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1.突然解雇されました

R15は保険です。

何か違う物語を書きたくなりました。

少しでも気に入ってもらえると嬉しいです。

 そろそろ朝晩涼しくなって来たある日。


 外勤から会社へ丁度戻って来た私こと山野紅葉は、ひっつめ髪の目つき鋭い女上司の呼び出しを受けた。


「山野さんちょっといいかしら」

「はい!」


 上司は私が机の前へ立ったのを確認すると、指を小刻みにトントン打ち付けながら、左手に持つ書類を一瞥して、ほらっていう感じで渡してきた。


 受け取った書類を見ると『解雇通知書』と書かれてあった。

 なんだこれ?


「山野さん。急な話しで悪いんだけど、その書類に書かれている通り、来週から来なくていいから。そうね、有給が半月残っているようだから今月末で消化して頂戴」


 私は手元の『解雇通知書』を再度見つめた。

 上司の言葉が全然耳に入ってこなかった……


「ちょっと聞いてるの山野さん!」


「あっあの解雇通知って……来週から来なくていいって……会社辞めろって事ですよね。急に何故ですか?」


 降ってわいた話に思考が追いつかず、紅葉は支離滅裂ながらも、なんとか言葉を返した。


「あら山野さん。ひょっとして心あたりが無いって言うのかしら」


「はい。特に思い当たる事は無いです」


 そう言いつつ内心は冷や汗ものだった。


 この前指示されて作成した書類に不備があった件だろうか、それとも別会社にFAXした事だろうか……。


 あれは幸いにも誤送信に気づいた後に電話したら、先方がとても良い人で、間違って送ったFAXを郵送で返送してくれた。


 機密事項にあたるような重要書類でも無かったし、その件では大丈夫なはず。


 それ以外のうっかりミスを数えあげれば、入社以来やらかしてきた自覚はある。


 でもどれも大事までには至らず注意喚起で済んできた。

 首になるほどの事はないと思う。


「貴方。隣の部署の田島さんのこと誹謗中傷していたそうね」


「私が誹謗中傷している……ですか?」

 

 隣の部署の田島さんはとても綺麗な人で、会社のマドンナ的存在の人だ。

 確か体調不良で休んでいると風の噂で聞いていた。


 廊下ですれ違った事はあるけど、話をした事は一度もない。

 彼女と全く接点がないのに、何故私がわざわざ彼女を貶める必要がある?


 上司はその後も、延々と私が彼女に対して行った悪事をつらつら語り出したが、当然心あたりがないわけで目が点になる。


 一体誰の話しを私は聞かされているのだろうか。


「どれもこれも、私には全く身に覚えはないですけど……」


「ふ~ん。あくまでもしらを切るつもりね」


「そう言われましても、私は全く身に覚えがありません!」


 私が言葉を発する度、女上司の目がどんどん釣り上がる。

 直視できないくらいにコワイんですけど……


「ここだけの話。田島さんはね、いづれ社長の息子と結婚するのよ」

「そうなんですか」


 目出度いことだと思いますが、それが何か?


 社長の息子は確か人事部に所属しているはず。

 部長補佐だったかな、だから何だっていうの?


「その息子が上に直談判して認めさせたらしいわ」

「誹謗中傷しているという私には、状況聞かず……ですか」


「何言ってるのよ! 人事部から呼び出しメールが何回も来ていたでしょう?」

「ええっそんなの知りませんけど」


 メールが来ていた? 記憶を辿ってみても目にした覚えはない。

 件名を一度でも見ていれば大体覚えているものなのに……。

 気付いてないなんてまさかあり得ない。


「とにかく、あまりに貴方の態度は目に余るというわけで、既に人事で受理されてるから、貴方は今月一杯で終わりよ」


 知らない内に退社ありきで処理されていたらしい。

 もう何が何だかわからないけど、怒る気力もない。


 話はこれで終わりよと言って、女上司は部屋を出て行った。

 去り際に一言残して、


「私物は処理しておいて頂戴」


 私物を片付けろと言われた私は、自席に戻ると何とか憤りを抑えて引き出しを漁る。


 同僚達は事前に聞いていたのか、大して驚きもせず、我関せずといった感じで遠巻きに見ていた。


 私って清々しいほど人望ないじゃない……


 ほぼ支給品で事務処理は賄えていたから、私物といえるのはほんの数点。

 鞄に放り込めば終わりだ。


 最後に呼び出しメールに私が応じていないという言葉が引っかかっていた。


 PCを立ち上げ受信しているか確かめた。

 人事部からのメールは確かに受け取っていた。

 

 未読のままゴミ箱に……いくつも……いくつも……。

 私は悪意を受け取った。




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