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モブでいいよ  作者: ふにねこ
第三章 封印巡り
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こんなこともあろうかと

 モノクルの男はルークの横に立つと、まだ息があることにちょっと驚いたような顔をした。


「意外としぶといのですね」


 そう呟くと今度はアリスの横に立つ。


「こちらもまだ息がある……」


 不思議そうに首をかしげた。


「最近の人間は頑丈になったのでしょうか?いや、前に殺した人間はすぐに死んだから、この者達が特殊な個体なのでしょうか?」


 呟きながらモノクルの男は足でアリスの体をひっくり返そうと腹の下に足を入れようとした。

 その足をアリスがつかみ、引っ張るようにしながら体を起こしてすかさず足払いをかける。

 しかしモノクルの男は軽くその場をジャンプすることでそれを避けた。

 その間に立ち上がったアリスは勢いよく回転をつけながら水平に腕を振り回す。

 いつの間にか握られていた漫画本くらいの大きさの金属板が男のこめかみを殴打する。

 着地する前だった男は不意打ちを食らって受け止めることができず、体ごと後ろに吹っ飛んだ。


「アリス!」

 

 ルークは床に刺さった剣を抜いて放り投げる。

 うつ伏せに倒れた男がアリスを迎え撃つために立ち上がろうとしたその時、足元に何かがぶつかり、男は再び床に這いつくばる。

 空中で剣を受け取ったアリスはその勢いで男の背に剣を突き立て、床に縫い付けた。


「ぐっ……」


 初めて男の口から苦痛の声が漏れる。

 アリスは入り口の人影を確認してから男から離れた。

 もっと早く手を出せばいいと思う反面、さっきの一撃こそナイスタイミングだったとも思える。

 そういえば攻略者の一人だったと今更ながらに思い出した。

 優秀な裏方だからこそ地味で目立たず、ここぞという場面で誰もが認める功績を上げることができるのだ。


 ちょっと面白くないアリスはわざわざ頭の方にまわって男の後頭部を思い切り踏みつける。

 八つ当たりが含まれた行為だが、相手は人じゃないので罪悪感も何もない。

 剣が肺を貫いているのに、男は血の一滴も流していない。


「ジャックが魔法を付与した特殊な剣よ。さすがのお前でも動けないでしょ」

「な……ぜ……」


 体に力が入らないのか、男は声を絞り出すようにアリスに問いかけた。


「氷の槍が、ささったはず……」

「ふふふ。こんなこともあろうかと、仕込んでおいたのよ」


 ババーン、と特殊効果音が付きそうなドヤ顔でアリスは手に持っていたものを男が見える位置にかざす。

 訝し気にそれを見ていた男の目が大きく見開かれた。


「まさか、それは……幻の鉱石?」

「さすが魔王の眷属。知っていたのね」


 アリスはにんまりと心の底から嬉しそうに笑った。


「そうよ、これは世界一の強度をもつ幻の鉱石カクラザニア」


 お土産でもらった逸品だが、こんなところで役に立つとは送った側も想像していないだろう。

 防御のために腹に仕込んでおいたのが幸いしたのだが、その発想は不良が主人公の昭和の漫画だ。

 それにしても、とアリスは思った。

 世界一の強度どころか宇宙一の強度を誇るこの鉱石にどうやって鍛冶師は傷をつけられたのだろうか。

 謎であるが、今は後回しだ。

 モノクルの男は愕然とした顔でアリスを見上げている。


「っ、意識が、なかった……」

「そうよ。あくまでも攻撃が通らないだけで衝撃は伝わるもの。転がって威力を逃がしたけれど、転がりすぎて意識が遠のくくらいに気持ち悪くなったわ」


 意識はあったが、チャンスをうかがうために倒れたままでいたのだ。

 気持ち悪くなりすぎて血圧が下がり、動けなくなったわけではない。


「こんなこともあろうかと!ウフフフフ」


 躁状態のアリスだが、男の頭を踏みつけての言動は悪役にしか見えない。


「さぁホノカちゃん、封印してしまいなさいっ!」


 声高らかにアリスが命令すると、クリス王子の腕の中であっけにとられていたホノカははっと我に返った。


「はいっ!」


 ルークがよたよたとアリスの元へやってきた。


「ケガは?」

「本の形に青あざができるわね」

「そりゃよかったな……」


 ルークはボロボロになった上着を脱いでアリスに渡す。


「ありがとう」


 それを受け取り、腹のところで破れた場所を隠すように腰に巻いた。

 ちらっと入り口の方を見てからゆっくりと体を起こしているグレイ小隊長の方に目をやる。


「美味しいところをもっていかれたわ」


 不満そうな声にルークが首をかしげる。

 どう見ても活躍したのはアリスだ。


「……ランスロット副隊長よ。入り口の影に潜んでいるわ」


 ルークはちらっとそちらへ目をやってからアリスに戻す。


「あの男が立ち上がろうとした一瞬を狙ったのよ。おかげですんなり標本にできたけどね」


 魔法による足への狙撃だ。

 助けてもらって感謝はしているが、負けた気分だ。


「ピンチの時のお助けキャラで、こんなこともあろうかとってセリフにあこがれていたんだけど、絶体絶命のピンチに一度だけチャンスを作り出すっていうのも憧れるわね。職人って感じで」


 ぶつぶつと脇役の重要性おいしいとこどりについて語り始めたアリスに呆れるルーク。


「……なんだかんだで目立つ場所にいるお前には一生無理だろう」


 影で手助けと言いながら、結局は表舞台で暴れるアリスには最初から最後まで姿を見せずに手助けするなんて孤独な作業が想像できない。


「あーゆーのはさ、ジョンの役目だろ」

「わかっているわよ。だからやってみたかったんじゃないの」


 アリスの目が魔法陣のジョンに向けられた。

 ホノカが祈ってはいるものの、変化はない。


「アリスねぇさ~んっ!」


 とうとうホノカの泣きが入った。


「ご指名だぜ」

「はいはい。見張り、よろしく」

「おう」




カクラザニアは正しくは核ラザニア。

構造がパスタに似ている、理論上は宇宙で最も硬い物質、その名も核パスタ。

形によっては核ニョッキとか核ワッフルと名前が付いているけど、詳しくはウェブでねっ!

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