二幕 使者と事情
書いて保存を忘れて2回。やっと2幕書きあがりました。
この平民街では未成年はお金を稼げないので、こうして薪割りや洗濯などの家庭で行う仕事を未成年がこなす。
成人は働くのが当たり前のため、子供は少しでも働いて大人になった時に備えるのだ。この国における、成人年齢は18歳である。そして私はまだ16歳なので、あと2年も時間がある。
兄は、23歳なので働いているのだが、なぜか働いているところがどこかを教えてはくれない。母は知っているようだったが、私には教えてくれはしなかった。その母もこのあいだ亡くなったので知る人はいなくなってしまったのだろう。
母の葬儀から一週間、私はこの日、夕飯の買い出しに出かけていた。
この平民街では一日の食事は安物の食材さえ買えば、やっていける。もちろんこの日も市場で安売りしてあった食材を買って帰る。いつもはその後、料理を作る。
しかし、今日は帰って来ると客人がいた。客人は上品な服を着ており、恐らくは貴族階級の人間だろう。その客人は兄が対応していたが、私を見るとこちらを向いて話しかけてきた。
「初めまして。外交省、中級外交官のラハールと申します。今日は貴方について話をしに来ました。」
よろしくお願いします、と言うと礼をする。私は少し驚く。私なんかになんの用があるのだろうか。
「まあ、わけかわからないのも無理がありません。貴女の事は少し調べました。私も驚きましたよ。ここまで強い能力は貴族内でもなかなか無いもので。」
彼はそう言い、私に腰掛けるように言う。ちなみにここは私の家である。しかし目上の人間にこれを指摘するのはためらわれた。だが、
「お兄ちゃんたちに断って座ってください。」
と、ルルリアが言った。
普通ならそれは正しいが、目の前の客は役人である。この発言に兄は慌ててルルリアを今の外に連れ出す。それを見送ってから席に着いた私は、彼の話について聞くことにした。
「さて、あなたの能力は恐らく物を潰すことに特化した能力です。報告に書いてあったのが本当ならば、人にも物にも有効。5級危険能力に匹敵するものです。平民であるにはあまりにも大きすぎる。」
「待ってください。それって私のこの力はかなり危ない能力なんですか。」
「使い方を誤ればそうなるでしょう。ただし、正しい扱い方を学べば、まだマシに使えると思います。」
ラハールさんはこう言った。と、兄の声がした。ルルリアを別の部屋に移したらしい。
「だからこその王命ですか。職場でも聞きましたが、こんなことで王命を使うのは…と思ってしまいます。」
「だからこそですよ、ニコラス君。それだけの価値があるんです。」
兄はこう言い切られ、困っているようだった。
明日、迎えの使者が来ます。きちんと荷物をまとめといてください。そう言ってラハールさんは帰っていった。それを見送ると、兄に詰め寄る。この会話の中で分からないことが沢山あったからだ。
「まず一つ、王命って何かな。私、なんにも聞いてないんだけど。」
「どうせ明日にはバレてしまうから、今日話をするつもりだったんだけどね。ルルリアを呼んで来るから部屋に入ってて。ここにいても身体が冷えるだけだよ。」
そう言って兄は家に入っていった。ラハールさんを見送るために家から出ていたのだ。この時期は春先で夕方頃ぐらいになると、よく冷える。この日も、昼はよく晴れていた。今日も夜は冷えるだろう。
居間に入ると、兄とルルリアが待っていた。聞くとルルリアは隣の部屋にいたらしい。どおりで私よりも早く来るはずだ。この家は居間と玄関の間が少し距離がある。
「で、全部説明してくれるのでしょうね。私、何にも聞いていないんだけど。」
改めて説明を求めた。私のこの発言に、ルルリアはぽかんとしている。まあ、10歳とはいえ、話についていけなくてもおかしくはないが…。
「まあ、何にも言っていなかったからな。一から説明するよ。」
そう言って兄は語りだした。
「王命書が僕のもとに届けられたのは、3日前だったんだ。職場に届けられたんだけどね。」
「待ってその前に、今どこで働いているのよ。」
私が聞くと、
「外交省の外交部だけど。」
「はあ!?」
初耳である。そんなことは聞いていない。
「言っていなかったし。母さんにも言うなって言われていたからね。」
と、しれっと言った。
というか普通、平民は城の役人なんて簡単にはなれないのだが…。まあ、後で経緯を聞くことにするので、
「まあいいか。」
と小さく言っておいた。そして兄に、話を続けるように促す。
「じゃあ続けるよ。そもそも前にも言ったように、母さんは元貴族だからね。17年もたっているのにどこから調べたのか、僕があの時の少年だということを知ったらしい。」
それは聞いたことがある。母が昔語りで言っていたことだったはずだ。かつての苗字まで聞いたし、兄はこの時まだ5歳だったと聞いている。
「芋づる式であれからの事を調べ上げ、アスカの厄介な能力の事を知って今回の事に踏み切ったんだと思う。最も、僕もルルリアも能力があることは知らなそうだったけど。」
そう締めくくった。ルルリアはこの説明には首をひねっていた。この説明ではわからないのかもしれない。
「とにかく、明日になったら詳しいことはわかる。今日はもう寝なさい。憶測だけでものを考えるのはよくない。僕は、お風呂に入ってくるからね。」
そういって、兄は部屋から出ていった。
ありがとうございました。