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意思の剣(グラーボ・デ・ヴォーロ)!

「はいはいはいはいー!

 通してくださいなのです!!」


 ヨハンナが下から人混みをかき分けて上がってきた。

 ウラジミール様と一緒だ。


 ホールを見回すと、2人して、壁にかかっている初代皇帝の巨大肖像画をいきなり外しはじめる。

 背の高いウラジミール様とちびちゃいヨハンナじゃバランスが取りにくいので、よろっとしてる。

 慌てて私も手伝ってどうにか下ろした。


「き、君たち、なにをしてる!?」


 先生達が慌てて止めようとしたけど、もう遅い。

 ヨハンナの指示で、ウラジミール様が肖像画の跡が残る白い壁に赤いチョークで図を描きはじめた。

 学院周辺の地図だ。


 学院があって、魔導研究所があって、2つの施設が面している広い野原がある。

 野原の大きさは南北に3km、東西に2kmほど。

 南側に魔導研究所、学院は東側の中央から南寄りにある。

 研究所と学院の本館の間は1kmほど。

 遺跡は西北方向の森の中だ。


「キング・ラシャガーズがいるなら、本館に取り付かせてはならんのです!

 野原に打って出て、きゃつらをぶっ殺す以外に生き残るすべはないのです!

 なる早で作戦を立てるしかなのです!

 姫様、ご決断を!!」


 ふんす!とヨハンナが仁王立ちで宣言する。

 そうだ。

 戦うにしても、本館に立てこもるだけじゃ駄目だ。


 ギネヴィア様は、力強くヨハンナに頷き返した。


「わたくしの極大魔法は……最大効果範囲、直径約600m。

 範囲内の魔獣は、空を飛べるものを除いて殲滅することができます。

 範囲に入ってさえいれば、魔象ラシャガーズが何頭いようとも関係ない。

 これより強い魔法を打てる者はいますか?」


 ギネヴィア様がおっしゃって、みんな一瞬「は??」ってなった。


 初期皇族が「キームの栄光」みたいにめちゃくちゃな威力の魔法を使っていたのはみんな知ってるけど、なかば伝説みたいなもの。

 ギネヴィア様は2属性だし、皇族としては魔力が少ないのだろうというイメージがなんとなくある。

 そんな凄い魔法が使えるといきなり言われて、特別な魔法を習っていると聞いていた私でも頭がついていかない。


 とりあえず、ギネヴィア様より強い魔法を打てると申し出た者はいなかった。


「……ならば、わたくしが出ます」


 ギネヴィア様は静かに宣言され、少し気後れしたような眼をファビアン殿下に向ける。


「ファビアン。

 わたくしは良い姉ではなかったけれど……助けてくれるかしら」


 ファビアン殿下が、ふっと笑って頷いた。


「もちろん。

 なんだかんだで、俺のことを弟として扱ってくれたのは、姉上と、皇太子殿下だけですし。

 呪歌を1番しか歌えなくても、役に立てますか?」


 ……呪歌ってなんだろう。

 瘴気溜まりをヒルデガルト様が歌で消した?時に、ちらっと聞いた皇家の歌??


 ギネヴィア様も笑みを見せて、ファビアン殿下に「十分よ」と頷き返し、皆に向き直った。


「ただし、わたくしの極大魔法は、邪魔なものが地下にない、広い地面に足をつけていないと発動できません。

 大きな建物から100mは離れないと打てないし、呪歌で効果を高めるのなら詠唱開始から発動まで3分はかかります。

 魔獣の動きを先読みして詠唱を始めないといけない上、詠唱の間、わたくしとファビアンは無防備になってしまう」


 ええと……

 ギネヴィア様の極大魔法が巧く使えれば、魔象もなにもかも、飛べない魔獣はまるっと倒すことができる。


 でもその魔法は、本館からは打てない。

 野原に出て、少なくとも3分間、押し寄せる魔獣から両殿下を守りきらないといけない。


 こないだの湖でヘルハウンドに迫られた時、ほんの数頭だったのに死ぬほど焦った。

 あの時はすごく長く感じたけど、結局、十数秒くらいの出来事だったのかな。

 今度は四方八方から、ヘルハウンドも、ヘルハウンドより強い魔獣も押し寄せてくる。


 それが3分間。

 180秒。


 その間、ギネヴィア様達を守りきらないと……

 ヨハンナが言うように、本館まで魔象が来たら、地下の退避壕に立てこもっても無駄だ。

 本館の地上部を倒され、1階の床を踏み抜かれる時に圧死するか、建物が崩落するときにたまたま助かったとしても隙間から入り込んでくる魔獣に、逃げ場もなく生きながら喰われることになる。


「我々が両殿下の盾となります」


 近衛騎士の隊長が、覚悟を決めた顔で頷き、左腕を胸前に持ってくる騎士の礼をとった。

 後ろにいた騎士達も、それに続く。

 ギネヴィア様とファビアン殿下は頷き返した。


「無茶だ!

