歪すぎるよ、この愛は!
むしゃくしゃしてやった
「今すぐに私を抱いて!」
えーと……いきなりわけがわかりません。僕にどうしろと?
「だから私を抱けばいいのよ。もちろん、ベッドの上という二人の愛の巣でね」
な、なんでですか?
「あなたと合体したい。創世合体したいの」
だ、だからなんで。てか、創世合体って……。
「あなたが好きだから」
え?
「私はあなたが好き。私はあなたになら何をされたって……ゴホン。私はあなたとナニをしたい、だから!」
なぜ言い直した!?だ、だいたい僕は君のことなんて知らな――
ピピピ、ピピピ
AM6時、うるさい携帯電話のアラーム音で僕―樋口勇介は目を覚ました。一人暮らしを始めて早3ヶ月、朝はいろいろと忙しいから毎日この時間帯には目覚める。
といってもやはりまだ眠い。こんな状態では布団から出るということは困難だ。
まぁうだうだ言っても仕方ないか。
『続いては幼……失礼しました。少女誘拐事件の犯人についてです。犯人の名前は友部――』
朝食を食べながらニュースを見る。世間一般の朝となんら変わらない日常、それが僕のモットー。まぁ少なくともこの事件の犯人みたいに小さな女の子を誘拐するような真似は絶対にありえない。
女の子?
そういえば、今日変な夢を見た気が……。
ピンポーン
そんなことを考え始めると、玄関のチャイムが鳴った。こんな朝早くから、いったい誰だ?僕には隣りの家で暮らしている幼馴染みや親友はいないぞ?
ピンポーン
「はいはい、今出ますよー。いったい、どちらさ……ま……?」
玄関の扉を開けた先、そこにはキャミソールにショートパンツ、さらには可愛らしいサンダルを履いた女の子、いや美少女がいた。
その美少女の顔はまるで次元が一つ違うのではないか、というぐらいの綺麗な顔立ち、そして包み込まれそうなほどの漆黒の長髪。なんか同じ人間に見えないというくらいの美しさだ。
しかし、僕はその絶世の美少女をどこかで、それも最近見た気がする。はて、どこだったか?
「そ、それでご用件は……?」
まぁ見た見てないは置いといて、用件を聞かねば。こんな美少女が僕に用があるのだから。
「いや、ご用件とか。今日の”夢”の中で伝えたはずだけど?」
「は?」
”夢”って…………。
……………………。
あ。
「今日の夢の中で創世合体がどうだの言ってた女の子!?」
「そ」
意味がわからん。ちょっとよく考えてみようか僕、えーと、今日の夢の中で目の前にいる美少女とそっくりの女の子に抱いてだのとせがまれた。はい。今度はその夢の中で出会った女の子にそっくりな美少女が訪ねてきた。うん。で、次に?
「”夢”で伝えたとは……?」
ここが意味分からん。ていうかなんでこんな夢の美少女がここにいるのかも分からん。
「だから君が好きってことだよ。えっちしたいの、君と!」
「あの〜僕たちは知り合ったばかりでしてね、そういうことはもっとお互いに理解を深めたうえで……って違うわっ!夢での知り合いなのになんで実際に僕の家が分かって、しかも実際に会ってるんだよ!?」
ありえない。こんな非現実なことありえない。あれ、まだ夢なんじゃないか?駄目だな、僕、しっかり起きなきゃ。
「現実を見なさい勇介。これは現実、ほ・ん・と・う!」
ソンナワケナイダロ?コレハユメダヨー。
「やれやれ。信じてくれないかもしれないけど、私は人間じゃないわ」
「これは夢これは夢これは夢……って、え?」
今、人間じゃないとかなんとか。
「どっちかといえば人間というより妖怪に近いかもしれないわ」
ガチャ
無意識に僕はドアを閉めた。確かに可愛いけどありえないもん、そんなの俺認めないんだもん。
ガンガンガンガンッ!ガッガッ!
すごいドアが叩かれてる!?てかなんか削ってません!?
ガチャ
「やめてください!!」
「じゃあ、何でいきなり閉めたのよ、締めるのは私の女性器だけで十分でしょ?」
「何言ってるんですかアンタは!?」
「何イってるんですかアンタは?……まだイってないわよ!」
駄目だこの人!てか人じゃないんだっけ?
「じゃああなたは何なんですか?よく物語に出てくる夢魔とかなんですか?」
夢に妖怪、なんか夢魔とかいう感じの奴なんだろう。てか本当に人間じゃないの?てか何で僕は世間一般がモットーなのにこんな非日常への順応性が高いの?
「夢魔?何それ?同業者かなんか?初めて聞いたわ」
「え、マジで!?」
「うん、マジで。というか私も自分のこと人間じゃないってことと、好きな男の子に対してのみ夢を見せることができるってこと以外分からないし。あ、でも幽霊とかじゃないからね。えっちは可能だから」
いや、そこは問題じゃないでしょ。
「う〜ん?まぁとにかく家に上がるね」
「ちょ、やめてくださ――」
「おじゃましま〜す!」
そう言って彼女は、サンダルを脱ぎ僕の家へと上がりこんだ。
僕の家は小さなアパートの一部屋だ。その範囲実に6畳、そこにテーブル、棚、テレビが置いてあるだけだ。
「て、なんでアンタはまずゴミ箱と押入れの中を見る?」
「えー、だって健全な男の子の部屋っていったら……きゃー」
そう言って顔を押えて体をクネクネさせる美少女。なんか夢でもそうだったけど、相手するの疲れますね。
「うーん、ないなー」
当然だ。僕は本ではなく携帯でやるタイプだからな。文明の利器は素晴らしい!
