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またたきをとどめて  作者: kirinboshi
第五章 卒業
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第二節 諦めない

次の日の放課後、美術部に向かった澪を早速、打ちのめすようなことがあった。


昨日と同じように黒板に「卒業おめでとうございます!」とカラフルにチョークで描かれた周囲に、これ見よがしに草間部長の三年間の絵や作品がプリントアウトされていたのである。

聴けば、美術部員以外にもいる草間部長の取り巻きたちが、澪との一戦を聞きつけて「鼻持ちならない」と草間部長のこれまでの軌跡をアピールしたのだという。


「どの作品も素晴らしいけど退屈よネ」


隣で黒板を見ていたサーシャがそう呟くのに、澪は驚いた。サーシャは壇上にあがると黒板消しを掴んで、「卒業おめでとうございます!」の字を消してゆく。


有華がこっそり澪に耳打ちした。

「サーシャは一年生の時、草間部長にフラれてるのよ」


サーシャはプリントアウトされた作品たちをなぎ払うように片づけていく。


愛の裏側は憎しみなのかな……。


個人的な恨みからくるものかもしれないサーシャの行動が澪を勇気づけた。

それと同時にロシア人とのハーフでとびきり綺麗なサーシャの告白を受け入れない草間部長にますます畏怖の念が湧いた。


「彼はナチュラルに、ド失礼よ。ミオ、負けないでネ」

サーシャは笑顔で澪の前にスケッチブックを差し出した。


「澪の能力は凄いと思っていたワ。私、モデルになってもイイ」


完璧にするために染めている髪らしいが、金髪碧眼美少女のサーシャは良いモデルだ。

バレエを習っていたというサーシャがくるくる踊る様子を澪は早速、スケッチする。


周囲を忘れて没頭する。


「おい」


声をかけられるまで、背後に美術科美術部員の田代がいると気づかなかった。

反射的に驚いてしまった澪に田代は呆れたように笑った。


「意外だったけど、俺は戸川が部長でも異論ないつもりだぜ」


そういう田代に澪はびっくりした。次期部長に一番なりたがっていたのは田代ではなかったか、と思うからだ。


「入部するときは何だコイツ、と思ったけど俺は戸川には実力あると思うし。

 わざわざ部長と戦うことなかったんじゃねーの」


そう、話す田代に澪はどう返していいかわからず、鉛筆を動かしながらただ聞くことしか出来なかった。

田代は澪の鉛筆の先を見つめながら、最後にこう言った。

「でも、草間部長に宣戦布告するなんていい度胸じゃん。

 頑張れよ!」


部長任命から、それをはねつける形での一騎打ち戦宣言で同級生や下級生の澪を見る目が明らかに変わった。草間部長のグルーピー以外は澪の挑戦を応援してくれている。


諦めない。


澪は固く心に誓った。

そして、丸くなった鉛筆の芯を丁寧に削るとまた、スケッチブックに向かっていった。



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