第一章2話『いざ竜谷へ』
簡素な朝食を口に流しこむ。
いまひとつ味を感じないが、不思議と口に食事を流しこむ手は動く。
結局のところ、なんだかんだで腹が空いているのだろう。
黙々と食事を進めていたミルが食事を終え、自身が使っていた食器を置いた。
「ごちそうさまでした。久々においしく食事できた気がするわ」
誰に向かって発した言葉ではなかったが、セズもネイクもうなずいた。
これまで、いつどこで死んでもおかしくない旅をしていた。
恐らくはそれが理由だろう。
これからは、日常の小さな一つ一つの出来事を楽しめるようになることを期待している。
全員が食事を終え、片付けも終わったので、今後の方針を話しあうことにした。
ミルが懐から地図を取り出す。
この地図には勇者たちの旅の記録がある。
今まで辿ってきた道のりと、これまで潜りぬけた戦いの記録。
それを見れば、全て思い出せる。
この一年間の旅の記憶が。
だが今は感傷に浸ることはない。
これからするのは、未来の話だ。
今勇者たちがいるのは、ヴェルドニア大陸最北端にある魔王城の目前。
魔王城から出発地点である大陸西部のスーバリ王国に帰るためには、大陸を大きく回る必要がある。
その理由は、魔王城とスーバリ王国の直線上には、多くの障害があるからだ。
大陸最高峰であるゴード山脈、大陸を取り囲むミマス海流が生み出すシラフ大渦、スーバリの国土に匹敵するほど広大なワトズ沼、これらすべてを乗りこえなければならない。
事前に準備ができればともかく、ここではそれも難しいため、大陸を回る必要があるのだ。
だがその期間が大して長くなることはならないだろう。
一度は通った道のりなのだから、また1年もかかることはないはずだ。
来た道を戻るなら、最も近い国であるボルノイッヒに行くために、竜谷を経由することになる。
魔王城付近ほどではないが、竜谷も過酷な環境だ。
竜谷へ向かうなら、しっかり準備する必要がある。出発はそれが終わってからだ。
「じゃあ、今日は準備をしましょうか。切らしている薬草があるから、調達しておきたいし」
「ならば、俺は酒盛…いや騎士団と何かできないか話してみよう」
「私の予想が正しければ、明日は晴れるはずだから、何をするにしても今日で済ませた方がいいわね」
魔王討伐から3日後、全員の準備が整い、また昨日の激しい雨と違って快晴であるため、絶好の出発日だ。
出発する際には、魔王城に来ていた騎士団全員が見送りをしてくれた。彼らはまだ魔王城の調査などがあるようで、しばらく残るらしい。
ネイクとその友人の騎士たちがまたスーバリ王都で再会することを約束し、勇者たちは出発した。
では、いざ竜谷へ向かうとしよう。
魔王城から随分離れたところで、セズが目を潤わせはじめた。
そういえばセズは妙に涙脆いところがあるのだった。
ミルが頭をなでてやり、ネイクが豪快に笑って励ます。
これでは誰が年上なのか分かったもではない。
こんな小さな出来事すら今では幸せに感じられる。
平和とは、これほどすばらしいものだったのか。




