第一章7話『勇者の立場』
勇者は村人の問いに対し、自身の正体を正直に明かすべきか迷っていた。
その理由は、勇者の近くにはミルとセズがいるからだ。
ミルは勇者を圧倒する体術があるため、難なく自身を守れるだろうが、セズにはそれがない。
正確に言えば、魔法を使えば自衛はできるが、村人を無傷で抑えるのが難しくなる。
勇者の選択によってセズの手を汚させるわけにはいかない。
だからこそ、勇者は慎重な選択をする必要がある。
迷いはしたが、勇者は確かに己の意思で決断した。
竜を祀る村、名を『ムラク』というそうだ。古い言葉で集結を意味するらしい。
かつて5頭の竜が最後に一堂に会したのがこの場所だからだそうだ。
そのムラクは今ーーー村中が大騒ぎとなっていた。
結論から言えば、勇者は自分の正体を村人たちに正直に話した。
スーバリ王国の騎士団の話が事実であること、自分が魔王を倒した勇者であることも全て。
村人たちが信じるかどうかが疑問だったが、村人たちは驚くほど簡単に信じた。
どうやら騎士団がこの村に立ち寄った際魔物が村を襲い、騎士団がそれを撃退したことで、村人たちは騎士団に深く感謝したらしい。
なぜ村人たちが勇者たちのような余所者にやたらと親切なのかが謎だったが、これで納得がいった。
勇者たちの特徴まではっきりと残しておいてくれていて良かった。
騎士団の誰もこの村について言及しなかったのは、勇者たちを驚かせようとしたか、あるいは勇者たちがこの村を訪れる可能性を想定していなかったか。またはネイクは事前に聞いていたが酒の力で全部忘れていたか、だ。
答えはわからない。が、とりあえずはこれから重要な場面をネイクのみに任せるのは止めよう。今回はうまくいったが、もし今後致命的な見落としがあった場合どうなるかわからない。
「勇者さま、どうか我らの屋敷へお越しください。長旅で疲れも随分溜まったでしょう」
そう勇者たちに声をかけてきたのはムラクの村長を名乗る老人だった。
付き人が多いことや凝った造りの着衣を見るに他の村人より上の地位にいるのは間違いないだろう。
ひとまず村に入った途端村人に取り囲まれるという事態は防げたが、まだ油断はできない。
とりあえずネイクは若い村人たちのところに置いていくことにした。




