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異世界追放されても【神剣スキル】で【縦横無尽】ー可愛い獣人といく異世界2人旅ー

作者: セツナセイ

「カスガ シュンスイ。なぜおまえがここに呼ばれたかわかるか?」

「いえ、まったくもってわかりません」



 眠い。今何時だと思ってるんだこの国王(ヒゲ)は。まだ朝10時だろ。この俺の活動開始時刻は正午きっかりだ。そこから目覚めてマンガ読んで、ゴロゴロして、ご飯食べて、マンガ読みながらゴロゴロしてからようやくベッドから下りる。



そこでようやく一日が始まるんだ。



なのにこんな朝っぱらから呼び出しやがって。いいよな国王は。一言部下に声かければなんでも自分の思い通りになって。ただちょっと権力のある家に生まれるだけで後はふんぞり返ってるだけでいいんだから。



あ~あ、俺もあんな誰でも出来るような国王とかいう楽な職業になりたかったぜ。



「おい、カスガ シュンスイ。余は今、『心読の指輪』を装備している。ゆえにお主の心の中は全て丸見えだ」


「国王とはなんと大変な職業なのでしょうか。国に天災が訪れればその英知を絞り政策を布き、国に侵略の魔の手が掛かれば自ら盾になる。日々苦労の山を築きあげ、それでも弱音一つ吐かず進み続ける。それも全ては愛する国民のため。そしてそれを解決する特別な使命を天より与えられた特別な人間、アッシュガルド王国 国王リンドバーグ・アッシュガルド様 (わたくし)カスガ シュンスイ心より尊敬しております。そしてお髭がとてもダンディです」


「うるさい。黙れ」

「はい。すいません」



 ちくしょう。なんで心読の指輪なんてつけてんだよ。あんなのA級以上の犯罪者の尋問とかじゃないと使わないようなアイテムだろ。国王(ヒゲ)がファッションでつけていいようなものじゃねぇぞ。



「誰もファッションでなんかではつけていない。仮にファッションだとしても王の前にパジャマ姿で現れるセンスの奴に言われたくない。それと二度と余をヒゲと思うことを許さぬ」



 やべっ、心読の指輪で心読まれてるの忘れてた。



「はぁ、カスガ シュンスイ。余は一応、お前には感謝している。なんといっても神の使いである勇者を育ててくれたのだ。育った勇者のおかげでこの国は魔王の魔の手から救われた。それに荷物持ちとはいえ勇者のパーティーに同行してくれたことも大変評価している。だからお主の望んだ王国の食客という立場を与え王宮に住まわせた」


「まあ育てたといってもたまたま住んでた村の近くで拾った赤ん坊の飯とトイレの世話してやってただけですけどね。後は勝手にすくすく育って、ひとりでに滅茶苦茶強くなってただけなんでぶっちゃけあんまり苦労してないです。パーティーについていったのも村長に借りた金が返せなくなって夜逃げしただけだし」



 どうせ嘘ついても心読まれるしな。正直ベースで話そう。うん。人間正直が一番だっていうしな。



「予想以上のなんたるダメ人間!くっ、全くもって知りたくなかった。しかしまあ、とにかくお主には感謝してるのは確かだ。だが王宮に住ませている以上お主についていろいろと調べる必要があるのではないかという意見が出てな。勇者を育ててくれたのだから魔族ということはないと思うが万が一があるといけないからな。そして先日その調査結果が出た」



 まあ別に俺は正真正銘の人間だし。調べられてもなんら問題ないが、とにかくこの王宮でのぐーたら生活を続行できるなら魔族検査でもなんでも好きにやってくれればいい。



「調査の結果を鑑みた結果、カスガ シュンスイ。お主を異世界追放することに決めた」

「あ~はいはい。そりゃなんも出てくるわけないっすよね。じゃあ俺は部屋に帰って昼寝の続きを……はっ!? 異世界追放!?!?」

「そうだ。カスガ シュンスイお前を異世界に追放する!!」



 瞬間、俺の足元に六芒星が浮かんだ。六芒星を囲う神聖文字が刻まれた円環が周り始める。



「ちょっと待ってくださいなんで俺がこんな目に合うんですか! 俺は魔族じゃないですよ!? もしかして王国の予算をちょろまかして博打に突っ込んだからですか! それとも王女様と甘い一夜を過ごしたからですか!? どれも全部出来心だったんです。悪気はなかったんです。謝りますからこんな寝起き姿で異世界に飛ばすなんて非道はやめてください!!!!」



