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モブでいいよ  作者: ふにねこ
第二章 修行
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閑話 王都市伝説2



小鬼たちの来襲






 子供たちが噴水前の広場で楽しそうに追いかけっこをして遊んでいる。

 その様子を噴水の縁に腰かけながら見ている中年の男がいた。

 相好を崩し、特に男の子を舐めるように見ている。

 愛らしい子供達が遊ぶ光景は心が和むはずなのに、男の目は欲望に輝いていた。


「なぁおっさん。あんた、知っているか?」


 いきなり声をかけられ、男は驚いてそっちを見ると、顔立ちの好い目が細い少年がいつの間にか自分の隣に立っていた。


「な、なにをだい?」

「ここいらで子供に悪さをする大人は小鬼たちに襲われるんだ」


 男の体が微かにこわばるが、何食わぬ顔で男は少年を見る。

 彼の好みからすると少々年が上のようだが、かろうじて守備範囲だろうか。

 理知的な少年はくすりと意味ありげに口角を上げた。


「でも俺は小鬼たちをやっつける呪文を知っているんだ」

「ふぅん。それはどんな呪文だい?」


 少年は笑顔のまま答えないでこちらを見ている。

 男は財布を取り出すと金をとりだした。


「小遣いをやろう。屋台で何か買って食べるといい」


 少年の目が嬉しそうに手の中に転がった金を見ていた。


「ありがと。特別に呪文を教えてあげるよ」

 そういって男は風変わりな呪文を教えてもらった。








 金髪の、とても愛くるしい顔をした少年が目の前を横切っていった。

 月明かりに少年の顔がはっきりと男の目に映る。

 月の光を弾く金の髪に縁どられた少女のような顔をした美しい少年。

 細く伸びた手足とあどけないまなざしはまだ性別を意識していないであろう純真無垢なものだが、それでも少年であるということを相手に気づかせるだけの力強さを持っている。

 ごくりと男の喉が鳴った。

 極上の獲物がふらふらと人気のない裏道へと入っていく。

 誘われるように男も後を追った。




 小さな子供の足で走っても、大人からすれば速足で追いつける。

 もちろん走ったりはしない。

 速足で追い詰めていくのが楽しいのだ。

 じわじわと恐怖で心を染め上げていき、極上の柔肌を蹂躙しながら絶望を与える。

 最高の狩りに男は酔いしれていた。

 だから少年が袋小路に追い詰められて振り返った時に見せた笑みに気が付かなかった。


「坊や、いい子だからおじさんのいう事を聞きなさい。そうすればとても楽しくて気持ちのいい事をしてあげよう」

「ふぅん。俺はされるよりもする方がスキだけどな」


 笑いをこらえながら少年が答えた。

 想定外の答えに男の動きが止まる。


「狩りの始まりだっ!」


 少年の声が高らかに告げた。

 袋小路の、少年が背を向けている壁の上に子供たちが姿を見せた。

 愛らしい子供達。

 手には棒を持っている。

 見間違いでなければ、ところどころに釘が刺さっていたりする。


「いっけーっ!」


 少年が声を上げると、頭上からばらばらと何かが落ちてきた。

 たまらず頭を抱えて顔を下にい向けると、足元に小さな小石がいくつも転がった。


「な、なにを……」


 怒り心頭で怒鳴ろうとした男の顔に水の塊がかけられた。


「成功したよっ!」

「やったねっ!」


 ハイタッチする音を見れば、バケツを持った子供が塀の上に立っていた。

 男は瞬時に理解した。

 誘いこまれたのだ。

 このままではまずいことになると察した男は身をひるがえし、走り出す。

 が、数歩いったところで何かに足を取られて勢いよくすっころんだ。


「あはははは」

「やりぃ、おもしれぇな」


 子供たちの嘲笑う声にはっとして横を見れば、かがんだ状態でひもを持っている少年がいた。

 立ち上がって子供を殴ろうと考えたが、行動に移る前に小石攻撃が始まった。

 大きくないのでケガをするほどのものではないが、いかんせん数が多いとうっとうしいし地味に痛いし袖や背中に入る。

 男は足元に気を付けて走り出した。

 後ろからいくつもの足音が追いかけてくる。

 角を曲がったところで人影に気が付いて足を止めた。

 助けを求めようとした男の声が止まる。


「悪い大人はいねぇだか~」


 月明かりにその姿が浮かび上がる。

 緑色の、人の形をしたものだった。

 頭には大きくて長い角があり、丸い二つの目がぎょろりとこっちを向いていた。


「悪い大人はいねぇだか~」


 違う声が後ろの方から聞こえた。


「悪い大人はいねぇだか~」


 また違う声がさっきとは違う方向から聞こえてくる。

 同じ言葉を繰り返しながら徐々にこちらへと近づいてくる。


「ひぃっ、いったいなんなんだよ……」


 男は昼間に出会った少年の事を思い出した。

 悪い大人を襲う小鬼。

 彼が言っていた呪文。

 信じていたわけじゃないが、この状況がどうにかなるのなら藁にもすがりたい気持ちで叫んだ。


「ろりーたのーたっち、ろりーたのーたっち、ろりーたのーたっちみてるだけっ!」


 男が叫んだ次の瞬間、目の前に逆さになった小鬼がいた。


「悪さをする大人はいねぇだか~」


 小鬼の手に握られたナイフがキラリと輝き、男は気を失った。






 翌朝、男は目を覚ました。


「ちょっとあんた、大丈夫かい?」


 気のよさそうなおばさんが心配そうにこちらを見ている。


「は、はい……」

「おや、あんた。顔色が悪いよ?悪い小鬼に身ぐるみはがされる前にここを出たほうがいいよ」

「ひっ……」


 昨夜の恐怖を思い出した男は勢いよく立ち上がると、そのままどこかへ走って逃げていった。






都市伝説2 小鬼たちの来襲


 小さな子供に悪さをする大人は小鬼たちに襲撃を受ける。


 退魔の呪文:「ロリータNOタッチ見てるだけ」を三回唱える。








「やったなぁ。あのおっさん、なかなか金持ちだぜ」


 膨らんだ財布をもてあそびながら金髪の少年がにやりと笑った。

 角が付いたお面を外すと、目の細い顔があらわになった。


「これで当分、飯に困らねぇな」

「お前の見てくれも役に立つ」

「お前の頭も役に立つ」


 二人は顔を見合わせると楽し気に笑った。


「とりあえず帰ったら一寝しようぜ」

「だな。あいつらもがんばったし、明日はごちそうだ」


 スラム街の忘れられた孤児院は超貧乏だ。

 寄付は少ないが孤児は多い。

 路地に生えているしょんべんまみれの食べられる雑草が浮いたスープが毎日の食事である彼らは生きるために必死だった。

 一生懸命に知恵を絞った。

 それでも何も思いつかず、友達に頼った。

 友達は言った。


「子供を狙う悪い大人から金をもらえばいいわ」


 兵隊の詰め所に駆け込めないような後ろ暗い大人から。

 正義とオヤジ狩りの相反する行為を彼らは何とも思わない。

 これでみんなおなか一杯に食べられるのだから。





次は本編に戻ります。

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