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モブでいいよ  作者: ふにねこ
第一章 出会い
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七日に一度は悪巧み 4


「アリス姉さん、最高ですっ!」


 屋台で買った謎の肉でできた串焼きを頬張りながらホノカが涙する。

 美少女が食らいついて貪り食うさまから人々はそっと目をそらす。


「夢にまで見たB級グルメツアー……ああ、素敵すぎる……」


 相変わらず残念な美少女ぶりにすっかり慣れてしまったアリスは笑顔を浮かべた。


「よかったね」

「はい。これもそれもみんなアリス姉さんのおかげです!」


 ほんの少しだけ打ち解けてきたクローディアに、七日に一度は休みを与えてはどうかと提案したのはアリスだ。

 ホノカのいた世界では七日に二回は休みで残りの五日は働くというサイクルなので、一日は自由にさせてくれと交渉した。

 なぜ二日の休暇をもぎ取らなかったのか。

 それはアリスの前世が土曜は半日、全休は週一当たり前の世代だったから。

 ゆとり、なにそれおいしいの?


「さぁ、次行ってみようか~」


 休日を利用して王都の観光に繰り出したが、内容はどちらかといえば屋台の食べ歩きツアーになっている。

 総菜屋を出すにあたってライバル店の味をチェックしているのだが、ホノカには秘密だ。

 B級グルメツアーに満足しているようなので言わなくてもいいだろう。


「それじゃあ次は大聖堂に行こうか」

「大聖堂?」

「王都の中心にある創造神をまつった神殿のこと。神様の中で一番偉い神様」

「ああ、そこには行ったことがあります。ていうか、そこ、最後に祈りをささげるところです」


 さらりと重大な事を言われたアリスは固まった。

 よく考えてみれば、ゲームの詳しい内容を知らない。


「そういえば、前にざっくりと説明を聞いただけで詳しいことを知らない!」

「そういえばそうでしたね」


 ホノカもアリスもけっこういい加減なところはよく似ている。


「最初から説明、いいかな」

「はい!ゲームの流れは聖女が城で勉強して神力をあげて、六ケ所の神殿で祈りをささげて封印を強化します」


 ありがちなストーリーである。


「……ちなみにそれってバッドエンドは?」


 ホノカはちょっと視線をそらす。


「ノーマルのバッドエンドだと封印が破れて魔王の手下にざっくり殺されちゃいます。で、封印に失敗した聖女が死に、王国は魔物によって滅ぼされてしまったってテロップが流れてエンドマークです」

「えっ、乙女ゲームだよね?しかも王国が滅ぶって何それ」


 ありふれたストーリーはどこにいった?

