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モブでいいよ  作者: ふにねこ
第二章 修行
104/202

尻尾 1

「では、そっちの君もアリスの横に座ってくれ」


 個室に入るなり仕切るグレイに逆らう事も出来ず、ルークはアリスの隣に座る。

 ジョンはアリスのために椅子を引くと、そのまま斜め後ろに下がって壁際にひかえた。

 グレイは二人の前に座る。

 ひじをつき、指を組むとこちらに目をやった。

 貴族向けの落ち着いた個室があら不思議、取調室に一変する。


「あの男と何を話した?」


 洗いざらい話せ、という副音声が聞こえた気がして、アリスは深いため息をついた。

 全部を話し終えると、グレイはふむ、と何かを考えるように目を閉じた。


「興味深い」


 目を開けるとグレイはうっすらと微笑んだ。


「君が強者だと認める男か。戦ってみたいものだ」

「バトルジャンキー……」

「だが、あれはうかつに手を出していい感じではないな」


 ごほんとわざとらしく咳をしてグレイは話を戻す。


「後ろから見ていたが、隙が無い。しかも私に気が付いていた。尾行も撒かれるだろう……いや、最悪、死ぬかもな」

「えっ、わかってて尾行を付けたの?」

「それが仕事だ」


 アリスとルークはドン引きだ。


「ブラックすぎるよ……」

「俺、兵士じゃなくてよかった……」

「さて、アリス。君の話を聞いてまず思ったのは男の立ち位置だ。そっちの男に懸想しているとは思えない。むしろ妄信的な敬愛だな」

「そうなんですか?」


 だとしたら乙女たちはがっかりだ。

 いや、そっちから色々と妄想を発展させてくれるから別にいいのかもしれない。


「アリス、まじめに聞いているのか?」

「ああ、いや、ちょっとそのう、現実逃避を」


 グレイの鋭い視線に苦笑する。


「私を取り巻く状況で、主と宿敵っていったら魔王と聖女ですよね」


 ずばり核心を突くアリスにグレイは小さく頷いた。


「あの男が魔王関係者だとすれば、君に聖女の気配を感じたのもうなずける」


 そして二人の目がルークに向けられた。


「えっ、なに?」


 視線を向けられたルークは訳が分からず首をかしげる。


「ないわ~」

「いや、目覚めていないだけかもしれない」

「私と同じで、ルークについた匂いを勘違いしているだけじゃないんですか?しかも私、二重スパイだと思われたっぽいですし」

「なんだよ二人して、何が言いてぇんだよっ」

「ルーク、あなたは魔王なの?」


 直球な質問にルークはぽかんとした間抜け面になった。


「どこをどーすりゃそうなる?俺とジョンとあの男が三角関係だって言われたほうがまだ現実味があるぜ」


 それでいいのか、ルーク。

 思わず突っ込みを入れそうになったアリスだが自重する。

 しかもそういうふうに見られていることに気が付いていたのかと驚いてもいた。


「まぁ、どっちもありえねーけどな、あははははは」


 爽やかな笑い声にそっとアリスは視線を外し、生ぬるい笑みを浮かべた。

 気が付いていないようだ。


「ええっと、伝承が正しければルークは違うわよね」


 魔王は死んだ子供に乗り移って器を得て、神殿の封印を破って力を得る。

 それが一般的なおとぎ話として語り継がれている常識だ。


「おう。俺も母さんもピンピンしてたぞ」

「そうなのか?」

「俺の母親は冒険者で、ギルドで産気づいてそのまま受付で産んだから目撃者は多い」


 どんな状況なんだよとグレイは思ったが、口にはしなかった。


「安産で俺もすぐに乳を飲んだとか。古株に聞けば直接見たやつもまだいるんじゃねぇのか?」


 なんとなくルークが冒険者にならなかった理由がわかったグレイだった。

 冒険者になってギルドに顔を出すたびに自分が生まれた経緯をからかわれるなんて想像するだけでもうんざりだ。


「んでギルドの保育園に世話になってたんだが、母親がある日、バナナの皮に足を滑らせたひょうしに通りすがりがりの馬車にぶつかって弾き飛ばされて、運悪く看板をつるす鉄棒にぐっさりと刺さって死んだんだ」


 もはやかける言葉もないグレイにルークは笑って見せた。


「冗談みたいだろう?んで孤児院送りになって今に至るってわけだ」


 古参がいる限り、冒険者ギルドには絶対に行きたくないルークの気持ちがよくわかる。


「な、なかなか壮絶だな……」

「そんなわけだから、死に戻りだったら誰かが俺に言っているはずだ」


 いたいけな小さな子供をからかって遊ぶために。


「そんな話、聞いたことがないから、ルークは絶対に違うわ」

「では彼も同じように魔王と接触している可能性があるというわけか」


 それはつまり、ルークの身辺を洗うということだ。


「協力を頼めるか?」

「もちろん」

「アリス、聖女とはいつ接触した?」

「昨日、昼過ぎにお茶をしたのが最後」

「では接触した人物をすべて書き出せ。客は分かる範囲でいい」


 わからないことをあれこれ考えても仕方ないのでグレイは話を終わらせた。


「アリスは俺達が送るから、アンタは先に帰っていいぜ」


 ルークの言葉にグレイが眉を顰める。


「どうせ陰から護衛しているんだろ。アンタがいる必要はないし、アイツはアリスが味方だと勘違いしているみたいだから大丈夫だろう」

「わかった。ではその言葉に甘えよう」

「いいんだ……」


 あっさりと護衛を放棄したグレイにアリスが驚くが、グレイは涼しい顔でルークを見てからアリスに視線を戻した。


「君の腕は知っているし、過去のやんちゃも把握している」


 心の中でアリスはムンクの叫びになっていた。

 黒歴史を思い出したアリスの顔が赤くなる。


「もちろん影に護衛はついているが、君のお友達の実力も把握している」

「おう、任せとけ」


 にかっと笑うルークに脱力するアリス。

 信頼されていると喜ぶべきか、乙女としては嘆くべきか。


「それでは私はあの男を調べに行こう」


 この一言で解散となった。

 グレイが部屋から出ていくのを待ってから、アリスは部屋の隅でひたすら気配を消してじっとしているジョンを振り返った。


「話をしましょう、ジョン」

「だよな、ジョン」


 ルークも意味ありげに相棒を見る。


「ああ、そうだな。話をしよう」


 ジョンは目をさらに細め、口元を緩める。


「俺が魔王だ」


 アリスとルークの目が大きく見開かれた。







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