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またたきをとどめて  作者: kirinboshi
第四章 コンテスト
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第二節 緊張の美術部

入部前に有華が「美術部コンペの時はピリピリしてるからね」という言葉は当たっていた。あの時は入部することになるとは思っていなかったから聞き流してしまっていた。

しかし、本当に体感でピリピリしていると感じるほど美術部はいつもの美術部ではなかった。


皆、私語をすることもなく淡々と各々のキャンバスに向かっている。そして、完成させるまで皆、描く途上の自分の絵を見せたくないのか、絵の正面が壁側に向くように教室の端々で描いている。本当に誰にも見せたくない人は、自宅で描いているそうだ。


有華と私は校庭のベンチに座って、草花をスケッチしていた。


油絵具が許されたからといって構図も決めずに描けない澪は、草花の形をとらえることに慣れようとしていた。

そして油絵具の使用方法については、有華に日々少しずつ教えてもらったり、YouTubeの動画をみたりして学習した。

油絵具は重ね塗りに適した、というより重ね塗りで味が出る技法のようだ。


「失敗しても、後から塗りつぶせばいいよ」と有華が言って澪はホッとした。

今まで使ったことの記憶のある水彩絵具は、何度も塗り直すと紙がボロボロになってしまい、絵が台無しになった経験があるからだ。


澪は、ふと風に揺れる草花を描いた。

草花自体は動かなくても、風がそれらを揺らす。

その姿を描くことが出来るのではないかと思ったのだ。


「……上手いな」

「えっ」


いつの間にか後ろに来栖先輩が立っていた。

澪はびっくりして、振り向いた。


「風に……か。いい着眼点だと思う」


来栖先輩はそれだけ言うと、校舎の方へ遠ざかっていった。

有華は「謎の人だよねー……」と言いながら澪が驚いたときに落とした鉛筆を拾ってくれた。


来栖先輩はコンペには相変わらず鉛筆画を出すのだろうか。

澪にとって来栖先輩はどこからともなくやってきて、いつも何気にいいアドバイスをくれる貴重な存在だった。

今、言われたことも澪の中にストンと落ちてきた。

そうだ。草花はいつも風に吹かれているんだ。

その揺れを澪の動体視力と瞬間記憶能力で表現できれば、独自の世界観が出来るのではないだろうか。


澪は風に揺れるススキを見つめた。

すぐに新たなページをめくり、鉛筆を走らせる。

ススキが揺れるさまをじっと見つつ、脳裏に焼き付いたその像を繰り返し思い起こしては手を動かす。


絵はあくまで静止画だ。この風の揺れを紙上にどう展開していくか。

そして、何の「花」を題材にとるか。


澪の手に熱がこもり、汗ばんできた。

それはくしくも、テニス部でラケットを握っていた頃を澪に思い出させていた。


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