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いや、これは……本物じゃないか!?

「それにしても光と闇の拮抗……か。

 僕のプリズムで、今までそんな風に魔力が現れた人はいなかったけど、これも贄として捧げられたがゆえ、ということなんだろうか……」


 やはりそこが気になるのか、エドアルド様は食べながらぼそっと呟いた。


「なんていうか……

 遺跡で龍を見た時、光と闇は対立してるんじゃなくて、循環するものなんだって印象を受けたんですよね。

 ほら、お互いしっぽを咥えてぐるぐるしてたですし。

 光を大盛りにしてもらった分、そのバランスをとるために、闇も引き受けなきゃならなくなったのかなって」


 遺跡の龍、他の方はご覧になってないし、今でも幻覚だったんじゃないかって気もしてしまうのだけど、手がかりは手がかりなので、ぼんやりした記憶を探って言ってみる。


「なるほど。

 他の皇族方もプリズムで測定できるといいんだけど。

 前々から、ギネヴィア殿下とファビアン殿下には、それとなく水を向けてはいるんだけれど、なかなか測ってみようという話にならないんだよね。

 こちらから強く言えることではないし」


 皇家には、いろいろ秘密がある。


 その秘密をうかがわせるようなこと──つまり、皇族の魔力の特性を明らかにすること──は、たとえ相手がエドアルド様であってもギネヴィア様は忌避されるだろうし、ファビアン殿下も奔放に振る舞っているように見えて、そういうことはしちゃいけないと叩き込まれているのかもしれない。


「なんか、皇家って闇が深いですよね……」


 改めて思ってしまった。


 もしかして、最初っからちゃんと皇族の魔力異常を研究してれば、なんとか治す道が見つかってたんじゃないかって、どうにもならないことを考えてしまう。

 ほんとに皇族の魔力異常が初代皇帝と龍との契約の代償なら、300年も時間はあったのだし。


「それだよな。

 神殿によって秘教化した魔法を新たに解釈してオープンにするのが、帝国の出発点だったはずなのにね。

 いつの間にやら、みずから魔法を秘術化し、進むべき道を見失っているように見える……」


 エドアルド様は遠い目をした。


 ハァ、とため息が出てしまう。


「……あれ?

 外、どうしたんでしょう?」


 窓の外、なにかどたばたしているような気配がある。

 この研究室は半地下だし、外の様子がわかりにくいのだけれど、誰かが走ったりしているみたいだ。

 武道場とかは別として、学院の生徒は、男子でも女子でもむやみに騒ぐことは少ない。


「ん?なんだろな。

 ちょっと切るね」


 エドアルド様は、防音魔法の魔道具のスイッチを切った。


 とたんに、鐘を乱打する音が聞こえてきた。


「え、避難訓練!?」


 やばい!

 あれだけ魔獣を警戒して色々動いてらっしゃるギネヴィア様の侍女候補なのに、避難訓練に遅れるとかないわー!!


「いや、これは……本物じゃないか!?」


「えええええ!?」


 言われてみると、いつもよりめっちゃ乱打されまくってる。


「とにかく外に出よう!」


 エドアルド様は防音魔道具とプリズムをひっつかむと、ドアの近くのフックにぶら下がってた小さめの背嚢に放り込んで持ち出した。

 2人で階段を駆け上って外に出ると、生徒達が本館に向かって走ってる。


 みんな、必死の形相だ。


 足元では狐やら栗鼠やら野の獣、そして学院で飼っている馬も全力で南東方向に逃げている。

 南東の逆、北西は遺跡の方向だ。

 まさか、遺跡から魔獣が来てるの!?


 なにがどうなってるのってあたりを見回したところで、魔導研究所の方からしゅるしゅると花火が上がった。

 よく晴れた空、びっくりするくらい高いところまで上がって、赤い光が3つ、ぱんぱんぱんと弾ける。

 魔獣襲来の警告信号だ。

 赤3つってことは──


「3級魔獣襲来か!」


 魔獣襲来は、規模に応じて1級から5級まである。

 5級はドラゴン複数体と数万体規模の魔獣の群れ、4級はドラゴン単体と1万体規模の魔獣の群れ。

 3級は大型魔獣数十体と中型魔獣、小型魔獣あわせて数千体程度。

 十数万人規模の街が、一日で蹂躙されてしまう大きさだ。


 なにこれ、なんでいきなり!?

 麓の町の方角から、警告信号に答える花火の音が響く。

 ミルト側からも聞こえた。


 とにかく本館へ走ってると、豊かな金色の縦ロールを揺らして走るアントーニア様とお友達に追いついた。

 お友達は息も絶え絶えだ。


「ギネヴィア様!!」


 3階建ての本館の裏側、つまり野原に面した側の2階には、かなり大きなバルコニーがあり、直接外から階段で登れるようになっている。

 2階とはいえ、天井がかなり高いので、普通の建物だと3階分近い高さがある。


 その真中に、ギネヴィア様とファビアン殿下、上位貴族家の生徒や留学生、先生たちがひとかたまりになって、獣達が逃げてくる方角を硬い表情で見つめていた。

 ファビアン殿下には、ヒルデガルト様が不安げに寄り添っている。

 それを取り巻くように、武装した近衛騎士達がいる。


 アントーニア様達と団子になりながら階段を駆け上がった。


 バルコニーと接するホールは大階段につながっている。

 大階段の下、1階のホールに生徒達とか寮母さんとか、近隣から通ってる掃除の人とか職員がうじゃっといるのが見えた。

 どうしようどうしようと蜂の巣をつついたような騒ぎだ。

 デ・シーカ先生や他の先生方が、パニックを起こした生徒にもみくちゃにされている。

 

 ていうか、みんな点呼とか退避とか、頭からすっ飛んじゃってるみたいだ。


 エドアルド様が「学院長は?」と声を上げる。

 先生方の誰かが「院長は、今日は帝都で陳情に回っていて」とおろっと答えた。


「殿下方をお逃ししなければッ」


「馬車、馬車を用意しないと!!」


「点呼を!

 点呼用のリストはどこ!?」


 先生方もだいぶおたついている。

 今から馬車って、馬が逃げちゃってるのに??


 なんかこれ……ヤバいのでは……


 動くなら動くでさっさと動かないと、ここから魔獣が見えだしてから退避壕に避難とか、たぶん間に合わない。


 学院長が不在、先生方がおろおろとなったら、生徒だけど皇族のギネヴィア様、ファビアン殿下が指示されるほかないけれど……


 カカッと音がして、「手紙鳥」が中空に現れた。


 ギネヴィア様が手のひらを差し出すと舞い降りる。

 少し眉を寄せて、ギネヴィア様は一瞥された。


「……魔導研究所から警告です。

 本日12時32分、微震観測。

 魔獣襲来発生によるものと推定」


 周りがざわめく。

 ギネヴィア様は、皆から離れながらちょちょいとエドアルドと私を呼び寄せた。


「その直前、遺跡の警備から、ノルド枢機卿と思われる人物が警備を突破、遺跡に突入と急報が入ったと」


 他の人には聞こえないようにおっしゃる。


「「はいい!?」」


 枢機卿、とっつかまったはずなんじゃ!?


 どうやったのかわかんないけど、とにかく脱走して、遺跡に突入って……

 ことわりの龍と契約するため?

 でも龍と契約しようとして魔獣襲来が発生するとか、それはそれでおかしい。

 なにがなんだか意味がわからない。


修羅場の開始です。頑張れミナ…!

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