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モブでいいよ  作者: ふにねこ
第一章 出会い
23/202

三日目ともなると 4


 ホノカが城に来てからされたいやがらせについて、話し合いが行われた。

 といっても、はたから見れば罪人ホノカの事情聴取といった様子だったが。

 ジャックとアリスが脅すように、オルベルトと意外にもクリス殿下が優しく、淡々と事実確認をするクローディア、フェルナンは各自のバランスを取りながら話を進めるといった見事な連係プレーだった。

 洗いざらい白状させられたホノカは真っ白に燃え尽き、リリィによって慰められている。


「意外と多かったな」


 クリス王子がホノカに嫌がらせをした人物のリストを見ながら感想を述べた。

 侍女だけではなく衛兵の名前も挙がっている。


「何を他人事のようにおっしゃっているのです?危機感がなさすぎですわ」

「ホノカちゃんに嫌がらせをした女の人たちは、あわよくばクリス王子と結婚しようと狙っている人たちだってことをお忘れなく」


 呆れるクローディアとアリスに言われた途端に顔を真っ青にさせて食い入るように名簿を見た。

 もちろん他人事のジャックとオルベルトは気の毒そうに王子を見ている。


「あとは係累が王子の婚約者候補に入っている関係者じゃないかな」


 フェルナンは横からリストを見ていたが、視線を外すとため息をついた。


「まさかクリスの婚約者候補と思われていたとは……そこは考えていなかったな」

「フェルナン様だけではありませんわ。おそらく宰相殿もそうでしょう」


 ホノカの素性と役割を隠すことが第一だったこともある。

 聖女というインパクトが強すぎて、王子の結婚相手に、とまで考えがいたらなかったのだ。

 宰相辺りは聖女の役割が終わったらそれもありだろうとは考えていただろうが、現時点で外野がホノカのことをそう思うとは予想外だろう。


「これ、放っておくとまずくないですか?思い余って毒殺なんてしゃれになりませんよ」


 アリスの発言にホノカがびくっと肩を震わせた。


「……今までの毒殺騒ぎも、案外それが発端だったりしてな」


 ジャックのつぶやきに全員が何とも言えない面持ちになった。

 そんなことがあったのかとホノカは真っ青になる。


「ななな何度もあったってこと?」

「ん?ああ、気にすんな。ここでは日常的によくある話だ」


 淡々と話すジャックが怖い。

 ホノカは思わずアリスの腕をぎゅっと抱えこんだ。


「こらこら、庶民の日常にそんなのないですからっ、もっと言葉は選んでください」


 アリスの突っ込みにジャックは今気が付いたと言わんばかりの顔をする。


「そうだったな。だが安心しろ。王族や大臣たちに比べたら頻度は少ない」

「我が国の上層部ってどうなってんのっ!まったく安心できないからっ」


 アリスが叫ぶのももっともだ。


「いっそフェルの婚約者にしてしまうか?」

「冗談ですよね、殿下。貴方ほどではないにしても、私も嫁ぎ先候補の筆頭ですよ」


 次期侯爵ともなれば独身女性のターゲットで、身分的に王子より下な分だけに手が届きやすい物件である。


「じゃぁ、ジャックとかオル?」

「人に押し付けるのはやめてくれ。僕やオルの身分じゃ言い訳にならない」


 二人とも庶民の女性と結婚しても問題のない身分だ。

 婚約者を城で教育するというには無理がある。


「一番いいのは、王太子の愛人候補ですね」


 アリスの爆弾発言にクローディアが固まった。


「お前……他人事だと思ってすごい事を言うな」


 ジャックが全員の思いを代表して口にする。


「もうそれしかないですよ。取り巻きの方々も、愛人をクローディア様自ら指南しているとなれば、余計な事を言わないのでは?クローディア様が認めているなら毒殺なんて物騒なこともなくなるのではないでしょうか」


 王太子、とんだとばっちりである。


「外聞が思い切り悪いですよね、それ」


 オルベルトがクローディアの顔色をうかがいながらおそるおそる意見を述べた。


「聖女が仕事を終えるまでの短い期間じゃないですか。泥をかぶって聖女を守った王太子とその健気な婚約者として、立派な美談となって後世まで語り継がれることでしょう」


 爽やかな笑顔を浮かべて物語風に締めたアリス。


「それも一つの案として考えておくよ。さすがにそれはここで決めるわけにいかないからね」


 うっかり頷いてしまいそうなクローディアを見て慌ててフェルナンが口をはさんだ。

 結婚もしていないのに愛人を持つのは外聞も悪い。


「じゃあ王様の愛人だった女性が死んでしまい、路頭に迷っていた娘を哀れに思い、引き取ったとか」

「それは王家に余計な争いを完全に持ち込むことになるよね?」


 フェルナンの口元がひきつる。


「男の子じゃないから、王位継承にはからまないじゃないですか。聖女の仕事を終えるまで待てば、泥をかぶって聖女を守った賢王と賢妃として後世まで語り継がれることでしょう」

「さっきとかわらねーじゃん」


 思わずジャックが突っ込んだ。


「ダメですかね?」

「しかも騒ぎがもっと大きくなる可能性があるよね、それ」

「面倒ごとが増える」


 オルベルトの指摘に王子が深く頷いた。


「降ってわいたいらない王女を嫁にもらって王家に恩を売ろうとする貴族がわんさか湧いて出るでしょうけど、毒殺や暗殺の可能性は減るのでは?」

「貞操の危険が増えるな」


 手段を選ばない馬鹿な貴族が実力行使に出ないとは限らない。

 冷静なジャックの突っ込みにアリスはうう~んとうなって考える。


「友好国のお姫様を事情があって預かっているとか?」

「もういいから黙ろうか」


 面倒くさくなったのか、フェルナンが笑顔でアリスの妄想を止めた。


「それはこちらの手落ちだからね、こちらでどうにかさせてもらうよ」


 リストの名を連ねた人たちの今後に合掌だ。


「よかったね、ホノカちゃん。フェル様が請け負ってくれたんだから、これから城でいやがらせされたらちゃんと言うんだよ」


 こくりと頷くホノカはどこかほっとしたようだった。


「それにしてもアリスは男前だな」


 心底感心したクリス殿下がほめたたえた。


「そうですわね。男性だったら、きっとフェルナン様より女性に人気になっていましたわ」

「そうなんですっ、アリス姉さんはかっこいいですっ!」


 あまり嬉しくない誉め言葉だが、この手の誉め言葉には慣れていた。

 伊達に幼いころ、ガキ大将として君臨していたわけじゃない。

 ほんのちょっぴりむなしくなったアリスだった。


誤字脱字の訂正をしました。

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