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またたきをとどめて  作者: kirinboshi
第四章 コンテスト
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第八節 先生の考え

いつも以上に部内に緊張が走っている。

部内コンペの結果が出るのだ。


清川先生は皆を見渡すとこう告げた。


「……申し訳ない。一晩待ってくれないか」


部内に驚きの声が広がる。

澪も驚いた。清川先生は即断即決で絵を選ぶ、と事前に聞いていたからである。


「今回はハイレベルってことかなー」

草間部長は困ったような表情で頭を掻きながら笑う。

部長とは対照的に皆はまだ少し緊張が抜けない。草間部長は何度もコンペをくぐり抜けてきた強者だ。部長という立場もあって落ち着いている。


「……どの絵で迷っているんですか?」


美術科二年生の田代が恐れつつも清川先生に疑問を投げかける。


「言えない。各自、自分で考えること。絵を見たら自ずとわかるだろう」


清川先生は端的にそう言った。

部室内がざわざわする。皆が意見を言い合う。

本人が意外なほど、澪の絵がひときわ注目されていた。

初めて披露したときより、皆が口々に感想を述べた。


「酔いそうな絵」「綺麗だけど怖い」「明るいのに暗い」


そんな意見が澪の耳に入ってくる。

澪は来栖先輩の微細な絵を見ながら、自分の絵に対する評価をじっと聞いていた。

どんな意見でも不思議と辛くはなかった。


「花ふぶき」を完成した自信と、もうすでに次の絵にとりかかりたいという希望があった。

だからといって、コンペに通りたい気持ちがある。


草間部長か戸川の絵か……。

そんな声に自然と反応してドキドキしてしまう。


皆が騒がしくなってきたので、清川先生は部員たちに帰るように指示を出した。

夜をおしてギリギリまで制作していた者も多い。

部員たちは絵を残して続々と帰っていった。


清川先生は一人、部室で絵を眺めながら、コンクール提出の絵を決めるのだろう。

咲が丘高校美術部に恥じない絵を。


有華と澪が帰り道を連れ立って歩きだすと、草間部長が「お疲れ」と近くのコンビニで買ってきた豚まんを二人に差し入れてくれた。


「戸川さんも山田さんもいい絵だった」


草間部長がそう言いながら「でも……」と澪の方を意味深に見やる。ひそかに憧れていた澪は草間部長に見つめられて少しどきまぎしてしまう。


「戸川さんの絵はちょっと怖いね。……きよピーは正攻法が好きだから」


澪はその言葉にしばし固まってしまった。自分では充分、正攻法で戦って描き上げた絵のつもりだったのだ。草間部長に「怖い」と言われると澪はショックだった。


「気にしない、気にしない。君にはあと一年あるだろ」


そう「ははっ」と笑って草間部長は走り去ってしまった。


「ほんと、気にしなくていいよ。草間部長、余裕ぶっこきすぎ」


有華はそう、落ち込む様子の澪をなぐさめた。

澪は頷いて気を取り直した。


湯気を出すあたたかい肉まん。

それを澪は頬ばりつつ冬の始まりをしみじみと感じた。



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