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またたきをとどめて  作者: kirinboshi
第一章 壊れた足
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第四節 意識回復

お母さん……?

お父さん……?

有華、千夏……?


澪の頭はくるくる回る。

スキー場の一面のゲレンデの雪が輝く朝。

一瞬の輪を描いて咲いて消える花火大会の花火。

高校生の入学式の校門の桜、ひときわ綺麗だった。

滅茶苦茶に頭を駆ける、これが走馬灯?


でも、皆の声がきこえる。

泣いている声。悲しい声。私を呼ぶ声。


起きなきゃ。


「……澪!」


カンカンカラ、と音がしてその方向へ澪は向こうとするが、首が固定されていた。

ここから、見える母の手元は急須が握られている。そうすれば、落ちたのはお茶の缶の蓋だろうか。


「澪、良かった……」


母が泣きながら私にすがりつく。

動かない包帯ぐるぐる巻きの両足を澪は見た。


事故か。


澪はすぐに昨夜の光景をフラッシュバックする。


あの、自動車の光の中、宙に浮遊するとき見た景色。空には綺麗な星が輝いていた。

……なんて言ったら、お母さん怒るかな。


澪の父も会社からすぐに駆けつけてくれた。


澪はまるで幼い子どもに戻ったときのような気分になった。しかし、猛烈な全身の痛みですぐに現実に帰ることになった。


「大丈夫、すぐによくなるから」


澪の母はそう言った。

両腕は動かせる。しかし両足はまるで鉛のような重さと、痛みで、本当にこれで元に戻れるのかな?と澪は思った。


複雑骨折。

一、二ヶ月で退院出来るがリハビリを最低三、四ヶ月しなければならない。

そう医師の説明を澪は受けた。


真っ先に澪の頭に浮かんだのは、夏のテニスの公式試合だ。

せっかくレギュラーに残れたのに。


絶望。


そんな文字がちらつく。


「頑張れば、もう少し早く治らないかなぁ」


そんなつぶやきに母は「大丈夫よ」と頷いてくれた。

「大丈夫」。

その言葉に安心感はあるが、何が大丈夫なのだろう、と澪はぼんやり思った。


有華、千夏も澪の元にすぐに駆けつけてくれた。


二人が泣くのを、今度は澪が「大丈夫だよ」となだめる番だった。


足元のベッドサイドに立てかけてあったひん曲がったテニスラケットは母に片づけてもらった。「このラケットがあなたの命を救ったのよ」と母は主張した。しかし、澪が「事故を思い出すの」と言うと母はすぐにどこかへやってくれた。


それでも床頭台のテレビで、モーリー・ハドソンの試合を見ていると、まだテニスに対する情熱が湧いてきた。


リハビリ、頑張ろう。


澪はそう誓って、日々養生し、リハビリ出来るまでに回復に努めた。


澪のめざましい回復を、医師も両親も、親友たちもあたたかく褒めてくれ、支えてくれた。両親は毎日のように病室へ足を運んでくれた。有華と千夏は協力して、澪が学校の勉強に遅れないようにノートを持ってきてくれた。その他のクラスメイトや中学の友達も澪を心配してお見舞いに来てくれた。「怪我の功名」とも言うべき、そんな絆を澪は感謝するばかりだった。


しかし、回復すると共に冷静に現実を見てしまうことになった。とてもじゃないがこの足は、テニスするどころか、走ることすら出来ないのではないか。


リハビリは辛かった。テニス部の練習とは質が違った。それでも理学療法士のお姉さんと二人三脚で、毎日少しずつ足を動かすリハビリをした。


本来なら、試合で忙しかったり、合宿があったり、友達と遊んだりする澪の夏休みはリハビリで潰れた。その分、頑張った成果は、如実に現れて来ていた。しかし、同時にテニスの出来ない体になってしまったと、不安は確信へと変わっていった。


ここまでくれば諦めか……。


真っ黒に日焼けした千夏が洋菓子店のゼリー片手に病室に訪れた時、澪はそう思った。千夏の日焼けは、テニス部でそれだけ練習した証だった。もう澪はどうあがいてもそこへは行けない。


絶望というより、諦めに近い思いが澪の心を支配していた。


それから数週間のち、澪の退院は決まった。


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