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モブでいいよ  作者: ふにねこ
第三章 封印巡り
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負けられない戦い 1

「ホノカちゃん、封印」

「は、はいいぃぃっ!」


 イエス、マムと言いたくなるようなアリスの口調に返事をし、膝をついて祈るように手を組んだ。

 今まで通りに祈ればいい。

 目を閉じ、平和な光景を思い浮かべながらこの世界が穏やかでいられるように願う。

 何かが爆発する音、金属音、鈍い音。

 耳から入ってくる情報に、描くものがアニメの戦闘シーンに変わる。


「集中っ、集中っ」


 お経のように唱えている時点でもう集中ができていない。

 クリス王子とフェルは祈るホノカを守るように一歩前に出ている。

 その背中を見ながらアリスはホノカの横に膝をついて小声で話しかけた。


「眠れるジョンを救おうと戦うルーク。それを阻む、ジョンを欲する謎の男」


 ぴくんとホノカの肩が揺れた。


「ルークを守るため、謎の男の味方に付いた裏切り者のオルと戦うジャック」


 ホノカの口の端っこが引くついた。


「一人の男を巡って命がけで戦う男たち……」


 事実だし間違った事は言っていない。

 ただ、ほんのちょっと言葉を端折ってはいるけれど、ホノカの妄想を刺激するのは十分すぎて。


「ホノカちゃんの役割はね、ルークとジョンが再び日常を取り戻すためのお手伝いをするために、魔王を封印するの」


 ぐっ、とホノカの手に力が入ったように見えた。

 ルークとジョンのキャッキャウフフな日常のために。

 邪な願いが純粋な祈りへと変わる。

 戦いの雑音は、妄想の糧だ。

 世界の救済、人々の幸せ、そんなグローバルな視点など一般市民がもてるはずもない。

 目の前の現実が全てなのだ。






 オルベルトがジャックの前に膝を折り、床に倒れるのが見えた。

 ホノカが妄想の世界に入り込み、祈りに集中できたことを確認したアリスは立ち上がり、クリス王子に声をかけた。


「グレイ小隊長はこの場所を知っているの?」

「ああ」

「いくらなんでも遅くないかしら?」

「足止めを食らっているのかもしれん。ランスロット副小隊長が一緒だから大丈夫だとは思うが、最悪、我らだけでアレを止めることを考えないと」


 ルークはまだ勇者ではない。

 それはまだ勇者としての、魔王を滅する強さを有していないということだ。


「ジャックが参戦したわ。時間稼ぎにはなるといいけど」


 オルベルトも聖騎士団ではトップの男だ。

 その実力は知らなかったが、少なからずジャックも手負いだ。


「ジャックはサポートに専念するみたいだね」


 フェルの指摘通り、ジャックは少し離れた位置から魔法を打ち込んだり、ルークに向けられた魔法を相殺したりと後方から援護に徹している。


「それじゃあ、私も参戦してくるわ」

「「は?」」


 クリス王子とフェルの声が重なった。

 こんな時だけれど、思わずアリスは笑ってしまう。

 笑える余裕があるのならば大丈夫という気持ちが溢れ、それは自信につながる。


「連携ならジャックより私の方が適任だから」

「いやまて、それは……」


 ルークの参戦を許可したのは事前にグレイ小隊長と戦ったうえでだ。

 その実力はグレイ小隊長のお墨付き。


「いっとくけど、私はルークとガチでできるわよ」


 そう言い残すと、アリスはあっけにとられている男二人の間を通ってルークの方に歩き出した。


「待てっ」


 クリスが止めようとして腕を伸ばしたが、つかんだと思った手は空を切る。

 肩越しにアリスが振り返り、口角を上げた。

 ただそれだけで、クリス王子の本能が警鐘をならし、背筋がぞくりとした。

 殺気や威圧などというものではない。

 得体の知れないモノに出会った時のような感覚だ。


「…………フェル」

「なんでしょうか?」

「お前、あの女のどこがよかったんだ?」


 思わずそう聞いてしまったが、後悔はない。

 むしろ疑問でいっぱいだ。


「それを薬草にするか毒草にするかは、手にした者しだいですよ、王子」


 フェルの回答に、子ども扱いされたような気がして憮然とするクリスだった。






「こんにちは」


 戦いに身を投じている者達はアリスをちらっと見ると何事もなかったように相手に集中する。


「私はジョンの体も大切だけど、心も大切なの。だから、あなたとは敵対させていただきます」


 宣戦布告したあと、アリスはその場を蹴って一気に男との距離を縮める。

 それに気が付いたルークが視界を防ぐように男の前に立ちはだかり、すぐに左に避ける。

 アリスはルークの右肩に手をかけるとそれを軸に男に蹴りを入れる。

 男は両手をクロスさせてそれを正面から受け止めた。

 アリスの手がルークの肩から離れると、ルークは腹を狙って剣を真横に振る。

 男は後ろに飛び下がることによってそれをさけ、アリスは空中で一回転してから着地した。


「この初撃をかわした奴は初めてだな」


 蹴りを受け止めてよろけもしない男を見ながらどこか呆れたような口調でルークが呟いた。


「ミノタウルスの三倍のパワーで、魔鼠の五倍の反射速度、知能は人並みってとこかしらね」

「勝てるか?」


 ルークの問いにアリスは首を振った。


「そっか」


 基本、アリスは勝てない喧嘩に参加しない主義だ。

 ルークもそれはわかっている。

 そんなアリスが参加する意味を。


「グレイ小隊長が来るまで、踏ん張るわよ」


 ジャックにも聞こえるようにアリスは言い放った。

 勇者と剣聖、それに魔法使いが加われば勝てる見込みはある。

 しかしここにいるのはグレイではなくアリスだ。

 現時点では、勝てる見込みはないが負ける見込みもない。

 だからアリスは参戦する。


「おうよ」


 短く答えながらいたずらっ子の様に笑うルーク。


「サポートはしてやる」


 ジャックもまた呆れたように笑みを浮かべた。

 モノクルの男だけが静かに強者故の余裕の笑みを浮かべていた。




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