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5.迷宮立国ジャパン

 日本で迷宮が解放され、身近に感じられるようになったのは、ここ二十年位のこと。


 そんな前置きから始まる小冊子を紅葉は読んでいる。


 祖母から渡されたチラシにあった、迷宮管理協会へ電話したのは数日前の事。

 地区担当者が、近いうちにやってくるとの話になった。


 電話口で応対してくれた女性に、家族から今まで話を聞いたことが無く素人だと正直に申告した。

 それなら初心者向けの小冊子を送りますよと言われ、今紅葉はそれに目を通している。


 基礎的なものを知らない紅葉には興味深い内容でありがたかった。

 紅葉は続きを読み進める。


 ……身近になったとはいえ、迷宮探索にはそれ相応の準備が必要であるとか、レジャー気分で行く手合いのものではない云々、本の中では安易な気持ちでは行かないよう苦言を呈していた。


 そうだよね、決して手ぶらで挑めるようなものじゃないだろうなと思う。

 装備がないと迷宮探索には挑めない。

 また装備品は高値とあって、気軽には行けない風潮もあった。


 学生の頃、一度だけ友人に連れられ店舗に装備品を見に行ったことがあった。

 目にした値札をついひっくり返し、自分には向いてないと速攻で諦めたほどだ。


 十四、五年位は、一部の金持ち達の遊び場的な扱いだったと認識している。


 ただここ数年は、一般の人達にも興味を持ってもらおうと、官民一体でキャンペーンが繰り返し出ていたっけな……。


 小冊子には、迷宮管理協会の事ももちろん載っていた。

 設立時の状況はとても興味がそそられた。



 ・・・我が国に現存する地下壕が、ある日を境に迷宮の入口と化したのは既に皆さんもご存知のことでしょう。

 政府の方針により一定期間の調査期間を経て、問題ないと判断された場所は順次解放して行くよう対応を始めました。


「ふ~ん。それで一応裏山のも大丈夫という事になったんだ」


 迷宮でなく入口と称するのには理由がある。

 地下壕といわれるものは大体は戦時中に造られた。


 急ごしらえのせいか、敷地の都合か、或いは敵に見つからない様わざと小さ目にしたのか、ほとんどが少人数の家族が身を隠す程度の大きさしかない。


 地下壕がいわゆる洞窟といわれる様な大きさだったなら、その中が迷宮化していただろうと言われている。

 それが現状での識者や学者達の共通認識である。

 例えば、神奈川県には約四百ヶ所地下壕が存在している。

 この全てが迷宮に繋がる入口になったかというとそうでもない。


 現在においても何が基準となるのかはっきり分かってはいないが、迷宮の入口と認定された地下壕には、国土交通省発行の認定証シールが貼られている。


 何故国土交通省かというと、全国に現存する地下壕を把握・管理しているのが国土交通省だからである。


 迷宮入口と認定された地下壕の所有者は、迷宮管理人として国に登録する義務が発生する。

 迷宮管理人には、国から補助金が出るが、基本は自営のスタンスだ。

 操業しない場合は、国指導の下、地下壕は立ち入れないよう封印処置を施される。

 又は、所有者の希望により一定期間封印する事も可能となっていた。


 迷宮管理に不安がある者達は、地下壕の所有権を放棄するか、賃貸契約を国と交わして、一切合切を国へ任せるかのどちらかを選ぶ方が多い。


 つい最近、封印処置が施された場所を買い取ったゲーム会社が、迷宮運営に乗り出したニュースも流れた。


 さて、今では国内至る所で迷宮が乱立し、観光客を呼べるほどに迷宮運営が安定した日本。

 世界からは『迷宮立国ジャパン』と言われ、管理体制の手本は日本に学べと言われるほどになる。


 しかし、何事にも最初があるわけで……。

 国を挙げて迷宮運営を推し進めるに至るまで紆余曲折あったのだ。


 ちなみに迷宮入口と最初に認定されたのは、赤坂御用地内の地下壕だった。

 場所が場所だけに長い間日本国民には秘匿されていた。


 天皇家と歴代の首相と側近数名のほか、当時関わった学者や科学者、自衛隊の精鋭部隊のみが知るのみ。


 国民に秘匿している間、彼等は自衛隊の精鋭部隊を中心に詳しい調査を続ける。

 調査の過程で、ある学者は(いづれ国内に無数にある地下壕も同じ状況下になるだろう)と唱えた。


 後に彼の学説は証明されることとなる。

 赤坂御用地の10キロ圏内で二件、神奈川で一件同様の事象が確認されたそうだ。

 もちろん速やかに隠蔽工作され、国民が知ったのは何十年も経った頃……


 焦った当時の政府は、迅速かつ速やかに法整備に着手した。

 閣僚の中には天皇家に連なる者達がおり、天皇の意向も組んで、国民に被害が出る前にあらゆる分野で、出来る限りの先手を打つことにしたのだ。


 赤坂御用地以外の場所は厳重に封印され、開示してもいい時期が来るまで、政府は唯一の場所で、迷宮の管理・運営を視野に自衛隊を投入して研究を重ねて行った。


 そこで培われたノウハウが、全国の迷宮管理人達に配られるルールブックに記載されているというのは良く知られている話だった。

 

 設立されるまで色々あったんだね。

 監修に皇族関係者が載っているのも納得だわ……


 紅葉は、『さあ今日から貴方も迷宮管理人』を読み終え本を閉じる。

 自分がこれから関わって行くことになる、『迷宮管理人』としての役割に想いを馳せた。



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