 俺が涙ながらに訴えかけるが王の顔はなぜかひきつり残虐性を増した。



「貴様。そんなことをしていたのか!! これで私の中から後ろめたさは完全に消えた。問答無用。カスガ シュンスイ貴様をこの世界から追放する!!!」



 六芒星がライトブルーに輝いた。そして俺の身体が光の粒に分解されていく。



「ちくしょうが!! このクソ国王(ヒゲ)!!! 絶対にこの恨み晴らしてやるからなァァァあああああ!!!」



 最後の抵抗とばかりに俺は思いのたけをぶちまけ意識を消滅させた。






「国王様。なんとかカスガ様を異世界に追放することができましたね」


「ああ、そうだな。例の話を聞いたときは心苦しくもあったが、これも国を、いやこの世界を救うためだ。カスガ シュンスイあの男は危険すぎる」


「ええ、王のご英断に感謝いたします」


「後の問題は勇者シエスタだな。勇者は育ての親のカスガ シュンスイにべったりだからな。いまだって1年クエストに挑んでいるのに、月に一回はカスガに会いにこの王城に戻ってくるから全然クエストが進んでいないし」


「でも勇者様にカスガ様を異世界追放したことがバレたらそれもこの国の崩壊を招く可能性のある事態になってしまいますし」


「あの年ごろの娘は一時の感情で行動しがちだからな。とりあえずカスガ シュンスイは国の恩赦で長期の慰安旅行に行っていることにしよう」


「かしこまりました。今までに撮っておいたカスガ様の写真と適当な風景写真をコラージュしてそれっぽく見えるような写真を作っておきます」


「それと最後に一ついいか」


「はい。なんでしょうか?」


「王国の金庫の中身と王女レイナの調査をしておいてくれ」


「はっ、かしこまりした」



 宰相が部屋から出ていくのを見送った後、リンドバーグはげっそりとした顔で玉座にもたれかかった。



「ああ、魔王が現れたと聞いた時くらい疲れた。カスガ シュンスイ。お前は本当に恐ろしい男だよ」



 誰もいなくなった部屋に王のつぶやきだけが木霊した。




★★★―★★★―★★★―★★★―★★★―★★★



「……腹、減った。なんなんだよこの草原。もう三日も歩いてるのに町どころか。人影一つ見つからねぇ。もうだめだ」



 俺はそこで果てしなく広がる草原に仰向けに倒れた。



 あのクソ国王(ヒゲ)に異世界追放されてから三日が経った。俺が飛ばされたのは果てしなく広がる草原のど真ん中だった。



 群生する草木の形なんかからここが前にいた世界でないことはなんとなく察しがついた。着の身着のまま放り出されたこともあって俺は身一つでこのわけもわからない世界を炎天下の中歩き続けたのだが、異世界追放3日目にして空腹でとうとう体力が尽きた。



「ふざけんなよ。こんなところで終わるのかよ。俺が一体何したってんだ。普通こういう転生ものってどっかの国の王城とか、ピンチの冒険者パーティーの前とかそういうところに颯爽と現れて問題を解決するのがテンプレートってやつだろ。なんで一番最初の出発地点がピンチのパーティーどころか人ひとりいない草原の中心なんだよ。しかも三日三晩歩いても誰にも会わないって頭おかしいだろこれ」



 あ、やばい。この世界観に文句言ってたら意識が遠くなってきた。なんか目の前がぐるぐる揺れるんですけど、完全に栄養失調の症状なんですけど。



ちくしょう! 前の世界では勇者を育てた男としてそこそこ有名で楽な暮らしにありつけてたのに。まあ、全部偶然が重なっただけだし、シエスタの頑張りのおかげだけど。



ああ、人間うまくいってない時ってのは何見てもムカつくんだな。なんか今空が青いことに対しても腹立ってきた。それに視界がぐ~るぐ~るするからか雲がうまそうなわたあめに見えてきた。



