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またたきをとどめて  作者: kirinboshi
第一章 壊れた足
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第七節 再登校

学校に入ると、まず難関は階段だった。偶然居合わせた、名前も知らない一年生だと思われる女の子が澪の松葉杖を一つ持って、二階の澪のクラスまで付き添ってくれた。

澪は、その女の子にお礼を言って、はたと思い出した。


担任の先生に登校再開の日は先生が手伝うからまず、職員室へ寄ってくれと言われていた。


うっかり忘れていた。少し早い時間だったので、先生たちも校門前に出ていなかった。澪に声をかけて助けてくれたあの女の子に悪かったなぁ、と思いながらも親切にしてくれたことを心に刻んだ。


私も誰かが困っているときは助けてあげなくちゃ。


引っ込み思案なところがある澪はそう自分に言い聞かせた。教室に入ると、その場にいたクラスメイトたちが、「おはよー!大丈夫?」と口々に澪に声をかけてきた。普段、あまり仲良くしていなかった級友が率先して澪のカバンを持ってくれたりして、澪は少し恥ずかしかった。


そのうち、朝練から帰ってきた千夏が有華と共に教室に入ってきたのを見て、澪はやっと少しホッとした。


「おい戸川、職員室に寄れと言っただろう」


ホームルームで入ってきた先生にそう言われ、澪は赤面した。


「澪のことだから、忘れてたんでしょ」


有華が言うとあちこちで笑う声が聞こえる。あざけりを含んだ笑いではなく、クラスメイトたちの澪の性格を鑑みてのあたたかさを含んだ笑いだ。


その後、特に事故の話題が先生から出ることもなくホームルームは終了した。

授業は座学なので、そこまで辛くはなかったが、ずっと同じ姿勢でいると痛めた部分が少しうずいた。


今日は体育の時間があったが、澪は自習ということで、クラスで英語の問題集を解いていた。有華と千夏がノートを持ってきてくれていたとはいえ、遅れた分は取り返さなくてはいけない。そんなに勉強好きな澪ではなかったが、事故のせいで進級に差し障るとやっかいだ。

熱心に設問を解いていると、教室の扉が開く音がして、有華がひょっこりと顔を覗かせた。


「有華、どうしたの?体育は?」

「お腹痛いから、抜けてきちゃった」


悪戯っぽく微笑する有華。

澪は友人なりの気遣いで様子を見に来てくれたのかな?と嬉しくなった。


「英語、教えてあげようと思って。澪の和訳はぐちゃぐちゃなんだもん」


それには答えようもない。自分でも丁度、「大工が魚釣りに行ってバターを落とした」という和訳はおかしいと思いながら、勉強不足を嘆いているところだった。


有華は勉強が良く出来る。この高校には、普通科と芸術科と音楽科と食物文化科がある。有華が行きたかったのは芸術科だったそうだ。けれど、両親の反対にあい、さらに自分でも絵の才能の限界を感じていた有華は結局、進学に有利な将来も見据えて、普通科へと入学した。


以前その話を聴いたときは「世の中、ままならないこともあるんだなぁ」と人ごとの様に澪は聞いていたが、今なら挫折の苦しみがよく分かる。


それでも絵が好きな有華は、美術科専任の顧問の先生がいる美術部へと入部した。


本当に偉いなぁ……。


と、有華を見つつ澪が思っていると、英文の解説をしていた有華が、


「もう!またボーっとしてる!」


と笑いながら、軽く澪の頭をはたいた。

笑いながらも澪は脳内で「自分もなんとかしなくちゃいけないなぁ」とぼんやりと思った。その「何か」一生懸命になれるものが、いまだテニス以外に見つかっていないことに澪は暗い気持ちを抱えていた。


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