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境界人の軌跡  作者: 吉杏朱音
序章 公爵家の養子
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序幕 果たされぬ願い

主人公の母親の想い。母親は本編では死亡しているので、回想でしか出てきません。

 私は、あの子の小さいころからあの子は平凡には過ごせないだろうと感じていました。


 小さいころ、近所の奥方からある話を聞いたからです。あの子が動物を殺した、と。


 私は奥方がたに詳しい話聞いた後、アスカにもきちんと事情を聞きました。


 あの子曰く、殺すつもりはなかったのだと言いました。その時の様子は、全く嘘を言っているようには見えませんでした。


 そんな出来事があったのが、アスカが5歳の頃です。それから私は考えていました。というのも、この出来事の原因には心当たりがあったからです。


 私はそもそも平民の出身ではありません。生まれこそ子爵家でした。しかし、先代子爵の数々の不正によって爵位を剥奪されたのです。この頃、私は結婚したばかりでした。婿入りした夫に申し訳なくて離婚を切り出したのですが、


『まさか!離婚なんてとんでもない。君の行くところならどこでも行くよ』


と、言い、本当に死ぬときまでそばにいてくれました。


 平民街にまだ五歳だった息子のニコラスを連れ、落ち延びた後夫は体力仕事に勤しみました。私も裁縫業に勤しみました。


 しかし、夫には唯一問題がありました。人柄は良かったのです。ところが、夫は下級貴族には珍しく能力が備わっていたのです。そして、息子にもそれは受け継がれていました。


 夫は他と馴染むために、この事実をひた隠しにしました。しかし夫も息子も能力は目立つものでは無かったために当時はあまりこの意味をあまり考えていなかったのです。


 アスカのことは夫とともに思いつくだけの対策は立てました。しかし、夫は3年前に亡くなっています。生きていればアスカの能力制御をどうにかしたのかもしれませんが…。もう私にも時間は残されていないのです。どうにかしないといけません。アスカのことだけは…。


 私が体に異変を感じたのは、半年前のことです。洗濯をしているとき、体が痛くなり気づくと、倒れていました。


 一緒に服を干していた末っ子のルルリアが急いで駆け寄ってきて、近所のお医者様を呼んで、検診を受けました。すると、不治の病に罹っており、治せないと言われたのです。


 アスカの能力は下手をすれば大変な厄災になるでしょう。だからこそ問題でした。現在、アスカの能力の危険性を危惧しているのは私のほかにはニコラスしかいません。夫がなくなってしまっている以上、後を託せるものがいなかったのです。



 私の願いは「アスカが幸せになること」です。ただ、それだけだったのです。だから…。

ありがとうございました。

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