ああ、だめだ。とうとう目が霞んできた。



ここでもう俺は終わるのか。最後に喰った飯ってなんだっけな。



あのクソ国王(ヒゲ)に呼ばれた日の朝に喰ったおにぎりか。メイドのララが握ってくれるおにぎりはいつもうまいんだよなぁ。また食いたいなぁ。



あれ? なんだこれ。目の前におにぎりが二つ浮かんでる。ああ、これが噂に聞く死の間際の幻覚ってやつか。ふわふわおにぎりが二個揺れてる。そうだたとえ幻覚でも最後におにぎり食べて死のう。神様も最後の最後には粋な演出するじゃんか。



俺は目の前に浮かぶ幻覚のおにぎりを味わうように優しく噛んだ。すると



「ふみゃぁぁあああああ!?!?!?!? 行き倒れだと思ったら変態、変態だったにゃ!? いきなりリンの耳を甘噛みしてきたにゃ!?!?」



 ん? なんだ? おにぎりが急に叫び声をあげたんだが。そうかこれは神様からの最後の贈り物だ。優しく噛んだとはいえ、いきなり噛むなんてのは神様に対して失礼だったか。う~ん。あまりこういう食い方はしたことないし、したくもないんだが仕方ない。神に敬意を払って歯をいれずとりあえずまずは舐めてみるか。



「はにゃにゃにゃにゃ!? 今度は舐めだした!? はうん♡ 変な舐め方するにゃ!! そこ耳の内側はダメにゃ!!」



 なんだやっぱり変な声が聞こえるな。でもさっきと違って今度のは女を抱くときのような甘い声だったな。ということはそろそろ噛んでもいいのか? いやでも一応さっきの失敗もあるし、優しくほだしてみるか。



「わひゃぁぁああああ!! ハムハムしてきた!? リンの耳がァァああ♡ やぱいにゃ。このままじゃリンの初めてがこのわけのわからない人間にとられるにゃ。しかもなんでこいつこんなに舐め方上手いのにゃ!? え~い! いい加減にしにゃさい!!」



 おにぎりを優しく食べていた時だった。顔面に何か鋭利なものが走ったような感覚がした。なんだ? 今の爪で引っかかれたような感触があった気がしたが。なんだこれ、顔が熱い? いや違うこれは熱いんじゃない。これは痛みだ!



「いってぇぇぇぇぇえええええええええええ!!!! おにぎりが、おにぎりが俺に噛みついたぁぁあああ!!!」



 痛みが一気に意識が覚醒する。さらに今までボケていた焦点が合い、目の前の世界を映し出す。



「おにぎりが噛みつく? にゃにをいってるんだにゃ。この人間は? やっぱり相当ヤバイ奴にゃ」



 焦点が合った視界には、小さい身長に大きな目をしたショートカットの黒い髪がよく似合う、まごうことなき童顔の美少女がいた。



少女は背にリュックサックを背負っており、腰にはナイフをさしていた。服装はノースリーブの薄手のシャツに短パンという恰好だ。



ここまではこの少女が類まれなる美少女という点を覗けば割と普通の見た目だ。



前の世界でも簡単なクエストに行くときはリュックとナイフだけという装備で行くこともあった。だが、前の世界では考えられないものが二つある。



それは少女の猫耳と尻尾だ!



 その少女はその可憐な容姿に黒い猫耳と黒い尻尾をはやしているのだ。しかもアクセサリーとかそういう類のものではない。今も尻尾はフリフリと揺れてるし、猫耳もピコピコと動いている。



 なんだ、なんだあれ。俺、猫めっちゃ好きなんだよ。やばい。なんか今俺は今までよくわからなかった萌えという感情を凄い勢いで理解している。そうかこれが萌え。なんてすばらしい感情なんだ萌え。素敵だ。



