七日に一度は悪巧み 7
「何をやっているんだっ!王都観光だと?何をのんきな……」
クリス王子はイライラしたように書類の束を机にたたきつけた。
政務官の一人がびくっと肩を揺らしたことにも気が付かないほど怒り狂っている。
「よいではありませんか。ご一緒したかったとか、自分が案内したかった……とでも?」
からかうようなクローディアの口調にクリスは顔をしかめる。
「聖女の存在を知られた」
「どなたに?」
「そこまでは教えるつもりはないらしい」
ああ、とクローディアは王子の怒りを納得した。
彼の怒りは想定内だ。
辛酸、挫折と敗北を味合わせ、彼がどう動くか。
未来の王妃として、クローディアは国王から聖女の教育係という役目を与えられたが、もう一つの役目も与えられている。
クリストファー第二王子が将来、第一王子を支えるにふさわしいか否かの見極めだ。
王子として教育されてきた彼は頭脳という面に関しては問題ない。
だが、勉強ができるという事と賢さは違うのだ。
勉強ができるだけなら文官で事足りるし代わりはいくらでもいる。
この件で今後の彼の身の振り方が決定されるという事を、王子自身は知らない。
城で王の補佐官となるか、王領の一部を収める領主となるか、病気になるか。
「どういうつもりなんだっ」
王子は自分が中心でないことに苛立っている。
あらゆることが自分を中心に世界が回っていた。
もちろん例外はあるが、その例外は国王と王太子と王妃だけ。
その三人が優先されることはそういう教育を受けているのでわかっているが、大人になればそうはいかないのだという実感はまだない。
今、彼は二番目に王位を継ぐ可能性がある人物だ。
しかし将来彼は他の臣下とともに王を支える、いわば格下になる立場の人間だ。
王族とはいえ王よりも王子よりも格下になり、今まで下に見ていた者たちと同じにならなければならない。
それを理解できずにいつまでも王子だったころの特権と身内である王の権威を自分のものと勘違いし、混乱をもたらして破滅の道を進む者も過去にはいた。
「落ち着いてください、クリス王子」
クローディアの冷静な声に王子は小さく舌打ちし、どっかりと椅子に腰を下ろした。
「宰相もフェルナンも、いったいどういうつもりなんだ?もしホノカに何かあったらどうするつもりだ」
この場には執務官もいる。
聖女と口にしなかったのはまだ冷静な部分があるのだろう。
「なぜみんなドット嬢の好き勝手にさせるのだ?いくらホノカが慕っているとはいえ、やりすぎだ。ディアの授業を共に受けるというのですら破格な扱いだというのに……」
怒りはそのままアリスに向けられる。
彼はアリスという異分子を受け入れかねていた。
いきなり目の前に現れ、聖女の信頼を勝ち得、好き勝手に自分たちを振り回す下民の存在。
それがクリスから見たアリスという女だ。
「あなたたち、しばらく外に出ていなさい」
クローディアの言葉に、部屋にいた執務官たちは書類を抱えて出ていった。
隣の部屋は彼らの仕事場になっており、呼ばれるまでそこで仕事をすることになる。
彼らを見送ってからクローディアは王子に向き直った。