「じゃあ、携帯見せてー」
「ほえっ!?」
「お、この反応。携帯の中にあるとみた!」
「な、何が……?」
「おかず!」
「で、まず何で僕があなたに好かれているのかを聞きたいのですが……ってあんまり動画の音量上げるのやめて!!」
結局、携帯は取り上げられ、恥ずかしい僕の性癖だらけのエロ動画を見られているのです。それもこんな美少女に。
「あー、うん。君さぁ、結構イケメンじゃない?」
「じ、自分ではよくわからないんですけど……すいません、ほんとすいません携帯返してください」
「でさぁ、結構タイプなのよ君が。それでこの前、町で偶然すれ違ってストーキング」
「……」
「それで、名前も住所も手に入れたうえで能力を行使して、夢でえっちしようと思ったんでけど」
「……」
「君が起きちゃってさ、あ!そういえば今日は下の君も起きたの?」
「……」
「まぁいいや。それで朝起きたら、下の私は濡れててさ。もう、リアルでやるしかないか、と」
「……」
「なんか言ってよー」
「…………なんと言えば良いのか、分かりません」
もう、やだ!なんでこんな変な人に絡まれなきゃならないの!?
「それで結構遅くなっちゃったけど自己紹介するね。私の名前は伊座レイン、偽名よ。スリーサイズは上から95の58の89、どうムラムラする?年齢は設定上18歳以上としか言えないわ、エロゲみたいでしょ?」
「あんた一言多いねん!一言多いねん!」
「あぁ、君の自己紹介はいらないわ。バッチリ調べ上げてるから」
このストーカー。
「そこで!いきなりだけどえっちしよっか!」
「しませんよ!てかほんといきなりだな、おい!」
人間とかそうじゃないとかどっちでもいいわ、この人(?)は変態だ!可愛い顔したド変態だ。
「変態は自覚してるから♪それよりもはやくぅ、脱いじゃってよぉ」
四つん這いになりながら僕を見つめるレインさん。その甘い誘惑に僕は――
・身を任せた
・力の限り抵抗した←
「やめてくださいよ!」
そして立ち上がり、彼女に背を向ける。
「いきなりすぎてよくわかりません!ていうか僕の平和な日常を返して、返してくださいよ!」
「もう、けっこうお固いんだから……てことは下の方も……」
「とりあえずですね、今日のところはもう帰ってください」
これ以上彼女と一緒にいるとこちらの体力がもたない。もう身体的にも精神的にもすごく疲れる。
「や」
「や、とかかわいく言わないでくださいよ」
「や」
レインさんはツーンとした態度でそっぽを向く。その仕草だけは可愛いのだが。
「えっちするまで帰らない!私が処女から大人の女に、勇介が童貞から非童貞になるまで帰らない!」
「どこまで淫乱で変態なんだあんたは!」
「淫乱?変態?上等だね、いくらでも罵ってくれていいから!むしろ興奮するんだからね!」
「じゃあ無視します」
「無視したって放置プレイと大して変わらないじゃない。そんなことしたらこの部屋で盛大に果てるわよ」
「……すいませんでした」
「まぁ結局、えっちすればお互いに果てちゃうんだけどね♪」
言葉では勝てない。じゃあ力技で……無理、この人絶対に寝技とか強いから。
「さぁさぁ素直になりなさい!本能の赴くままにさ!」
「くっ……」
「んふっ……ちゅぱ……あむ……ちゅっ……れろれろ……あっ……んちゅ……」
部屋で艶やかな音が静かに流れる。それは一定のリズムのように――って!
「そんなにエロい音出さないでくださいよ!たかだかチュッ○チャップスで!!」
「予行練習予行練習」
「何の予行練習だ!……すいません言わないでくださいお願いします許してください」
とりあえず本能に我が理性は勝利した。よくやったぞ、理性伍長!
しかしレインさんは僕が脳内でどれほど自分大戦を繰り広げたのか知る由もなく、チュッ○チャップスをなめ続ける。
「もう。焦らすの好きなの勇介?」
……何言ってるんですか?てか焦らすとかそんなつもりないって。
さすがにもう限界だ、こっちは。
「……帰れ」
このあと発した僕の声はご近所に響き渡った。そして彼女、レインさんの声も……。
「帰れえええええええええええええええぇええええぇええぇぇぇ!!!!!!」
「えっちするまでいやああああああぁぁあああああぁあああああ!!!!!!」
樋口勇介と伊座レイン。彼と彼女がドタバタした生活を送るのはもう少し先の話になるのかもしれない。
まぁそれはまた別のお話で。
反省はしている