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またたきをとどめて  作者: kirinboshi
第一章 壊れた足
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第一節 充実の学校生活

高校二年生の春。


桜も散り始め、緑の葉が茂りをみせる時、みおは学校へ向かう道を勢いよく駆け出す。

通学鞄にカバーをしたテニスラケットを携えている。今しがたやってきたバスに急いで乗り込んだ。


夏になれば、テニスの公式試合が待っているのだ。朝練は欠かせない。

バスの車内はまだ早朝のせいか空いていた。

澪は、一番前のかなり高さのある席にひょいと座る。

車外からの風景がよく見えるお気に入りの席だ。


澪の高校生活はそれなりに充実していた。

一年生の時の友達の千夏ちなつ有華ゆかとは二年生でも一緒のクラスになれたし、勉強にもなんとかまだついていけている。


バスの車窓から、澪は過ぎてゆく街の風景を眺める。街路樹の桜が早々に散ってしまったのはやはり寂しい。今年は満開になったと思ったら、大雨だったもんなー……と澪は、側溝に溜まって流れていった桜を思い出した。


それでも、一年間乗っていてもバスの車窓から見える風景は飽きない。バスの速度に合わせて過ぎていく風景にふっと一人の女性に目が留まった。


あ、あのお姉さんの日傘可愛い~!

黒地に小さい小花がキラキラしている。

全体的にオシャレ。

服も靴もキレイめで、いいなー。


バスでは酔うので、スマホをいじるのも読書する習慣もない澪は、もっぱら車窓から見える人間ウォッチャーを楽しんでいた。今日のお姉さんのようになるには、予算的にも魅力的にも二年、いや三年はかかるか……などつれづれと澪は思った。


高校の最寄りのバス停をつげるアナウンスに、澪はハッとなって、慌てて席を立ってバスを降りた。外は爽やかな朝の空気である。


校門をくぐった澪は、一度荷物を置きに教室に向かった。

一番乗りかと思った教室には人影があった。その後ろ姿は、同じテニス部で親友でもある千夏だ。


「おはよう!」

そう声をかけるとポニーテールに髪をまとめていたところだった千夏は大げさに振り向いて、「ビックリしたー!」と笑った。


有華は美術部だが、千夏は澪と同じテニス部だ。千夏と友人になれたのはテニス部に入ってからだったが、同じ部活内に友達がいるのはすごく楽しいと澪は感じていた。澪と千夏はキャイキャイと、嬉しそうに声を上げながらハイタッチをする。


本当に充実している。中学生もテニス部で、この高校でもテニスをしたいと入学した。結構な強豪校で、エースのポジションからは程遠く、レギュラーでいるのも精一杯だけど、二年生になって後輩も出来た。

澪はテニスという競技が本当に好きだ。相手の動きを見て、どんな球を打つか。条件反射で澪には分かる所があった。身体が追い付かず、打ち返せない場合が多いのが今後の課題だ。


もちろん憧れのテニス選手もいる。

モーリー・ハドソンという選手だ。

「名前からしたら、とても運動が出来そうにないね」というのがあまりテニスを知らない友人の有華の評価だったけど、澪にとってはヒーローだ。


個性的なプレーで観客を魅了するテクニックを持っている。

もちろん、ウィンブルドンでは優勝経験者だし、国内でも人気は高い。

決してイケメンという部類ではないが、実直そうな顔に魅かれて、澪は部屋にモーリーのポスターを貼っている。

部屋に遊びに来た有華には馬鹿にされたし、千夏にも「ポスターまではないわ」と笑われた。澪はそんな明確にモーリーに夢中になっているわけではないと赤面した。重ねて「尊敬だよ」と澪は強調した。


せっかく共学の高校に入学したのだから、現実的に恋愛もしたい。

しかし、クラスメイトは澪の好みの子はいないしで、男子テニス部員との恋愛は強豪校からなのか、暗黙の内に禁止の雰囲気がある。

中学の時に思い描いていた恋愛がないのは少し寂しい、と思いながらも、澪は千夏と練習場へ向かう。


なんだかんだ充実しているから、いいかと思いながら階段を軽快に降りていく。

その後、自分の身に何が起こるか知る由もなく――。


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