第一章9話『夜明の時』
翌朝、鍛練のためにいつものように目を覚ます。
今の季節と東の空の明るさを照らし合わせれば、ほぼ定刻通りで間違いないだろう。
昨夜の記憶を頼りに屋敷内から出る。
屋敷内はほとんど静まり返っているが、唯一厨房の方から物音がするのは、朝食の支度をしているためだろうか。
その後時が過ぎ、木々の頭から陽が姿を見せるまで剣を振り続け、腹の調子が良くなってきたので、事前に教えてもらった場所で水浴びを済ませた後屋敷に戻った。
道中で早起きな村人数名とすれ違ったが、誰もが活気づき魔物に怯えることなく穏やかに暮らしているようだった。
そんな村人たちの様子を見てふと気になったが、外敵から身を守るための結界どころか柵すら立てていない状況で、大国の庇護を受けているわけでもない村が、一体どうやって魔物の侵攻から守っているのだろうか。
よっぽど腕利きの戦士がいるというならば、まだ理解できなくもないが。
屋敷に入ると、どこからか食べ物のいい匂いがしてきた。
今朝の予想はやはり当たっていたようだ。
荷物を部屋に置き、匂いがする方向に歩いて行くと朝食にしてはやけに豪勢な食事が並んでいた。
「おはよう」
「日課の鍛練ご苦労さま」
ミルとセズはいたが、ネイクの姿はなかった。
いつものことだから気にするほどのことではない。
改めて2人を見ると、ミルは寝巻から着替えていたがセズは寝巻に1枚羽織っているだけだった。
祈りのためにいつも通り早起きしたミルと、寝起きのセズというところだろう。
これもまたいつも通りのことだ。
その後やって来た村長たちと朝食を摂った。
卓を囲んで朝食を摂るのも、随分と久しぶりだ。
豪勢な朝食は、昨日の宴の料理に負けず劣らず美味だった。
食事が終わった後挨拶に来た料理人に礼を伝えると、村長は同時に他の使用人も全て下がらせた。
「勇者御一行さま、今後の御予定はお決まりですかな?」
村長の声色は今まで穏やかだったものから一点、真剣なものとなっていた。
緊張した空気を察して、誰かが生唾を飲み込む。
勇者は一つずつ言葉を選びながら、ゆっくりと答えを返す。
ネイクと合流し、4人とも問題がなければ今日中にも村を発つつもりであること。村の歓迎の礼に、何か困っていることがあれば力になりたいという意思を伝えた。
勇者の言葉を聞いた村長は深くうなずいた。
「なるほど、もう村を発つつもりでしたか。勇者さまも暇ではないでしょうからな、仕方ありますまい」
それはそれで、と村長は一呼吸おいた。
「我々が困っていること、というほどのことではないですが、懸念していることがありまして」
村長は再び一息つく。会話を切り替えるための先程とは違って、何か言いにくいことのようだ。
「勇者さまに、我が村で受け継がれてきた伝説の剣を受け取っていただきたいのです」




