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モブでいいよ  作者: ふにねこ
第二章 修行
62/202

食堂といえば 1


 合宿が始まって二週間ともなると、周りを見回す余裕も出てくる。

 一日目は食欲もなかったが、日に日に食べる量が増えていった。


「……なんでホノカちゃんは平気なの?」


 体の話だが、筋肉痛などの体力の話ではない。

 どう見ても自分より食べているホノカの曲線は全く変わらない。


「ムグムグムグムグ……世界の補正ってやつです。この世界に来てどんなに甘いものを食べても1ミリも変わらない体を手に入れました」


 無駄にどや顔をするホノカにちょっとだけ殺意がわく。

 商品開発は楽しいが、その裏では体重との戦いがあったアリスからすれば羨ましいどころではない。


「ダイエット知らず……羨ましいを通り越して妬ましい」

「えっ、でも体が引き締まったんじゃないですか?以前にも増して動きにキレが出てきたように見えますよ」


 ちょっとだけ本気な本音にホノカは慌てて特訓の成果を指摘する。


「それは否定しないけどね、これ以上は筋肉ダルマになる気がする」

「……それは嫌ですね」


 ムキムキのアリスを想像したのか、ホノカは眉を寄せていた。


「アリス姉さんのキャラだと似合いませんね。もうちょっと背が高いと戦士とかもありですけど……」


 武闘家はジャックを思い出すのでやめておいたホノカだった。

 魔法使いなのに彼をイメージするとなぜか武闘家なのだ。

 クールで知的なフード付きの長いローブの似合う僕ちゃん眼鏡キャラなのに、彼を魔法使いと評価するのには抵抗感がある。

 

「前衛職はちょっと遠慮したい」


 そもそもアリスは商人であって戦う職業ではないのだ。

 いや、某ゲームでは商人自ら戦っていたが。

 たわいのない話をしながらアリスは視線をさっと巡らせた。


「そろそろだと思ったんだけどなぁ……」

「何が?」

「ん~、なんでもない」


 訳アリ美少女の訓練参加に鼻の下を伸ばす輩ばかりではない。

 男尊女卑の傾向が強い人種は二人が見習い騎士たちと一緒に走ることにも眉をひそめている。

 てっきり難癖をつけてくるかと身構えていたのだが、杞憂で終わりそうだ。


「アリス姉さん、ここのご飯はおいしいですね」


 ホノカが何気なく言ったその後ろで、がたっと騎士の一人が椅子から勢いよく立ち上がって振り返った。


「あ……」


 見覚えのある顔が一気に引きつり青くなっていくのをアリスはつまらなそうに眺めていた。


「アリス?なんでこ、ここに?」


 ホノカはどもるほどに驚く男を見上げてからアリスに不思議そうな視線をよこす。


「私、アリス。今、あなたの後ろにいるの」

「うわっ、なつかしい……」


 都市伝説の一つ、電話がかかってくるたびに近づいてきているメリーさん。


「あれって日本の都市伝説なのに、なんで外国人の名前だったんですかね」

「芽李依てきなキラキラネームかハーフ設定だったんだよ、きっと」


 ホノカの疑問に適当に答えると、立ち上がっている騎士に座れと手で合図する。

 今にも床に正座しそうな勢いで青年はホノカの隣に座った。

 アリスと同じ栗色の髪に茶色の瞳、顔は二枚目かな?という整い具合で、どこにでもいそうな青年だった。


「ちょっと訳ありで、お嬢様の付き添いをやっているの。ホノカちゃん、彼はヘンリーといって、私の幼馴染」


 アリスに気を取られてホノカの美少女っぷりに気が付いていなかったヘンリーは改めてホノカに頭を下げ、そこで初めて顔を見た瞬間に硬直した。


「アリス姉さんの幼馴染って、職種に幅がありますね」


 片や闇の世界のボスの息子、片やお城の騎士。

 対極の存在だ。


「ヘンリー。彼女は今、コンラート伯爵という元学長から魔法の授業を受けているの。その訓練の一環で、見習い騎士に混じって体力づくりをしているのよ」


 コンラート伯爵の名を聞いてちょっと目を見張るが、すぐに納得したように頷く。


「ああ、そうなんだ……。俺はお前が王様と知り合いだって聞いても驚かないからな」


 やけくそ気味にヘンリーが答える。


「王子様なら一人、知り合った」

「…………ああ、そう、うん」


 達観したように彼は頷いた。


「まぁ、なんだ。情報だけは提供してやれるから」

「…………なに、そのいかにも荒事を前提とした協力体制」

「だってなぁ……アリスだし」


 困ったように笑いながらヘンリーはホノカに意味ありげに目をやる。

 ホノカはその視線の意図にすぐに気が付いた。


「ああ……そうですね……アリス姉さんだし、なんでもありですよね」

「何もないから。まっとうな商売をしているだけの一般人だから」


 胡乱なまなざしが二つ分、アリスに突き刺さるがそこは譲れない。

 アリスが事を起こしているわけじゃない。

 いつだって穏便に、平穏に楽しく商売をして過ごしたい。

 ただ、トラブルがアリスを放っておかないだけだ。

 自分がトラブルメーカーだとは思っていない。

 あくまでも、巻き込まれ体質なのだとアリスは思っている。

 他人の評価はさておいて。

 その評価が下されるのは、それから二日後だった。


メリーさんは都市伝説。

捨てられたお人形の名前がメリーさん。

持ち主の元へ帰りつつ、道中こまめに連絡を入れるという都市伝説。



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