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第2話 自由

 私は自分が繰り出した今の攻撃の破壊力に畏怖していた。

 物理法則や力の関係から外れた剣から放たれた剣圧、そして飛ぶ斬撃。対岸に生えている木をも倒す威力に自分で出しておきながら腰が抜けそうになった。

 望んでいた異世界とはいえ、私が住んでいたのは現実にファンタジーさの欠片もない日本。そこで14年も暮らしていたら流石に自分の身体能力の範囲を熟知している訳で、そこから外れた現象に困惑するのは当然といえばその通り。


「ここっ、これってこの世界じゃどうなるんだろ……? 凄いのか、それともポンポンみんな出せるのか……」


 この世界のレベルが気になる一方、私には少なくとも無双できるようなチート能力ではないなという確信はあった。あからさまに強過ぎる力でもハズレに思わせた当たりという訳でもなく、そこそこ凄い程度。

 だけど逆にそっちの方が良いかもしれない。


「だって、強くないってことは、まだ成長できるってことだもん」


 変われる、成長できる、より良く進化できる。可能性が想像し切れない程にあった方が私には嬉しかった。


 異世界転生できたということは、前の自分とは大きく変われるチャンスを掴んだということ。もちろん私はこのチャンスを逃すつもりは毛頭ない。


 そんな私の出した結論は非常に簡単。


「よし、近くの街へ行こう! とりあえずギルドみたいなところがあればそこに入りたいし──」


 仮にギルドが無いにしても私には食料、寝床、日常必需品等の問題が沢山ある。街で調達出来るものは一通り調達したい所。


「だけど……行っても、大丈夫、かな」


 ──私が想像した最大の懸念。それは私の命が脅かされる可能性だ。


 異世界ということはまず言語や思想の違い、政治体制や差別の対象等一般人1人には解決の出来ない問題が存在している場合も十分に考えられる。

 街に行った瞬間に問答無用で処刑される可能性もあれば、私のことを魔女として捕らえて宗教裁判にかけられる事も無きにしも非ず。


 考え出せば危険など山ほど想定できる。そんな嫌な想像をしてしまった途端、急に不安が募り始めた。


「もし異邦人狩りみたいなことがあったりしたら1発アウト。でもサバイバル能力なんて私にはないし──」


 リスク覚悟で街へ行くのか否かと考えあぐねていると、視界の端でチラチラと入ってくるスライムからの視線に気がついた。

 スライムは悩んでいる私をじっと見つめていて、なんだかその姿が可愛くて私は何故か吹き出してしまった。


「ぷっ、あはは、考え過ぎるのも良くないね。よくよく考えたら、抱きついた時に君に溺死させられる可能性もあった訳だし」


 驚くほどに大人しく、私に懐いている様子のスライムを見ていたら何だか悩むのが馬鹿馬鹿しくなってしまった。


「うん。せっかく、せっかくここに来れたんだから……立ち止まってちゃいられないよね!」


 不安感は更なる高揚感によって私の気持ちを上書きして、先程までの躊躇を踏襲した。

 決心が付いて街へ向け出発しようとしたその時、私はあることに気がつく。


「あ、そう言えば君に名前付けてなかったね。う〜ん──じゃあぷにぷにしてるから、そのまんま『プニ』! これから一緒に旅しようね、プニ」


 安直で残念過ぎるネーミングセンスに我ながら落胆した。だけど後悔はない、だって名前が可愛いのだから。


 名前が決まるとぷには自覚があるのかないのか分からないが、私に寄ってきて笑っているような目に変わった。新たに可愛らしい一面を見せたぷにを軽くなで、抱き抱えた。


「じゃあ行こうか、プニ!」


 勢いのまま、思うがままに行動を選択することはここまで清々しいことなのかと晴れやかな気分になって、また笑顔を浮かべながら鼻歌を唄い始めてしまう。


「ふんふん、んっん〜♪」


 ぷにを抱えたままスキップをして、特に宛もないまま私は進み出した。


 ただスキップしている内に気分が乗ってきて、徐々に私の走る速度が速くなっていく。スキップから早足、駆け足、そして全力疾走。

 興奮状態なせいか、私は走り出したくなった。


「あはは、風ってこんなに気持ちよかったっけ!」


 肺が苦しい筈なのにその苦しさを蔑ろにして身体が先へ先へと動いていく。そこまで重くはないとはいえスライムのプニを抱え、木剣を適当に腰に刺して走りにくいにも関わらず、私は過去最高速度で森を駆けていた。


 森は軽い傾斜になっていて、進むにつれて段々と下がってきている。


 またしても私に突発的な衝動が襲いかかり、走っているこの勢いを殺さないまま踏み込んで木々を避けるようにして飛び上がった。



「いやっほうぅぅぅ──」


 跳躍したその瞬間、私の目の前にあった筈の地面や木々は全て消えた。


「はへ?」



 人は死にかけると世界がスローモーションになると言うが、まさか自分が体験するとは思ってもみなかった。

 途切れた地面、ビルの屋上など比較対象にもならない高さ、心臓に冷風が吹いたような恐怖、吹き付ける凄まじい風、私を離そうとしない重力。


 先程までの感情も思考も全てが弾け飛んで風に流されてしまった。



「うわあぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 訪れた唐突すぎる死の予感。それは恐怖となって私にのしかかり、身体が恐怖を受け取って硬直状態を引き起こした。目を瞑り、手足がコンクリートに漬けられたように重くなって固まる。

 絶叫と共に強く鮮明に「死」という概念が頭の中で激しく主張を繰り返している。


 そして数秒間、私は何も考えることが出来なくなった。



 でも程なくして、私は落下の感覚に違和感を覚えた。想像より重力や風を感じない。むしろ自転車でも漕いでいるような爽快感さえあった。

 死を前にしてついに脳までバグったのかと思いつつ、恐る恐る私は目を開いた。


 勇気を出して目を開くと、私は自分の今の状況を何となく理解した。


 確かに落下はしているが、そのスピードは小舟に揺られているのように緩やかだった。パラシュートになるようなものが引っかかった訳でもなしに、丸腰のままゆっくり降下していた。

 だけど私の腕の中にいるプニは驚いているのかぷるぷると震えながら目が泳いでいた。


「もしかして……これ、私のスキルッ!?」


 何か変わった感触などはなく違和感が満載だったが、スキルを無意識に発動できたお陰でひとまず助かった。


 助かったと安心した瞬間、私の目には周囲の景色が飛び込んでくる。

 モンスターらしき生物達がいる草原、上から見ても透き通って見える川、日本では見たことの無い種の木々で広がる森、そして探していた街のような場所が一望できた。

 全てが絵やCGかと見間違いそうな位に色鮮やかで、言葉にし難い程に美しく、何もかもが輝いて見える。


 夢の世界や絵画のように儚い景色は抱き締めたくなるほどに壮大で綺麗だった。


 そんな空から落ちながら見た景色はあまりにも壮観だった。

 さっきまで死の恐怖で怯えていた私はすっかりその景観に魅了され、感動の波が押し寄せる。もはやこの光景を的確に表す形容詞など存在しないとも思えてきた。


 ここに来て何度目かもう忘れてしまったけど、私は今抱いた気持ちをそのまま言葉にして吐き出す。



「──異世界、ばんざぁい!!」


 私の叫びはやまびことなって辺りに響いていった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんやねん! 文章見るだけでわかる可愛すぎかよ。惚れてしまうやないかい! [一言] つ、続きを......もっとください
[良い点] RT企画ご参加ありがとうございます。 ここまで読んだことをお知らせします。 ノリとテンポが良かったです。 [一言] 続きは書かないんですか?
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