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モブでいいよ  作者: ふにねこ
第二章 修行
105/202

尻尾 2

「魔王?糸目のくせに?」

「魔王?俺より弱いくせに?」


 アリスとルークが思わず声を上げた。


「二人とも、表に出るか?」


 静かに問いかけるジョン。


「魔王と言ったら長髪美形と決まっているじゃないっ!」


 アリスはいったい何の影響を受けているのだろうか?


「何言ってんだよ、おっさん顔で筋骨隆々だろ!お前、俺より細いじゃん」


 ルークはどんなマッスル体形を想像しているのだろうか?


「見た目なんて知ったこっちゃねーよっ!」


 ここでジョンがキレてもしかたないだろう。

 怖がられるかもしれない、教会に告発されるかもしれないと戦々恐々としながらの一世一代の告白だったのに違う意味で否定された。


「俺だって好きで魔王なわけじゃないっ」


 感情のままに怒鳴るジョンをよそにアリスとルークは肩を寄せ合った。


「ジョンが魔王って、柄じゃねぇよな……ん?だから根暗なのか?」


 ルークの中の魔王像が気になるところだ。


「能力は封印されているってことはさ、力を取り戻すと見た目も変わるのかしら?マッチョになるのかな。それとも髪が伸びて美形になるのかしら」

「なんで美形にこだわるんだよ……大事なところはそこじゃないだろ」

「そうなんだけど、魔王といえば細マッチョの髪の長い美形で角があったりなかったりってのが私のイメージなんだけど」


 アリスの中の魔王像は前世のゲームやアニメだ。


「俺は絵本に出てくる王様を悪くした感じ?」

「どちらにしてもジョンの容姿から魔王って想像しにくいのよ。むしろグレイ小隊長のほうが魔王っぽいわ」

「俺的にはロッシのおっさんとかアーロンさんかな」

「フハハハハとか高笑いしちゃうのかな」

「ジョンのイメージじゃねぇなぁ。つかジョン魔王って響きが悪くないか?」

「ジョルダンとかジョルジュだったらいいの?」

「いやぁ、なんつーかジョンだと高貴そうな響きじゃないじゃん」


 わなわなとジョンの拳が震えている事に気づかずに二人は話している。

 もちろん彼らなりの現実逃避だという事くらいジョンもわかっている。

 いきなり魔王と言われたら自分だって同じように冗談にしたくてとぼけたことを口にするだろう。

 しかし、限度というものがある。


「そろそろ現実、見てもらおうか」


 ジョンの本気で怒った声が静かに響き、二人はぴたりと黙って気を付けの姿勢を取った。


「どういうことか、最初から説明して」


 長い話になりそうなので、三人はテーブルを囲んで座った。




 魔王は死んで生まれた子供に宿る。

 魂のない抜け殻の体に入り、己のモノにする。


「まぁなんだ、はっきりとした記憶があるのは新しい体になじんだころだから……二歳くらいか」


 ジョンの言葉に二人は神妙な面持ちで耳を傾けた。


「魔王の記憶はあるが体は人のままだから、大人からみりゃ妙に知恵の回る小賢しい薄気味悪いガキってのが俺の評価だ」


 体は二歳児なのでうまくしゃべれないし走れない。

 でも話す内容は大人そのものなので、周りからは気味悪がられた。


「魔王だって自覚はあるけどよ、魔力も特別な力も封印されて俺にはないわけだから実感がない。うまく言えないが、記憶があるだけで肉体的には普通の奴と変わらないんだ」


 話を聞きながら、アリスは何となくジョンの気持ちが分かった。

 自分には前世の記憶があるが、特別な力はない。

 知識だけはあるので大人顔負けな事をよく口にしていたが、娘ラブな父親のおかげで疎まれずにすんだ。


(……似ているのかもしれない)


 前世の記憶に翻弄されて思うがままに暴れていた幼少期。

 この世界ではありえない高等教育を受けていたからこその疑問や知識を口にするたびに奇異な目で見られ、覚えのない記憶に何が現実なのか危うくなったこともある。

 全てを隠し、普通の子供としてふるまう苦痛。

 アリスとジョンの視線が絡まった。


「魔王の記憶を俺は持て余していた。国一つ滅ぼせる力があるのに、現実の俺はただの小さな子供で、そのギャップに俺自身もどうしていいのか戸惑っていた。孤児院の奴らがいなけりゃ俺は今ごろ殺人鬼だし、お前に会っていなけりゃ悪党になっていたな」


