四幕 王城の臣下達
馬車に揺られながら、私は横で笑みを浮かべるイスズリーを見る。さっき初めてあったときから笑みを崩さない彼は私の視線に気がついたのか、こちらを向いた。
「何か、僕の顔に付いているか。」
「いえ、別に。」
そして、その場に沈黙が降りる。こんな子供に何を話せばいいのか、私はわからない。
それを見ていた私の目の前に座っている兄が、イスズリーに話しかけた。
「失礼ながら。まだ、話していないでしょう。自分の事を。僕は貴方を知っていてもアスカ達は、貴方を知らないんです。あなたの事も、公爵家の事も。最も、僕からしてみればあなたと話す方が危険ですが。」
兄はそう言ってイスズリーに警戒感を見せる。
「ああ、そうだね。少し僕の話をしようか。」
笑みを浮かべたまま、彼はそう言った。即答だった。
「僕は現在、軍部に所属している。この外見だから子供に間違われるが、実際は既に二十歳になった。」
イスズリー…さんはそう言う。成長不良の病気か何かなのか、別の要因があるのかこの時点での私にはわからない。
「軍部…あなたは第三部隊所属だと聞いたことがありますが。」
兄は何か思い出しながらそう言う。
「そう。じゃあ、第三部隊がどんなところかは知っているか。」
「とても有名ですからね。あそこを率いる将軍が。」
「まあ、僕にも容赦ない女傑だからな。外交官のアンタでも知っているぐらいに有名だ。」
と、兄と話している。馬車の窓はまだ王城に着いていないらしく、まだ止まっていない。
「まあ、僕の事ここまでで置いといて。公爵家について話をしようか。」
で、イスズリー…さんは話を変えてきた。
「公爵家は3000年以上は経っている由緒ある一族だ。現在の公爵家は父が外交省の大臣、母が社交界を牛耳っている。兄者は外交補佐官だし、僕自身はさっきも言ったように軍人として勤めている。勿論文官、武官は女性もなれるけど、成人しないといけないところは民間と変わらないと思うよ。」
彼はそう説明した。途中からこの国の役人についての説明になっていたが。
やがて馬車は城門の前で止まった。業者さんが降りるように促される。ここから先は降りて歩いていくらしい。
イスズリー…さんが下りるのを見て、私は馬車から降りる。アビスさんは丁度、城の中に入って行くのが見えた。
城門を抜けると、石畳の床が特徴な庭があった。噴水の水は日に当たってキラキラしている。後から兄と来たルルリアが嬉しそうに噴水のそばに行こうとしたが、城の衛兵に止められていた。
と、城の中から誰かが来ていることに気付く。三十代後半ぐらいのあごの赤い髭が特徴の人物だった。その人物は私達のところに近づいてくる。そして私のところに来ると、手を差し伸べた。握手、ということなのだろうか。私はかなり困惑する。
私の様子に気付いたのだろう。彼は手を引っ込めた。
「すまないな。挨拶した後のほうがよかったかね。初めまして。私はルーター・デル・アーリャという。デル公爵家の現在の当主だ。つまり、君達の養父ということだ。ここから先は私が案内することになる。」
彼はそう言って改めて私に手を差し伸べた。なぜ私なのだろうか。そんなことは思ったが、ひとまずデル公爵の手を取って握手をした。
公爵に案内され、私達は今謁見の間に通じる扉の前にいる。
私はかなり緊張していた。私は女王陛下の事を噂程度でしか知らない。その噂も不老不死とか、国を一度滅ぼしかけたとか信憑性のないものばかりだった。
公の前に出るときは王家の家紋である一角獣の王家の家紋が描かれた紫のベールを着けており、その顔を公に見せたことはないといわれている。
そんな人に私は今日、対面するのだ。緊張しないほうがおかしい。兄も緊張した顔をしているが、ルルリアは訳が分からないのか、ボケっとした顔をしていた。
謁見の間に公爵の後ろから兄、ルルリア、私という順番で入場した。女王陛下は30インデル(3メートル)ほどの台の上にある玉座から私たちを見ているように見える。
ベールはやっぱり着けていて、その表情をうかがうことはできない。
周りにはほかの貴族たちも来ているようだ。右はイスズリーの来ていた服よりも位の高そうな服を着ているものが多い。
左はアビスさんが来ていた服と同じくらいの服を着ていた。恐らく、右が武官、左が文官なのだろう。
台の真下の右側には質素ながら高級そうな服を着た赤目、金髪の少年と金目、金髪の女性がいた。また、左側には青年が二人いた。片方は黒と赤の神官服を着ており、もう一人は生地がつやつやしてそうなひらひらした服を着ていた。
ここまで来るときに公爵が言っていたことによると、少年のほうが軍部のトップでもある大将軍の地位に就く人物、キルッセ・アンセルノらしい。となると、横の女性が【知識の魔女】の異名を持つ図書館魔導士と呼ばれている少女なのだろう。ひらひらしていそうな服を着ているのが恐らく宰相なのだろうし、神官服を着ているのが神官長なのだろうか。
公爵曰く、大将軍、図書館魔道士、大臣、神官長この四人が女王陛下の最も信用する側近らしい。兄も大臣には会ったことがあるらしく、油断ができない人と言っていた。そんな人たちがこうしている場で私達はいるのだ。心していかねば、言質を取られるかもしれない。
女王の謁見は次回です。
ありがとうございました。