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モブでいいよ  作者: ふにねこ
第一章 出会い
27/202

四日目も忙しい 4

誤字脱字の訂正をしました。


 ホノカが授業を受けている部屋に入ると、涙目なホノカが席を立ってこちらに走ってきた。


「アリス姉さーんっ!」


 あいかわらず(ねえ)さんが(あね)さんに聞こえる。

 そのうち商売人からジョブチェンジされそうだ。

 体ごとぶつけてくるように抱擁されたアリスの体がちょっとよろけたが、隣にいたグレイがさりげなく腰のあたりに手を当てて支えてくれた。


「どなた様ですか?」


 ホノカがグレイに気が付き、アリスに抱き着いたまま睨み上げた。

 聖女に直接あうのが初めてのグレイは戸惑いを隠せない。

 いきなり美少女に睨まれたら誰だって戸惑うだろう。


「ホノカちゃん、お行儀が悪いよ」

「貴族モードはもういいよ~。肩がこるし面倒だし意味わかんないっ!」


 気持ちはわかるが敬意を払う事だけは忘れてほしくない。

 そして聖女の立場からすれば貴族の所作は必要があるのだ。


「ホノカちゃん、意味はあるからね」

「どんな意味ですか?」

「あれよほら、様式美ってやつ」


 ホノカが不満な顔をしながらアリスから手を離すと、スカートのすそをつまんで淑女のお辞儀をしてみせた。


「初めまして。ホノカ・サイジョウです」

「黒曜騎士団第二小隊、グレイ・グルマルディ小隊長です」


 グレイも騎士らしく胸に手を当てて頭を下げた。

 流れるような仕草はとても綺麗で見惚れてしまう。

 ぽかんとしたようにホノカはグレイを見上げていた。


「とりあえず覚えていて損はないし、知っていれば恥をかかずに済むでしょ」

「恥って言われても異文化だし、笑われても別になんとも思わないし」


 すがすがしいまでの笑みを浮かべたホノカにアリスは呆れる。


「少しは思いましょうよ。郷に入っては郷に従えというでしょう。それにね、美は強さでもあるんだよ」

「強さ?」

「武道における隙のない動きってのは舞みたいに綺麗でしょう?」


 ああ、と小さくつぶやいてホノカが頷いた。

 さっき見たグレイのあいさつがまさにそれだ。

 ただ挨拶されたのに、その洗練された動きと美しさに圧倒された。


「強さを見せつけることで、相手より上に立つの」

「おお~なるほど~」


 感心するホノカだが、会話の中身は優雅さとは程遠いものになっている。


「完璧な振る舞いを見せつければ、相手は攻撃できずに陰口を叩くだけのくずな存在になるわけよ」

「立ち振る舞いにはそんな意味があったなんてっ!かっこいい……」


 ホノカの後ろの方で、クローディアが打つ手なしといったようにため息をつき、侍女が慰めている姿があった。


「なるほど……。立ち振る舞いにはそういう意味合いもあったのだな」


 なぜか隣でグレイが感心している。


「納得したのならホノカ、続きをいたしますわよ」

「はーい!」

「返事は短く」

「はいっ!」

「敬礼はいりませんわ」


 とりあえず、クローディアもホノカの扱い方がわかってきたようだ。

 開き直ったともいえるが。

 最初に比べればだいぶ態度が軟化し、肩の力が抜けたように見える。

 ホノカだって馬鹿じゃないので、クローディアの話に耳を傾けるようになった。

 お泊り会が功を奏したと思えてアリスは嬉しくなった。


「護衛、ご苦労。下がっていいわ」


 クローディアの言葉に、空気だったグレイ隊長は一礼し、役目は終わったといわんばかりに去っていく。

 グレイ小隊長が戻っていくのを見送ったアリスはホノカとクローディアのところに戻った。

 フェルナンの筋書き通りにアリスを送る口実に護衛対象となる聖女との顔合わせは無事に終わった。


「ねぇ、今の人、誰?」


 好奇心丸出しのホノカにアリスは呆れる。


「ホノカちゃんの護衛をする騎士達の小隊長。護衛関連でたくさん名前を憶えなきゃいけないから大変よ。そのうちフェルナン様と答え合わせしないと、さすがに頭の中がパニック」

「すっごいかっこよかったね」

「……なんでそんなにニマニマしているの?」

「だってぇ~」


 ホノカはにやりと笑った。


「かっこいい人じゃないですか。アリス姉さんとお似合いですよ」

「まじめにやろうか」

「クローディアさん、グレイ隊長ってどんな人?」


 いつだってどんな時だって恋バナは優先されるのだ。

 アリスそっちのけでホノカはうきうきしながらクローディアに向き直る。


「そうですね、確か26歳独身で、将来は侯爵家を継ぐ予定です。氷の貴公子と呼ばれて今、お嫁に行きたい人ナンバー3に入る方ですね」


 クローディア、お前もか。

 いつも冷静沈着なご令嬢の目がきらぁんと輝くのを見たアリスは遠い目をした。


「てことは他にも二人、もてもて男子がいるんですねっ、誰ですか?」

「あなたもご存知よ。クリス王子とフェルナン様」

「ああ、見てくれはいいですもんね」


 とたんに興味が失せたホノカ。


「ホノカならどの方とも結婚できますわよ。アリスは……できなくもないけれど、少々面倒ね」

「私は数に含めなくていいからね。仕事が面白くて結婚なんてしていられないんだから」

「あら、そんな事を言っている方に限っていつの間にか結婚が決まって何も言わずに招待状をよこすのですわよ」


 具体的過ぎて突っ込みたくない。


「まぁ、こういうのはご縁ですからねぇ」


 とぼけてみせるが、なぜかクローディアは好奇心いっぱいの眼差しをアリスによこす。


「ドット商会の一人娘なら、引く手あまたでしょうに……。婿をとるにしても、貴女のほうが選ぶ立場ではなくて?」

「うちは代々恋愛結婚推奨派なんです」

「あら、そうですの」


 たいていの貴族は政略結婚だ。

 ロマンス小説にあこがれているのか、クローディアの目がキラキラと好奇心に輝きを放っている。


「ご両親はどういう出会いでお付き合いなされたのです?」

「痴漢だと思った母が叩きのめしたら誤解だったんだけど、父はその時、母の腕っぷしに惚れたそうです。でも母は軟弱な男は嫌いなので何度も振ったうえ、どんなに叩きのめしても必ず姿を現すという父に恐怖し、最後はほだされて結婚したそうです」


 ホノカとクローディアの表情は、聞くんじゃなかったと言わんばかりだ。


「……続き、はじめよっか、クローディア」

「そうですわね」


 途端に興味を失った二人にアリスは苦笑いを浮かべる。

 嘘のようだが、本当の話なのは近隣でも有名な話だ。

 再開された授業に耳を傾けながら、今更ながらに自分の結婚願望があまりないのは二人のなれそめを聞いてしまったせいじゃないかと思った。



アリス・ドット 主人公

西城穂香    召喚されし聖女

クリストファー第二王子 通称クリス

フェルナン・アストゥル 通称フェル 宰相の部下

オルベルト・カルティオ 通称オル 教会の聖騎士団所属

ジャック・マルグリート 通称ジャック 血塗れの魔術師

グレイ・グルマルディ  通称グレイ 黒曜騎士団第二小隊長

ランスロット・コンソーラ 通称ランス 黒曜騎士団第二小隊副隊長

クローディア・ランベール 公爵令嬢 第一王子の婚約者

リリィ   聖女付き侍女

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