 ノーマルで王国滅亡となると、個別ルートのバッドエンドは聞くのが怖くなる。


「だから聖女をやることに不満はないって言ったじゃないですか。さすがに私も死にたくないので」


 何を当たり前な事を、と言わんばかりの口調にアリスは頭を抱えたくなった。


「……もっと必死になろうよ。参考までに聞くけど、神力はどこまで上がってるの?」

「さぁ……どうなんだろう……」


 冷や汗を流し、挙動不審になったホノカを見てアリスの顔が真っ青になった。


「この時点まで必要な神力にたいして、一、順調。二、平均。三、ちょっと平均に届かない。四、このままだとバッドエンド。さぁどれだ?」

「…………その選択肢だと三かなぁ」


 ハリセンなるものがあったら思い切り後頭部をどついてやりたい。


「ちゃんとこなしているんだけど、ゲームみたいにステータスが伸びなくて。やっぱり現実は厳しいんだなぁ……」

「挽回はできるよね?」

「正直、わかりませんよぉ。ゲームの通りにやっているのに」


 ものすごく不安になってきたアリスだった。

 本当に大丈夫なのかものすごく怪しい。


「……王都滅亡以外のノーマルエンドはないの?」

「誰のルートも入らないで封印に成功すると、宿屋で元気に働いているスチルが出ます」

「そこは聖女として神殿で働くんじゃないの?どうなってんのそのゲーム……」


 いったい聖女の身に何があってそうなったのか。

 意外性があるといえば聞こえはいいが、ウケを狙っているとしか思えない。


「とにかく、攻略対象とそのルートで起きる事件とバッドエンドを教えて」

「いいですけど、書くものありますか?」

「これつかって」


 アリスはポケットから小さな手帳を取り出した。


「あれ、これって日本語!」

「便利だよね、日本語。誰も読めないから手帳を落としても安心だし、人に見られても大丈夫」


 ホノカは楽しそうに日本語を書き込んでいく。

 アリスは書き終えたものを読む。


「最悪なのが使命ルートのバッドエンド。聖女が死ぬパターンが多いです」

「まぁ魔王を相手にするから、使命に失敗したら死ぬのはありがちだよね……」



使命ルートのバッドエンド


 クリストファー第二王子

           婚約騒動→聖女暗殺、暗殺を命じた貴族の娘と結婚。

 フェルナン侯爵令息

           魔王復活を望む秘密結社→聖女暗殺、仕事人間に。

 オルベルト聖騎士

           教会の派閥争い→聖女暗殺、修行の旅へ。

 ジャック魔術師

           魔王復活を望む悪の魔法結社→聖女撲殺、魔王の部下に。



隠れキャラ


 グレイ小隊長

           魔王復活を望む悪の秘密結社→聖女と駆け落ちし、王都が滅びる。

 ランスロット副隊長

           魔王復活を望む悪の秘密結社→聖女とともに暗殺。


「うん、とにかく聖女は殺されちゃうわけね。というかランスロット副隊長以外、男が生き残るってどうよ。しかもなんで魔法使いルートで聖女が撲殺?グレイ小隊長が任務より女を優先って意外だ……」


 突っ込みどころが満載だ。


「聖女の死に方がほとんど同じって、絶対に制作側の手抜きだよね」

「言葉にすると同じだけど、死に方的にはそれぞれ凝ってましたよ」


 アリスは返事に困った。

 こっていようがこっていまいが、どの結末も最悪な事には変わらない。

 しかもその当事者である聖女様といえばのほほんとして危機意識は欠片も感じられない。


「いやマジ、大丈夫なの?」

「とりあえず、恋愛ルートに入らなければ何とかなるかなぁって」

「恋愛ルートに入ってグッドエンドって発想はないわけ?」

「ゲームならありだけど、現実だと遠慮したい」


 ホノカは深くため息をついた。


「そりゃ腐女子とはいえ、男が嫌いなわけじゃないですよ。三次元の男も好きですけど、あれはないよなぁ……」

「あれ?」

「身分はそうだけど、世界観が違いすぎて恋愛対象にならないっていうか……むしろアリス姉さんとこの従業員さんのほうがまだ恋愛対象かな」


 根っからの庶民派である。

 気持ちはわからなくもないので、アリスは頷いておいた。

 結婚するなら生活ランクがいいに越したことはないが、中の上くらいが理想的だ。

 それ以上となると余計な義務と責任と社会的なお付き合いがおまけでついてくる。


「……世の中には玉の輿って言葉があってね」

「アリス姉さんが乗ればいいじゃない。アリス姉さんならきっとクローディアを蹴落として王妃にだってなれそう」

「だーっ、それアウト!不敬罪で牢屋にぶち込まれるからやーめーてーっ。国のかじ取りとか領地経営なんて面倒なモン、背負いたくない」

「ええ~、アリス姉さんならいけると思うのにな」

「モブでいいよ、モブで。波乱万丈な人生はごめんだって」

「前世の記憶を持っているって時点でもう破天荒な人生だと思う……」


 誰がどう見ても、現在進行形で波乱万丈だ。

 絶対にモブじゃないとホノカは思うのだが、アリスのようなキャラクターはゲームの中にはいなかった。

 モブ以前の問題である。


「案外、第二弾が発売されてそれの主人公だったりしてね……」


 世にも恐ろしいことをホノカがぼそりと呟き、アリスの頭の中が真っ白になった。


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