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モブでいいよ  作者: ふにねこ
第三章 封印巡り
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負けられない戦い 3

 ルークを中心に攻撃し、アリスは撹乱と遊撃、ジャックは支援と相手の放つ魔法の相殺。

 魔法の使えないルークとアリスにしてみれば、魔法の攻撃を考えないで済むのは楽だったが、それでもモノクルの男の攻撃能力は異常だ。


「あの杖、実はアダマンタイトでできているって言われてもだよね~って返事ができる自信があるわ」

「そもそも剣で折れねぇって時点でおかしいよな」


 息を整えながらくだらない会話で恐怖心を忘れようとする。


「単純に、強化魔法ですが?」


 なぜかモノクルの男も会話に加わってきた。


「じゃあ先端の宝石は?」

「綺麗でしょう。ピンクダイヤといって、光の反射で淡いピンクに輝くところが自慢の一品です」

「普通のピンクダイヤモンドはもともと淡いピンク色だからその名前が付いたんだけど」

「極まれに、石の中で乱反射を起こしてより美しく濃い色を放つ石があるのですよ」


 魔石ではなく、ただの宝石らしい。

 ジャックの支援魔法のおかげで身体強化と体力回復能力が上がっているとはいえ、疲れが溜まらないわけではない。

 どんな強敵でさえ打ち破ってきたアリスとルークの連携ですら、モノクルの男にはあまり効いていない。


「人間にしては、なかなかやりますね。魔王が目覚めるまで、いい暇つぶしになります」


 強者の余裕だ。

 並の人間ならば精神面がぽっきり折られているだろう。

 不倒不屈の鋼の精神の持ち主であるアリスですら折れそうになる。

 折れないのは、最初から勝てないとわかっているからだ。

 勝てない相手に勝てないのは当然なので、悔しさはあるが心が折れることはない。

 ただ、ここまで弱者としてあしらわれるとは思っていなかった。


「それで、魔王サマはいつお目覚めになるのかしら?」

「さぁ。魔王様の魂が力に染まればすぐにでも」


 モノクルの男の目がホノカに向けられ、すぐにジョンの方に戻された。


「聖女が邪魔をしているので、もう少々、時間がかかりそうですね」

「彼女を殺さないの?」

「魔王の楽しみを私が奪うわけにはまいりませんので」


 聖女の力をもってしても、ジョンが魔王として目覚めるというのはモノクルの男の中では決定事項らしい。


(魂が、力に染まるってどういう意味なのかしら)


 わかっているのは、まだ時間はあるという事。

 モノクルの男の中では聖女は魔王が殺す獲物だという事。


(魔王が目覚めるまで、聖女の命は保証されているってことね)


 それだけは唯一、安心できることだった。

 一番恐れていたことは、戦闘中にモノクルの男が聖女を殺しにかかることだ。

 本気でそれを実行されたら、クリス王子とフェル、そしてアリスは確実に死ぬだろう。

 彼が遊んでいる間に、ホノカには封印を成功させてもらいたいところだ。


 ネコがネズミをいたぶるように、ネズミの生きがよければネコはそれだけネズミに夢中になるはずだ。

 アリスができることは、いかにいたぶりがいのあるネズミを演出するという一点。


 入り口の人影に気が付いたのは、アリスの方が早かった。


「ジャック!グレイを!」


 アリスが声を上げるのと、モノクルの男が魔法を発動するのとどちらが早かったのだろうか。

 ダンスの要領でアリスはルークとの立ち位置を入れ替わる。

 ジャックは入り口に姿を見せたグレイに魔法障壁を展開する。

 目を見開いて驚くルークの顔がなんだかおかしくてアリスは口角を上げた。


 腹に今まで受けたこともない衝撃を受ける。


(直撃か……)


 後悔はないが、残念だとは思う。

 腹に目をやると、氷の槍が見えた。

 勢いを殺すこともできずに叩きつけられた床の上をゴロゴロと転がった。

 転がりすぎて気持ちが悪い。

 ほつれた髪が顔にかかり、その隙間から泣きそうな顔でこちらを見ているホノカが見えた。


(心配かけて、ゴメンね……)


 血の気が引いていくのが自分でもわかる。

 血圧が下がり、体が冷えていく。

 指の一本も動かす気力すら湧かないまま、ただ瞼だけはゆっくりと閉じることができた。






「アリスっ!」


 場所を入れ替わった瞬間、アリスの体が吹っ飛んだ。

 一瞬の事でルークは動けずにいた。

 狙われていたのはルークだったのだ。


「テメェ、何してくれたっ!」

「貴方を殺そうとしたのですが?」


 なぜルークが怒っているのかさっぱりわからないといった顔でモノクルの男は律儀に答える。


「死ねよ」


 一瞬で間合いを詰めたルークは剣を横にはらう。

 モノクルの男は杖でそれを受け止めたが、勢いまではとめられずに体ごと後ろに下がった。

 そこへ後ろから鋭い一閃が弧を描くが、モノクルの男は器用にも体をねじってそれを避けた。


「待たせたな」


 グレイが声をかけるとルークは眉をひそめた。


「おせーよ」


 中央には魔法陣に横たえられたジョンと、魔法陣のすぐ横に転がってぴくりとも動かないアリスの姿がある。

 アリスの実力を知っているグレイは内心で舌打ちをした。

 本気でやって勝てるかどうか。

 しかし目の前の怪しげな男の向こう側にいるルークからは悲愴さを感じられない。


「あんたはアリスが認めた強者だろ。だったら俺の足を引っ張んじゃねぇぞ」


 止まることは許されない。

 何があっても、聖女が封印を成功するまでは倒れてはならない。

 戦いが始まる前にそれだけはアリスに約束させられた。


 敗北も撤退もないのだと彼女は言った。

 ルークと聖女を信頼しているからこその言葉だ。

 逃げ出すような、負けるような戦いは初めからやらないアリスが参戦したということは、そういう事なのだ。


 身を挺してまでルークを助けた理由。

 ルークがモノクルの男に勝てると踏んでいるからだ。

 寄せられていた信頼の大きさに体が震え、心がたぎる。


「第二ラウンドと行こうじゃねぇか」


 前後からモノクルの男をはさみ、攻撃を重ねる。

 グレイとルークの剣技にさしものモノクルの男も動きが鈍くなる。

 剣と杖がぶつかりあい、時折魔法が弾ける展開が続いた。








 フェルは震えそうになる体に力を入れ、強く剣を握る。

 ホノカは真っ青な顔で震えている。

 クリス王子はホノカを胸に抱きよせたまま、非情なる現実に打ちのめされていた。




 モノクルの男は辛うじて立っているルークを蹴り上げた。

 彼の体が空中へと弧を描き、嫌な音をたててアリスの近くに落ちた。

 宙で離れた剣はルークのすぐそばの床に刺さる。

 モノクルの男は足元に転がっているグレイとジャックには見向きもせず、うめき声をあげているルークの元へとゆっくりと歩き出した。




戦闘シーンは無駄に長くなりそうなのでカットしました。

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