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またたきをとどめて  作者: kirinboshi
第一章 壊れた足
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第九節 退部

翌日の登校は慎重に歩みを進めた澪だったが、内心はずっとドキドキしていた。

授業中も落ち着かなくて数学の先生に「大丈夫か?」と問われるぐらいの始末だった。


待ちに待った、というかとうとう来てしまった放課後。

千夏とテニス部への道すがら、澪は重い口を開いた。


「ごめん、千夏。私、部活やめる」


千夏は、長い沈黙の後、「……そっか」と言った。暗い調子ではなかった。


「澪が自分で決めたんだね」


軽く、しかし念を押すように聞く千夏に澪は「うん」と頷く。やっと誰かに話せたことに澪の気持ちは少し軽くなる。中学から続けていたテニスをこの高校でもする、と決めた入学式の日。桜が綺麗なこの高校で、その思いもはかなく散ってしまった。


昨日と同じように、千夏に続いて部室に入る。自分のロッカーを片付け始める澪に他の部員も気遣って「辞めちゃうんですか?」と聞いてくる。頷きながら、澪は、不自由な足をかばいつつ淡々とロッカーの物を紙袋に移していった。


そして澪は顧問の桜田先生に退部届を提出した。桜田先生の指示により、テニス部の皆の前で、一言挨拶することになった。先輩には、これまでお世話になったこと。後輩にはこれからくじけずに頑張ってほしいこと。そしてもうテニス部に戻るつもりはないこと。そして精一杯の感謝を伝えた。澪の頬には話す内に熱がこもったのか、涙が流れていた。

仲の良かった部員を中心に澪と同じように涙を浮かべて聞く者もある。


事故の後遺症ということもあって、誰もが澪に同情していた。澪は、自分が場の主人公であることに恥ずかしさを自覚した。すぐに涙を拭って頭を下げ、紙袋を提げてその場を去ろうとした。すると、皆が拍手で送り出してくれた。

澪は嬉しいながら顔を真っ赤にして振り返り、礼をしつつその場を去った。千夏が教室まで紙袋を持ち、付き添ってくれた。


「千夏、ありがとう。昨日のメールで後押しされた」

「えっ、退部の後押し?私は澪にマネージャーになって欲しかったんだけどな~」


「意外」という感じで千夏は肩をすくめる。澪はただ微笑むしか出来ない。

千夏に別れをつげて、澪は校門を出た。


友達には会えるけど、これから勉強だけの学校生活が続くのかぁ……。


澪はゆっくりと松葉杖をつきながら、落胆した。

テニスの強豪校に入って部活に情熱を燃やしていただけに澪はつらかった。


その時、ポツっと澪の頬に水滴が落ちた。雨が降り出したのだ。

段々、強くなる雨滴に、荷物と杖で両手の塞がった澪にはなす術もない。


雨に打たれたままバス停について、嘆息する。

暗い空はこれからを暗示しているように澪には思えた。


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