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境界人の軌跡  作者: 吉杏朱音
序章 公爵家の養子
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五幕 将軍の探り

前回の続き。構えている時にはやってこないものです。

 この国の貴族は基本的に女王陛下が一族の名を決め、ニドルネーム(名前の最後の部分)を決めるものらしい。


 ここに来るまでに公爵が言っていたことだ。ほかにも今回の謁見で行うことを一通り教えてもらった。


 そんなことを思い出しながら、私は女王陛下を見上げる。やはりベールが邪魔で、その顔の表情を見ることは叶わない。


「公爵家長女、貴女にアスカ・デル・サイルという名を与えましょう。」


 女王陛下は私にそう言った。兄をすっ飛ばしたのは外務省に勤め始めたときに女王陛下にニドルネームを付けてもらっていたかららしい。


 ただこれは、謁見が終わってから聞いたことなのでこの時の私は、兄を飛ばしたことに困惑していた。その後、ルルリアに『ルルリア・デル・ルルーシュ』という名を与えることを宣言する。


 こうして、謁見は終了した。言質を取られるかもしれないとは思っていたが、そんなことはなく形式的なことのみでで終わった。



 兄にさっきの事を聞きながら(この時に兄だけ貴族名を先に賜っていたことを聞いた)公爵に王城のとある部屋に案内される。


 公爵…養父と呼べばいいのだろうか、養父はここまで案内すると仕事があるからと連れてきていたメイドさんに全てを任せると部屋から出で行った。


 養父が出で行って間もなくドアからノックの音がした。メイドさんが戸を開けると大将軍と図書館魔導士が入ってきた。


「ふむ、とりあえずだな。」


 キルッセ大将軍は、そう言うとパチンとひと鳴らしする。


 すると、何もないところから背もたれ付きの革張りの椅子が二つ現れた。そして、私の前に置いて座った。


 現在、私は軍部のトップと向かい合っている。赤い目は鋭く私を睨んでいる。私はそのプレッシャーに冷や汗が流れる。兄もこの流れに動けないらしい。妹はこの状況にやや涙目だ。


「きちんと話をするのは初めてだったな。俺はキルッセ・アンセルノという。大将軍だということはデル公爵から聞いているだろう。お前とはきちんと話をしないといけないと思っていた。すべてを見極めるためには。」

「私はセリー・カザラン・ルートライカというわ。図書館魔導士という職に就いているわ。あなたについて興味があってきたの。」


 それぞれそう自己紹介する。というか私に話とは何だというのか。


「あの…すべてを見極めるためには、とは?」

「お前の能力について。それしか今は言えない。まず一つ目だ。聞いた限りでは人間に被害は及んではいないようだが…。」

「あっはい。シュレットを誤って殺してしまってからは能力が出ないように気を付けていたので。」


 私がそう答えるとキルッセ大将軍はそうか、と答え睨みを緩め座りなおす。


 そして、腰ほどありそうな長い一纏めの三つ編みを椅子の背もたれの後ろにやった。それを見ていた後ろのルルリアの横にいすを置いて座っていたセリーさんは


「もう少し高い位置で結べばいいのに。やっぱり邪魔そうよねぇ。」


とジト目になっていた。


「二つ目だ。どういうときに能力が出たり、出そうになるか。また、発動した時の詳細について教えてほしい。」

「感情が荒ぶったり、興奮した時です。発動した時は踏まれたように潰れてしまうことが多かったです。」


こんな感じで質問と応対を幾つかした後、


「最後だ。その能力を現在、うまく扱うことはできるか。」


と聞いてきた。その質問に私は考える。最後に発動してから1年が経っているが、あの時もうまく使えなかったのだ。今現在、上手にこの能力を使える自信はない。なので、


「できないと思います。最後に発動した時でさえ、うまく使えませんでしたから。」


と答えておく。その答えにキルッセ大将軍は


「うむ。」


と答え、目を細める。後ろのセリーさんも


「第一関門、突破かしら。」


と小さく言った。その反応に私は心の奥底で予測していたことが本当であると確信を持った。兄も合点がいったらしい。同じことを考えていたのだろう。



 部屋を出る際、セリーさんは


「これからも、いろんな関門があなたを待ち構えるでしょう。でも、あなたの誠実さがあればどうにか突破できるでしょうね。」


と、やや不吉なことを言い残していった。

キルッセ大将軍はセリーさんが出ていった後、ちらりとこちらを見てから、出ていった。最後まで彼が笑うことはなかった。



 私達は王城で遅い昼食をいただいた後、公爵家に戻ることになった。


 公爵家の家紋が見え、中から養父が出てくる。窓にカーテンはかかっておらず、中にアビスさん―――アビス兄さんがいるのが見えた。私達はその後ろにある同じく家紋付きの馬車に乗る。そうして戻るのだが…。


「今までどこにいたんですか。…イスズリー兄さん。」

「所属部隊の仕事をしていたのさ。終わったので先に乗り込んでいた。」


 中には行きと同様に乗り込んでいるイスズリー兄さんがいた。


 今まで、王室の警護をしていたらしい彼は、相変わらず、薄っぺらい笑みを浮かべながら乗り込むように言って促した。



 公爵家に戻ると、自分の部屋に案内された。その部屋は私が王城に行くときに着替えた部屋で、そこにいたメイドさんもあの時私の着替えを担当した人だった。


「改めまして、私はお嬢様の担当の侍女のジュリー・ライブラと申します。これから何なりと申し付けくださいませ。」


私にそう自己紹介したジュリーは


「早速ですが、ご夕食をいただく前に湯浴みをしましょう。もう夕方ですから。」


それを聞いて、私は窓を見る。確か、王城に行ったときが正午、謁見が終わったときが昼の半ばだったはずである。


 それはこの場所から王城がやや遠いことを意味する。現在、日が沈みかけている時間である。


 この部屋に置いてある茶色い木の柱時計を見ると、既に六の刻を過ぎていた。ジュリーは私の答えを聞く前に、私をお風呂場というところに私を案内し始めた。

ありがとうございました。

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