「ああ、かわいい。食べちゃいたい」



「ひィっ!? リンをヤバイ目で見てヤバイことを言ってるにゃ!! ひっかいたぐらいじゃダメにゃ。逃げなくちゃ、いやいっそここはナイフで……」



 目の前の萌え少女がヤバイ奴を見る目で俺の方を見た後、何かを決意したように腰のナイフに手をかけた。



 そこで萌え仮想空間という魔境に飛んで行っていた俺の意識がようやく戻ってきた。



「ちょっと待て! 何を考えてるんだ!? いや言いたいことはわかる。だが誤解だ。誤解なんだ。俺は変質者じゃない。ただの行き倒れなんだ!」


「嘘つくにゃ。いきなり近寄ったリンの耳を舐めたり、は、ハムハムしてきたりしてきたにゃ。それにさっきもリンのこと、た、食べたいって。お前は間違いにゃく変質者にゃ。それも超ド級の変質者にゃ」


「違うんだ! それにもわけがあって。三日三晩飲まず食わずで変な幻覚を見てたんだ。本当だよ信じてくれ」


「信じられにゃい! うん? どうした人間。なんか身体がふらふらしてるにゃ。おい、大丈夫かにゃ。おい、おいにゃ!!」



 ヤバイ。体力の限界で全力で叫んだから本当に力尽きた。俺は全身の力と意識が抜ける感覚とともにどさりとその場に倒れ込んだ。最後に何かに包まれるような温かくて柔らかいものに抱きしめられる感覚があったのは正真正銘神様からの最後の贈り物だったんだろう。



★★★―★★★―★★★―★★★―★★★―★★★



――――パチッ、パチッ、パチチッ



 何かが爆ぜる音が聞こえる。


 それに身体が暖かい。


 カラカラに乾いていた喉も潤っている。


 ああ、そうか俺は死んだのか。ここが天国ってやつか。


 なんだ結局最後の記憶は夢だったのか現実だったのかわからないな。


 なんかもう少しやりたいこともあった気もするし、なかった気もするな。


 まあいいや。それにしても死んでも意識ってやつはあるんだな。



 とりあえず身体は動かせそうだ。さあ、死後の世界ってやつを眺めてみますか。



 俺はゆっくりと瞼を持ち上げた。



「おっ、人間。目が覚めたかにゃ? まさか本当に行き倒れだったとは。悪いことをしたにゃ」



 そこには、黒い猫耳に可愛い鼻をした可憐な美少女が俺を覗き込んでいた。



「そうか。とりあえず地獄じゃなくて天国にこれたのか」


「にゃにを言ってるにゃ?」



不思議な者を見るように目の前の天使が大きな目を丸くする。



 あれ? よくよく見たらこの猫耳天使見覚えがあるぞ。死ぬ直前に見た光景にこの猫耳天使とまったく同じ容姿のやつに出会ったぞ。待てよということは



「俺、死んでないのか?」


「当たり前にゃ。あの程度の空腹で人は死なないにゃ。それと元気になったならリンの膝からおりて欲しいにゃ。さすがにちょっと痺れてきたにゃ。」



 その言葉にハッとする。さっきから頭が柔らくて心地の良いものに包まれていると思っていたんだが、まさかこれはそこで顔をごろんと横に向ける。



 そこには白くてむちむちとした健康的な太ももがあった。これは間違いない膝枕だ。


 まさか異世界に飛ばされたのに美少女の膝枕にあやかられるとは思わなかった。感激だ。



「おい、なんでおりろといったのにリンの膝の上で転がるんだにゃ」


「なんだ。ここはやっぱり天国じゃないか」


「だから違うと言ってるにゃ。ここはアレスガルド公国のミスリン平原にゃ。そろそろなんでリンのことを襲おうとしたのかとかなんであんなとこで行き倒れてたのかとか教えて欲しいにゃ」