 無邪気に伸ばしてくる手と微笑み。

 遊ぼうと誘ってくれる仲間。

 喧嘩して仲直りができる友達。

 自分の居場所はここなのだと教えてくれた。


「力を持たない魔王なんて、他のみんなと変わらないんだと分かった時、俺は人であることを選んだ」


(ああ……本当に自分たちは似ている……)


 アリスはジョンの気持ちが痛いほどわかった。

 そして二人の目はルークに向けられる。


「ん?なんだよ二人して。ちゃんと話は理解しているぞっ!」


 あたふたと言い募るルークにぬるい笑みを浮かべる二人。


「なんかもう、ホノカちゃんじゃないけど、お前らくっついちゃえよ、みたいな?」


 アリスのつぶやきに反応したのはジョンだった。


「冗談でもヤメロ。お前と結婚するくらいにありえねぇ」

「表に出ようか、ジョン」


 なぜか一触即発な二人におたおたとするルーク。


「な、なぁとりあえず落ち着こうぜ」

「「落ち着いている」」


 二人に同じことをシンクロして言われたルークはもう涙目だ。


「お前らってこういう時はホント息ぴったりだよなっ!」

「さて、冗談はさておき」


 アリスは真面目な顔でジョンを見た。


「貴方の魂は魔王で、今考えているのも魔王なんでしょ?」

「ああ、そうだ。正確には魔王の一部だ。封印が解かれれば性格は変わる」

「意味わかんねぇっ!」

「うん、黙ってようかルーク。どういう意味なのか私にも教えて」


 頭を抱えるルークをよそにアリスは話を進めた。


「なんつーか、力に引っ張られるって事だ。魔王の力は悪意の結晶だから、俺自身がそれに染まっちまう」

「悪意の結晶?」

「簡単に言うと、神がいらないと捨てた祈りの結晶が集まって意思を持ったのが魔王だ」


 捨てた祈りとは、純粋なる邪な祈り。

 富を、愛を、何かを得るために誰かを害する純粋な祈り。


「自分の命と引き換えに恋人を殺したやつの死を願うってのが一番わかりやすいかな」


 純粋で美しいが悪意に満ちた願い。


「祈りってのは神の力の源、わかりやすく言えば食べ物だ。そういった悪意の結晶を受け入れちまうと悪意に染まって邪神になっちまう。だから神はそういった祈りを捨ておくんだ。で、それが溜まって魔王のできあがり」

「なるほど……。ん?じゃあなんでお前は人を殺したりしないんだ?」


 わかりやすいたとえに頷いたルークだが素朴な疑問を直球でぶつける。


「そういった感情も力と一緒に封印されているんだよ。というか、そういった感情が力の源だからな」

「普通に疑問なんだけどよ、魔王と邪神って何が違う?」

「単純に世界に関与する力だ。神は世界に干渉できるが魔王はできない。人を殺すことはできても天変地異は起こせないんだが……世界中の人間が悪意ある祈りをすれば神格化できんじゃねぇの?」


 他人事のようにジョンは言うが、内容は物騒だ。


「壮大で物騒な話ね。なんとなくだけど、結社シリーズの皆さんが躍起になって魔王復活を希望する理由がわかったわ」


 誰かの破滅を願い、叶えてくれる神様がいないなら作ればいい。

 なんとも罰当たりで神をも恐れぬ所業だろうか。


「俺は今の生活が気に入っている。できればこのまま人としての生を終えたい」

「魔王って長生きするんじゃねぇの?」

「体は人の物だから、魔王の力がなければ普通の人間と変わらん」


 アリスはその言葉に疑問を持った。

 力が封印されている状態は普通の人ならば、寿命も人と同じ。

 しかし魔王の封印は何百年単位だ。


「ねぇジョン……その、魔王っていつ復活するの?」

「いつだって復活しているぜ。ジョンになる前はソニアって女で風邪が原因で孫に看取られて死んだ。その前はアルフォンスって貴族だが政敵に毒を盛られて死んだ」

「えっ、魔王って常に地上にいるの?」

「魂の巡り方が違うだけで、死んだら別の器に入り込んで人として生活して生きてきた」


 封印が解けない限り、魔王が人の肉体に宿れば人の理に縛られるのだ。

 思いもかけずに魔王という存在の在り方を知ってしまったアリスは複雑な心境だった。

 魔王が純粋なる邪な祈りの結晶ならば聖女という存在は何なのだろうか。


「お前が気になっているのは聖女の存在だろう?」

「……ほんと、よくわかっているじゃない」


 アリスの考えなどお見通しだと言わんばかりのジョンとは対照的に、話についてきているのか怪しいルークは忙しく二人の顔を交互に見るべく首を左右に振っていた。






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