るって、殺到してきたヘルハウンドを根こそぎ屠った。

 魔獣の輪が大きく後退する。


「場所の確認を」


「はい!」


 ユリアナさんが伝令石に、場所はここで良いのかと問うと、少しノイズ混じりのヨハンナの声で「そのあたりで待機を!」と返ってくる。

 本館は、配置につき始めたようで、切れ切れに聞こえてくる声を合わせると、2階のホールをそのままエドアルド様の指揮所とし、魔法を2階から打ってとにかく本館に近づく魔獣を削り、剣や槍とか近接武器組は主に1階に配置して、突破してきた魔獣に対応するようだ。

 ヨハンナは他の子達と観測係。

 屋上じゃ人面鳥アルピュイアにすぐやられてしまうので、本館の最上階にあたる3階に移動してる。


 ギネヴィア様が自分の周りに集まるようにおっしゃったので、皆、小高くなったところに集まった。

 ギネヴィア様は靴と靴下をぽんぽんと脱ぎ捨て、裸足で仁王立ちになると、眼を伏せて詠唱に入った。


土の陣(グルーダ・テンダーロ)!」


 ダダン!と音がして、大きな魔法陣が地面に展開され、ざああっとつむじ風が足元から立つと、私達が立っている地面が盛り上がりはじめた。

 名前だけは聞いたことがある。

 確か、土属性の魔法の効果を高める魔法だ。


 ひょああ?っとよろめいたりしてたら、周辺から1mくらい高くなったところで止まった。

 直径20mくらいの円形の舞台の上に、みんなで立っている状態になる。

 中心部、直径3mほどがさらに50cmほど高くなっていた。


 さっきまで生えていた草は消え、しっかり固まってるなめらかな黒土には魔法陣の一部らしき溝が刻まれている。

 恐る恐る一歩踏み出してみた。

 ちょっと踏んだくらいじゃ溝は崩れたりしないみたいだ。


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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
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