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愚者は妥協と踊るだけ  作者: 胃痛トール(著) かいでんぱおじ(原作)
第一章「竜の国」
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第一章3話『2度目の牙』

 魔王城を出発して2日後、いよいよ竜谷(りゅうこく)が近づいてきた。

 道中何体かの魔物に襲われたが、どれも統率の取れていない雑魚ばかりで、難なく倒すことができた。

 弱い魔物たちを統率していた幹部たちがもういない影響だろう。

 これからは人々が魔物に怯えて暮らすことも減っていくはずだ。




 竜谷。竜が住むとされる地。

 ヴェルドニア大陸には古くから竜についての伝承が存在する。

 曰く、大陸の成立に深く関わり、人々を見守っているという。

 しかし、魔物という人類最大の脅威が野放しであることと、実際に竜を見たことがあるという伝承は1つもなかったため、竜の存在は疑問視されていた。

 だが勇者たちだけは知っている。竜は実在し、人類に力を貸してくれる存在であることを。

 勇者の想像とは、ずいぶんと実態が違ったが。




 竜谷と名にあるが、谷しかないというわけでなく、緑も、川も、山もある、未開の地だ。

 竜谷は、またの名を竜国という。まるで竜のように入り組んだ地形が由来となっている。

 今まで多くの探検家が竜谷を訪れては行方不明となっているのも、それが原因だ。

 だが勇者たちが竜谷を訪れるのは今回で二度目、迷うことはないだろう。




 迷った。

 勇者たちが迷った理由は、少し前に竜谷に降ったのであろう雪が一部残ったことで、竜谷の景色が以前と変わってしまったからだ。

 いや、迷いはしたが、正確に言えば遭難まではしていない。

 その理由は、竜谷には雪が積もろうと絶対に変わらないものがあるからだ。

 竜谷の中でも北東、海が見える位置にある巨大な岩の柱。竜の牙のように鋭いため、勇者が『牙』と名付けた。『牙』は潮風で風化することもなく、竜谷に並ぶ山を除けば最も目立つため、目印となりやすい。

 しかし、勇者たちが立ち入った場所が『牙』からは遠かったため、最初は迷ってしまったのだ。




 竜谷に入り2日経ち、ようやく『牙』が見える場所まで来た。

 このあたりに来れば、大陸を守護する竜ヴァルトに会えるかもしれないと思ったが、その気配はなかった。

 大陸に平和が訪れた今、俗世と関わるつもりはないということなのだろうか。

 スーバリ王国に一度帰ったあと落ち着いたら、また来てみようか。

 その時はネイクおすすめの上等な酒でも持って、礼を言いたいところだ。

 それすら拒まれてしまったら、どうしようもないが。




「ほんっと、ここまで長かったわ」


 セズが大きくため息を吐く。


「そうだな、『牙』のてっぺんは景色が良さそうだし、登ってみるか?」


 ネイクが軽口を叩く。


「それはさすがに…セズちゃんも私も」


 ミルが真面目に答える。

 いつもと変わらない掛け合い。

 この仲間たちがいれば、何も怖いものはない。

 まだまだ冒険は、始まったばかりだ。


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