「ああ、そうだよな。まあいろいろ事情があってな。全部話すよ」


「それともう一個教えて欲しいにゃ。なんで人間お前はパジャマなんだにゃ?」


「……それにもいろいろ理由があってな」



 そこで俺は今までの経緯を目の前のリンと名乗った少女に丁寧に話していった。もちろん膝枕の体制はキープしたままだ。




★★★―★★★―★★★―★★★―★★★―★★★



「ふ~ん。にわかには信じられにゃいけど。その話ならそのヘンテコな恰好も、あんなところで行き倒れてた理由も納得だにゃ。ところで人間。お前名前はなんていうにゃ」


「ああ、俺の名前はカスガ シュンスイだ」


「なんにゃ。その覚えづらい名前は。全く耳になじまないにゃ。やっぱり異世界の人間っていうのはほんとっぽいにゃ」


「ああ、そうか。だったら呼びやすいように好きに呼んでくれ」


「う~んそうだにゃ。だったらカスガだから。リンは今日からお前のことを人間のカスって呼ぶにゃ」


「いやそれはやめて」


「なんでにゃ。カスは呼びやすくていい名前にゃ」


「いや、ほんとごめん。マジやめて。なんか今までの自分の所業やらなにやら考えると凄い傷つくから」


「そこまで言うにゃら、カッス~♪はどうにゃ。なんかゴロもいいし、語感もなんかいいにゃ。カッス~♪」


「それならやっぱカスでいいや。なんかそのテンポで言われると凄いバカにされてる気がするもん」


「まったくわがままだにゃ。とりあえずカス。カスが今いるのはミスリン平原の東側にゃ。このまま2、3日歩けばリンの暮らしてる小さな村につくからまずはそこを目指すにゃ。そこで今後カスがどうするか考えるといいにゃ。家も何軒かあいてるし、村長にはリンが話をつけるにゃ」


「え? いいのか。何から何まで悪いな」


「困ったときはお互い様にゃ」


「なあ、ちなみになんだけどリンはなんでこんなところにいるんだ」


「リンは村のみんなのために食料になる生き物を探しにやってきたにゃ」


「えっ、ここって生き物っているのか? 俺は三日三晩歩いたけど、人間はおろか、動物にさえ会わなかったぞ」


「ここは世界の果てって呼ばれるくらい田舎だからにゃ。人はほんとに少ないにゃ。でも動物にも合わなかったにゃ? 魔物も?」


「この世界にも魔物がいるのか。ああ、でも一匹も出会ってないな」


「ふ~ん。それは運がよかったにゃ。一応ここには弱いけど魔物はそこそこいるにゃ。そんな恰好で襲われたら一たまりもないにゃ」


「ま、確かに俺もパジャマで戦うのは絵的にもなんか嫌だな」


「絵的とかそういう問題じゃないきがするにゃ」



 すっかり日が落ちた世界で二人が火を囲み言葉を交わしていると、草むらがガサガサと動き二つの紅い目がその眼光を光らせた。




★★★―★★★―★★★―★★★―★★★―★★★



「ちょっとお父様! シュンスイ様を異世界に送ったってどういうことなのですの!!」



アッシュガルド王国の玉座の前で腰まで金色の髪を腰まで伸ばした美女が大きな声を上げる。


「レイナ王女様。実の父とはいえリンドバーグ様は国王様です。もう少し言葉を選んでお話しください」


「これが言葉を選んでいられる状況ですか! どういうことですのお父様!!」


「どういうことも何もそのままの意味だ。カスガ シュンスイをこの世界から追放した。それより

レイナ。お前とカスガ シュンスイが一夜を共にしたというのは本当か?」



 その言葉にレイナの白い肌がうなじまで真っ赤になる。



「な、なんでそのことを……」


「お前のその反応、真実なのだな。カスガ シュンスイめ。場合によっては即刻死罪だったぞ」


「違うんです。シュンスイ様は悪くないんです。だって、誘ったのは私の方ですから!!」


「なっ!? 王女ともあろうものが、何を考えているんだ」


「だって、あの夜のシュンスイ様はいつものダランとした感じと違って、情熱的で扇情的でとても魅力的だったのでつい。あ、いけないあの夜のことを思い出すと体が熱くなってしまいます」


「いつもとまるで違うだと? まさかその夜やつは剣を持っていたか?」


「ええ、剣というには短くナイフと表現した方がよいかと思いますけど、なんでそのことまでお父様が知ってるんですか? まさか覗いてた!?!?」


 

