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またたきをとどめて  作者: kirinboshi
第四章 コンテスト
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第四節 めざましい成長

澪の筆は止まらず、油絵を二日に一枚のペースで完成させていた。

完成とはいっても、油絵は上にうえにと塗り重ねることが出来るので時々前の作品を見返して手を加えることはしばしばだ。


まだコンペの作品には取り掛かっていない。

部内コンペまであと三週間。

今は油絵に慣れることに力を注いでいる。


澪特有の見た物を瞬間記憶するカメラ・アイを使って、動くものをピタリと切り取って活写する。怖くて避けていた清川先生だったが、先生はかまわず、澪に向かって容赦ない意見をぶつけてくる。

最初はビクビクしていた澪だったが、油絵を上達したいと本気で思う気持ちが勝り、清川先生の怒声にも慣れてきた。


「写真のように描くだけじゃ駄目だ!」


清川先生は澪が描く一面のススキを見てそう言い捨てた。

澪は風になびくススキを観ながら考え込んだ。


そう、先生の言う通りだ。

この風景の中に感情を起こすものはあるだろうか?

人々はこの絵を観て何かを感じるだろうか?

私はこの絵で何を伝えたかったのだろう……。


澪は即座にススキを白く塗りつぶす。

その迷いのない行動に有華ならず、部員たちまでが「ああ……」とため息をもらした。

ススキはススキ字体としてよく描けていたからだ。

「何も消さなくても」という声も澪には聞こえる。


だけど、先生が駄目といったものはどこか欠けている。

そう澪は思っていた。


澪は清川先生の審美眼を信じた。

草間部長に「きよピーのことあんま気にしすぎず」とフォローされた。けれど澪には進歩したい気持ちの方が勝る。

清川先生ではない、自分に勝ちたいのだ。


コンペがきっかけだったとしても、美術部で少しでも納得のいく絵が描きたい。

きよピーに何も言われなくなったら終わりだ。


そんな気さえしていた。

花の絵は相変わらず一枚も描いていなかった。


描いたのは千夏の姿に始まり、走る馬やススキや、バスから眺めた一瞬の街の風景たち。

美術部の部室も描いた。これは、動きが無いので澪の持ち前の能力が生しにくいと思い、上手く描けるか心配だった。しかし、物の形をとらえるという点で自信がついた気がした。

部室に差してくるやわらかい陽の光に舞うキラキラした埃を中心に描いた。有華もサーシャもそこが独自の視点だと褒めてくれた。


目ざましい澪の成長ぶりに周囲は圧倒されていた。

草間部長までもが「美術科に来てもらった方がいいよね」と言い出していた。

清川先生だけが、この事態を見こしていたようだった。澪を静観し、厳しい批判だけをしてくる。


澪はそれに応えようとひたすら絵を描いた。

授業中も家に帰っても。

「やりすぎよ」と母に注意され、心配もされたが、澪はつらいと思わなかった。事故後のテニスが出来ない絶望や、何もやることがない生活より何倍もマシだ。澪は絵を描くことの楽しさに目覚めていた。



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