 すぐに魔獣の群れが来る!

 近衛騎士30名では守り切れない!」


「ギネヴィア殿下ッ

 殿下方は退避壕にお入りください!!」


 副学院長達が、ギネヴィア様に取りすがる。


 いらっとギネヴィア様が眉を寄せて、右手を振り上げた。


意思の(グラーボ・デ・)(ヴォーロ)!」


 強い光がカッと閃いて、思わず眼をつぶったけどよろめいてしまう。

 頭を上から無理やり押さえつけられているような、強い圧に負けて、思わず跪いた。

 ざざざっと、ギネヴィア様から近い方から、同じようにみんな跪いてる気配がする。


「……一度くらい、わたくしの好きにさせてちょうだい」


 皆、階段の下で泣き叫んでた子達も一瞬で静まり返ったところで、少し笑みを含んだギネヴィア様の声が降ってくる。


 すんごい圧にじっとり脂汗をかきながら、かろうじて眼を上げると、エドアルド様も、アントーニア様も、先生方も、騎士達も、他国の王族である留学生も、階段の下の生徒達までみんなギネヴィア様に跪いていた。

 立っているのは、ギネヴィア様、ファビアン殿下と──ヒルデガルト様だけ。


 皆を跪かせたギネヴィア様は、右手にフルーレのような細身の剣を下げている。

 いや、違う。

 剣のかたちをした光だ。

 深い緑の瞳が金色に染まり、下ろした黒髪が、風もないのにふわふわと遊ぶように揺れている。


 お顔の印象が、いつもと全然違う。

 とうとくて、遠くて、謎めいていて……

 まるで、お名前のとおり「カイゼリン」みたいだ。


 ファビアン殿下の瞳も、ヒルデガルト様の瞳も、金色に変わっている。

 ウィラ様みたいにもともと金眼の人とも違って、びゃっと光を放射しているような強い色だ。

 ……って、なんで、ヒルデガルト様も!?


 皆を見渡したギネヴィア様は、ヒルデガルト様の様子に気づいて息を引き、なにか言いかけて飲み込まれた。

 ファビアン殿下も、ギネヴィア様とヒルデガルト様を見比べて──真っ青になり、「君は」とうめくように一言漏らされた。


 ヒルデガルト様は、なにが起きたのかわからなくて、戸惑っていらっしゃる。


 「意思の剣」、どう見たって皇家専用魔法だ。

 降嫁で幾度も皇家の血が入っている公爵家の者であろうと、他国の王族であろうと、「皇族ではない者」を従わせてしまうのだから。

 それが効いてなくて、両殿下と同じく瞳が金色に変わるって……

 

 ヒルデガルト様も皇女ってこと??

 なんで??

 なんだっけ、会ったこともない叔母様が昔、皇宮に仕えていたとかなんとか……

 もしかして、その方が本当のお母様で、実は先代皇帝か当代皇帝の手がついていた方だとか……そういうこと?


 頭の中がぐるぐるしているうちに、押さえつけられている感覚がふっと抜けて、みんなふらふらっと立ち上がった。


「戦う覚悟がない者は、今すぐ退避壕へ。

 覚悟がある者は階段へ上がりなさい」


 ギネヴィア様は階段の下に向かって声を張った。

 ぐだついていた生徒達が、ざざっと動き出す。

 副学院長ほか先生達も何人か、上位貴族の生徒も少し、階段を降りていった。


意思の剣/光属性・皇家専用魔法

威圧◎(任意) 身体能力↑↑↑ 魔法効果↑↑↑

発動時間は魔力量に応じる

※一度発動したら魔力切れまでだしっぱなし


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☆★異世界恋愛ミステリ「公爵令嬢カタリナ」シリーズ★☆

※この作品の数百年後の世界を舞台にしています
― 新着の感想 ―
[一言] めちゃくちゃ皇家の威信を浸透させるオリジナル魔法あるやん…これなら、市井の者にもっと魔法を身近にしても平気ですやん。まあ、光魔法あたりだけならともかく、ルーツまで全公開しちゃうと第二第三の王…
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