 その豊満で妖艶な肢体を自ら抱きしめる。



「違うわ! まさか奴のスキルにはそんな剣まで隠されていたのか」


「シュンスイ様のスキル? そういえばたまに噂で聞きますけど、具体的にはどんな力なのですか?」


「やつは、カスガ シュンスイのスキルの名は別名『剣神』と呼ばれており、奴は全ての剣に愛されている。そしてそれがカスガ シュンスイをこの世界から追放した理由だよ」


「それは、どういうことですの?」




★★★―★★★―★★★―★★★―★★★―★★★



 草むらがゆれる。それと同時にリンが勢いよく立ち上がりナイフを抜いた。そして膝枕をしてもらっていた俺は勢いよく地面に頭を打ち付けた。



「いってぇぇええええ!! いきなり立ち上がるなよな。なんなんだよ」


「魔物にゃ。それもかなりデカいにゃ。そんなところに寝てないで早くリンの後ろに隠れるにゃ」


「え? 魔物?」



 リンの目線を追うと確かに草むらの向こうに何か獣の影らしきものが見える。



「よく気づいたな」


「リンたち猫人(びょうじん)族は耳がいいのにゃ。そんなことより早くたつにゃ」



 俺が立ち上がると同時に草むらにいた魔物もその姿を見せる。そこにいたのは体長3メートル程の黒色の毛皮をした熊のような見た目の魔物だった。



「で、デビルグリズリーにゃ!? カス!! リンが足止めするから早く逃げるにゃ!!!」



 デビルグリズリーと呼ばれる魔物が現れると同時にリンの様子がおかしくなった。さっきまでの強気な態度とは一変、声が震え、手に持つナイフも、その細い足も小刻みに震えている。



「ちょっとまてリン。こいつはお前が探してた食料になる魔物じゃないのか?」


「確かにデビルグリズリーは高級食材にゃ。でも、そいつが高いのはその味だけじゃにゃくて討伐難易度が高いからにゃ。デビルグリズリーに殺された人の数は数えきれないにゃ。リンでも何分足止めできるかわからにゃい。だから早く逃げるにゃ」



 なるほど。そういうことか。確かにこいつの目は血走ってるな。人を殺してきた奴の目だ。そんな魔物相手に今日初めて出会ってさんざんセクハラ働いた人間を逃がすために命懸けで戦う美少女か。



「これは萌えだし、燃えるな」


「は? 何わけわかんないこと言ってるにゃ。早く逃げるにゃ」


「なあ、リン。あいつ3メートルぐらいあるし、倒したら村に持って帰る食料としては十分だよな。それに味もうまいんだよな」


「それはそうだけど、デビルグリズリーなんてソロで倒されるような魔物じゃにゃいな!」


「そうか。それはよかった。俺そういえば三日間なにも食ってないからすんげー腹減ってたんだ。腹ごなしには少し脂っこそうだがまあいいか。おいリン下がってろ」



 そう言って無理やりリンを後ろに下がらせる。



「スキル発動【神剣ガチャ】。頼むから当たりが出てくれよ」



 瞬間俺の右手が黄金に輝いた。



★★★―★★★―★★★―★★★―★★★―★★★



 俺の右手が黄金に輝く。そして鮮烈な光が五芒星を描きその中から一振りの剣を顕現させた。



「演出は強めだったが一体何が出た。おお、こいつはランクC 【 アロンダイトの剣】か。悪くないな」



 魔法陣から現れた透明な刀身を持つ美しい剣を構える。



「にゃ、にゃ、にゃ。にゃにもないところから剣が現れたにゃ。カスは魔術師(メイジ)にゃのか!?」


「なんだ。この世界にはスキルはないのか。前の世界じゃ一人一つは持ってたんだけどな。まあ、これは俺の能力だ。能力名は【神剣ガチャ】、その能力は総数不明、強さ不明、能力不明の無数の剣の中からランダムに一本を召喚し自らの剣として使うことが出来る。一度召喚した剣を使用しない限り次の剣の創造はできない。まあ、強さは安定しないし。使い勝手は悪いし、たまに魔剣がでてきて意識乗っ取られるしハズレの力だよ」




