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モブでいいよ  作者: ふにねこ
第二章 修行
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アナタハ カミヲ シンジマスカ? 2

 微かに頬を上気させてホノカを見つめる王子から、その隣に立つフェルナンに目を向ける。

 フェルナンは少し真面目な顔をしながらホノカの様子を見ている。

 嘘はないか、全部を話しているのか、アリスの言葉は本当なのか。

 彼の中で目まぐるしく情報が駆け巡っているに違いない。

 仕事のできる男は冷静だ。


「ところでホノカ。どの神から神託を受けたのかい?」


 世間話と同じようなトーンで質問が来た。

 想定通りとはいえ、緊張のあまり慌ててしまう。


「えっ、あ、あの、わかりませんっ」


 その時、アリスが振り返ってちょっとだけ口の端を上げた。

 フェルナンからは見えない角度だが、いたずらっ子のような笑みを見た瞬間、ホノカは昨日の特訓を思い出した。


 確実な事は一つだけ。

 他はあいまいに。

 慌てず動作はゆっくりと。

 どうしていいのかわからない時は両手を胸の前で組み、愛する神の御業を思い出すこと。

 

 それだけ気を付ければこの場はしのげる。

 少し気持ちが落ち着いたホノカはゆっくりと首を振った。


「わ、わかりません。名前を名乗られなかったので……」

「男?女?」

「わかりません。とても不思議な声だったんです。男のような女のような、若いような年寄りのような……どうとでもとれるような不思議な声でした」

「そう……」


 疑いを深めるには証拠が不十分だし、信じるには不確かだ。

 心の中で冷や汗を流しながらアリスは事の成り行きを見守る。


「で、神は召喚された君に三か月後だと言ったのだね?」

「神託を受けた時はここに召喚されてすぐで、半年後に事件が起きるって言われたので、残された時間はあと三か月です……」


 おずおずとホノカが訂正をいれると、フェルナンは小さくうなずいた。

 フェルナンの質問は想定内だ。

 彼が口にするであろう質問をあらかじめアリスが考えて答えを用意しておいたものだ。

 今の問いはひっかけで、質問にはいと答えれば矛盾が生じる。

 神が三か月後だと言ったのならば事件が起きるはまさに今だ。

 絶対にこの手のひっかけ問題が来ると思っていたのでホノカは慌てずにすんだ。


「ふぅん……。確かに、余計なことに時間を割いている場合じゃなくなったようだね」

「で、お前はホノカをどうしたいんだ?」


 クリス王子が率直に問いかけてきた。


「クローディア様にご紹介していただく教師にホノカ様を一から鍛えなおしてもらいます。仕上がりは三か月後という条件はとても厳しいですが……ホノカ様にはやってもらわねばなりません」


 アリスはクリス王子に向けて力強く演説した。


「ひょっとしたら神託ではなく聖女様には未来を見通すお力があるのかもしれません。本当に神から警告を受けたのかもしれません。ですが私にはそのことについて是非を問うつもりはありません」


 珍しく神妙な面持ちでクリス王子がアリスの話を聞いていた。

 アリスが本気だという事はクリスにもフェルナンにもわかったからだ。


「重要なのは、三か月後。何もなければそれでいいのです。ですが何かあった場合、聖女の力が足りずに封印できませんでしたなんて大惨事になって欲しくないのです」


 アリスは自分が思っていることを口にした。


「私はこの国が大好きです。この国に住む人たちが大好きです。その人たちがいつでも笑っていられるように、平和でいられるように。私の願いはそれだけです」


 この場に商会の人間がいたら十人中十人が白々しいと思っただろう。

 アリスの本音はその先にあるのだから。

 飲食店は平和な時代のほうが、食材が安定価格で仕入れできるので儲けやすいのだ。


「私はホノカ様の神を信じます」


 重々しく口にされたその言葉を聞きながら、ホノカはこくこくと頷く。

 彼女の崇拝する神はこの世界にはいない。

 彼女が神と崇めたものは観賞用×3冊と布教用×5冊と保存用2冊という同じ本を初めて大量に買ったBL本の絵師だ。


 神を思い出してうっとりとしているホノカは疑念を払しょくさせるほどに神々しいまでに美しかった。

 その姿にクリス王子とフェルナンは見惚れている。

 美しさは罪だとアリスはつくづく思った。


「……クリス王子、フェルナン様。ホノカは聖女としての覚悟をもって話してくれました。私はその期待に答えたいのです。この国を、この世界を救うために」

「はい。頑張りたいと思います」


 ホノカがダメ押しをする。

 頬を上気させ、目を潤ませている美少女の破壊力にクリス王子とフェルナンは落ちた、

 こくりと首を縦に振る。

 世界の補正、恐るべし。


 アリスには今ホノカが何を考えているのか手に取るようにわかる。

 この手の顔をしているときは、神と崇めている絵師のBL本を思い出している時だ。

 屋敷の蔵書にあったBL本を見ている時と同じ顔をしている。


「わかった。お前の進言通りにしよう。いいな、フェル」

「承知いたしました。各所にそのように手配いたします」


 クリス王子の決断に、フェルナンは深々とお辞儀をしてこの場は終了となった。




誤字脱字の訂正をしました。

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