表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
またたきをとどめて  作者: kirinboshi
第四章 コンテスト
36/57

第六節 澪の絵

澪はそれから寝食も忘れ、コンペ用の絵に没頭した。

題材を見つけたからといって、そのまま描くのでは勝ち残れない気がする。

どう表現するか。私の今の技術と、自分では当たり前だと思っていた能力・才能をフルに使って……。


「おーい、戸川。何やってんだ、授業聞け」


澪は国語の授業中ハッと顔をあげた。

国語教師は呆れたように澪の横に立っている。

そして、澪の手元を覗き込んだ。


「なんだ、授業に影響されたのか?綺麗だな」

「え……」


澪は黒板を見る。それまで、全然内容など聞いていなかった。

授業は坂口安吾の「桜の森の満開の下」だった。


澪の広げた無地のノートには桜の花が描きつけてある。

国語の先生はそれを都合よく解釈してくれたらしい。


「ま、絵にもいい話だから授業聞けよな」

「……はい、すみません」


澪は反省しつつ、授業を聞いた。そして、思わぬ収穫を得た。

澪が記憶していた桜は、入学式のときのまぶしいばかりの祝福の桜だ。

坂口安吾の「桜の森の満開の下」は桜の妖しい一面が描かれていた。真面目に最初から聞いておけば良かったと澪は思ったほどだ。実際、見た桜の風景ではなくても、坂口安吾の小説の桜は澪の頭にイマジネーションを起こした。


これも使えるかもしれない……。


そう、澪はそのイメージを心に深く刻み、桜をどう表現するかを試行錯誤した。


そして、ついに澪の絵が発表される日が来た。

澪は描いた絵を後ろ向きに持って、教室の壇上に上がる。

全員が澪に注目している。澪は緊張せざるを得ない。


だけど、この絵でやれるだけのことはやったんだ。

澪はくるりと絵を正面に向けた。


皆がその絵を見て、言葉を失った。

澪は失敗作だったかと汗をかきつつ口を開く。


「タイトルは桜ふぶき、です」


不思議な絵だった。

日中のお花見のような桜が描かれているかと思えば、まるで夜桜を観ているような場面転換が絵の中で起こっている。

そして、あたかも本物の桜の花が風に四方八方飛んだように画面全体に舞っているのだ。

美しい絵だ。

しかし美しいと同時にどこか恐ろしさを感じさせた。

花びらが迫ってくるように吹き付けてくるような立体感がある。

桜の持つ綺麗さ、豪華さ、そして恐ろしさがあますことなく表現されている絵だった。


圧倒的な絵のパワーに部員たちは黙り込んだ。


「よし、戸川、もう大丈夫」


清川先生がそう言って澪はハッとして壇上から降りた。

拍手も起きず、この絵に賭けていた澪は少ししょんぼりした気持ちだった。

しかし、皆は澪の絵の迫力がすごすぎて何も言えなかったのである。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