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愚者は妥協と踊るだけ  作者: 胃痛トール(著) かいでんぱおじ(原作)
第一章「竜の国」
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第一章8話『歓喜の祝福』

 勇者たちが村長に付いて歩くこと数分。

 他の家に比べ明らかに立派な屋敷に辿り着いた。


「どうぞ、手狭かもしれませんが、ゆっくりとされていってください」


「ありがとうございます。お気遣いに感謝します」


 丁寧に一礼したミルに続き、勇者とセズもそれにならう。

 中に入ると、その広さは外から見たもの以上に感じた。

 今日貸してもらった部屋には窓がいくつかあり、その中でも一番大きい窓からは、『牙』のほぼ根から先端まで見える。

 村の中でも特に『牙』がはっきりと見える位置に村長の屋敷があるのはただの偶然だろうか。


「ねえ、ネイクのこと、放ったらかしにしてるけど、大丈夫かな?」


 かつてこの旅を始めた頃であれば、3人のうち誰かがそんな疑問を抱いただろうが、今となっては誰も酔っ払ったネイクのことを心配することはない。

 酒に酔ったネイクは何の役にも立たないが、だからこそあらゆる危機を回避する。

 実際のところ、酒を飲んだネイクは今まで数々の諍いを、いつも以上に人当たりの良い行動と研ぎ澄まされた直感でくぐり抜けていた、ということもあった。

 それに万が一悪意を持った相手であっても、酒に酔ったくらいのネイクの敵にはならないだろう。

 

「じゃあ、おやすみなさい」


 そう言って1番手前の部屋に入っていったのはセズだ。

 見ると随分疲れているように見える。

 旅の疲れが溜まった、というよりはこの村で多くの村人に絡まれたのが原因だろう。

 セズは人見知りをする方だから、仕方ないだろう。

 勇者とミルの2人が返事をした後、セズはゆっくりと扉を閉じた。


「私も、おやすみなさい」


 セズの隣の部屋がミルの部屋だ。

 ミルはセズほど疲れがあるようには見えない。

 教会で人慣れしているからか、それとも疲れをうまく隠しているのか。

 長年の付き合いがある勇者の勘は、前者だと結論付けていた。

 ミルが疲れを隠そうとするならば、それこそ誰にも気付かれないようにするであろうからだ。

 だから、見えるくらいの疲れならば、今日休めばすっかり取れるだろう。

 勇者がおやすみと声をかけるとミルは手を振り返して扉を閉じた。


 その隣の部屋に勇者は入る。

 木造の建物の、寝台のある部屋で眠るのは随分と久しぶりだ。

 ここまで心穏やかに眠れそうなのは、生家で最後に眠った時以来だろうか。

 勇者自身でも気が付かない内に疲れが溜まっていたのか、すぐに眠りに落ちた。


 その日、久々に夢を見た。

 いつの頃だっただろうか、幸せな記憶の一欠片。

 誰もが笑っていて、誰もが幸せに暮らす世界。

 そこに自分がいたことなんて、まるで覚えがないが。

 またこんな日々が訪れるならば、今までの努力も些末なものだ。




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