★★★―★★★―★★★―★★★―★★★―★★★


「よいかレイナ。カスガ シュンスイの能力は【神剣ガチャ】。その能力は剣という概念があるものを召喚する力だ。やつはこの能力を好んでいないがこれは恐ろしい能力だ」


「そうですか? 剣を召喚するだけなら特に問題ないのでは? 確かに強い剣はたくさんありますが、うろ覚えですけど確かシュンスイ様のスキルって一度、剣を使ったら解除できるのですよね。最悪魔剣でも一振りして解除すれば実害はそれほどないのでは」


「よいか。これは一流の鑑定スキルを持つ者が調査してわかったことだが、やつの能力の恐ろしいところは創造される剣に現実に存在しないものも含まれることだ」


「はぁ、そうなのですか」


「ピンと来てないようだな。さっきお前は一振りして解除すればどんな剣も問題ないと言ったが、ではたった一振りで世界を滅ぼせる魔剣が存在し、それが奴の能力の中に眠っているとしたらどうする?」


「まさか!? そんなことあるはずが……」


「ある。奴のスキルは珍しかったり強い剣ほど出現しにくくはなっている。だが奴の能力の中に眠るSSSランクの魔剣は一振りで世界を滅ぼす。その脅威は魔王の比ではない。だから私はカスガ シュンスイがその魔剣を引き当てる前にこの世界から追放した。いいか奴のスキルは世界から排除しなければならないほどの脅威(チート)だ」



★★★―★★★―★★★―★★★―★★★―★★★


「この力のダメな点はどんな剣でも必ず使わなければいけないところだ。昔、使うと自爆するハズレの剣を引いたことがあってな。あの時は酷かった。怪我したくないのに自爆特攻する羽目になったんだからな。だがこのアロンダイトの剣は一度使ったことがある。極限まで研ぎ澄まされた切れ味抜群の透明の刃。間違いなくいい剣だよ」



 そういうとシュンスイはデビルグリズリーの元に片手で剣を遊ぶように持って近づいて行く。



「にゃ、にゃにやってるにゃ。近づいちゃダメにゃ。いくら剣が強くても当たらなきゃ意味ないにゃ。デビルグリズリーは本当に危険な魔物にゃ!!」



 リンの訴えに空いている左手を上げてひらひらと手を振る。まるで問題ないとでも言うかのように。


 

 そして、シュンスイがデビルグリズリーに近づくと不思議な現象が起きた。本来なら好戦的で肉食のデビルグリズリーが怯えたように一歩後ろに下がったのだ。



 このミスリン平原にはレベルは低いがたくさんの魔物が存在する。だがシュンスイは一匹の魔物とも出会わなかった。それはたまたま魔物がいる場所に出会わなかったのか? 



いや違う。魔物だって生き物だ。生存本能というものがある。本能的に自分より圧倒的に強い者が現れたら身も隠すし、もちろん逃げ出しもする。



そして今まで負けを知らない腕に自信のある魔物が分不相応にもそんな強者の前に出たとしよう。



その時頭によぎるのは後悔の文字だけだ。このときデビルグリズリーは激しく後悔していた。だが腕に覚えがあるために背中を見せたら自分の命はないことだけはわかった。だから全力で目の前の170センチそこそこの小さな強者に飛び掛かった。



「……【一刀流 龍舞―桜―】」



 何が起きたのかはわからない。下から強烈な風と共に鋭い何かが飛んできた。それが自分が真っ二つに切られた斬撃だと気づいたのは胴が二つに離れ、地面にどさりと落ちた時だった。



 その様をけだるそうに見届けた後、シュンスイは手に持った剣を消し去った。



 これは、この物語は賭博に狂っていて、どうしょうもないほど女好きのグータラでダメな大人が異世界で生き抜く物語。


どこかで自分を慕う異世界の『ぼくっ娘』女勇者に会うこともあれば、身体を重ねたことのある王女様に出会うこともある。魔族と戦うこともあれば魔剣に呑まれて世界を滅ぼしかけることもあるそんな物語。


 でも必ず毎日が充実していて幸せな物語。だってほら、今日だって



「なあリン。こいつ美味いんだろ! まずは俺らで食って残りは村に持って帰ってやろうぜ!!」



 ダメ人間の顔には笑顔が浮かんでいるのだから。


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