第一章4話『牙の根』
ようやく『牙』の根元まで辿りついた頃には、竜谷に入ってからほぼ3日が経過していた。
以前竜谷に立ち入った際は今回ほど『牙』には近づかなかったため、印象が随分違う。
遠くから『牙』を見た時には、せいぜいスーバリ王城より一回り小さいくらいだろう、と思っていたが、『牙』を真下から見上げると、それより大きいのではないか、と思う。
これほどの巨大な物体が、何者かによって造り上げられたのではなく、自然に生まれたというのだから驚くばかりだ。
確実な筋からの情報であるため間違いないはないが、実際に近づくことで確信する。
このヴェルドニア大陸にはどこにでも魔力が土地から湧くが、この『牙』には一切の魔力がない。
一応セズにも魔法で『牙』のようなものを作れるか聞いてみたが、
「絶対に無理」
と言われた。
というのも、その理由は『牙』の材質にあるらしい。
「例えば、どこかから巨大な岩石を持ってきて大地に突き立てたのがこれだったら、話は別よ?でも、この『牙』は土や小さな岩石が入り混じった物体なの。固体でない物体に魔力を流すことで一時的に状態を固定することはできるけれど、魔力を流すのを止めると、すぐに崩れてしまうの。小さな丘程度ならともかく、これだけ大きな物体を固定しておくには、莫大な魔力が必要になる。つまり魔力なしで『牙』が成立するには、自然現象以外ありえないわ」
とのことだった。
数百年以上昔のことなのだろうが、奇跡のような偶然によって『牙』が生まれたのだ。
それだけで、見る者を圧倒する迫力がある。
きっとこの『牙』は、数百年後も、人間を圧倒する存在であり続けるのだろう。
『牙』の根元に辿りついたのが夕刻だったため、一晩そのまま野営することにした。
ちょうど『牙』の周囲は草木が少ないため、野営に適していた。
少し変わったことが起こったのは、翌日の早朝だった。
「ねえ、起きて」
最初に異変に気付いたのは最後に火の番をしていたミルだった。
起こされた勇者が寝ぼけながらミルが指差す方を見ると、
「煙、ね」
勇者以上にぼんやりとした様子で、セズが呟いた。
「火事、ではなそうだ。白いし勢いもない」
寝ぼけながらも頭は働いてるらしいネイクが応える。
「そういえば、竜谷には竜を信仰する小さな村があるって聞いたことがある」
なるほど、対象は違えど信仰するものがあるミルが言うなら、そうなのだろう。
ならば、次はその村に行くとしよう。




